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我が家というか実家の犬。もうじき16歳になる。この週末、帰省していたのだけど、ひと月ちょっと前に帰ったときに比べると衰え方がすさまじい。自分の足で踏ん張れないので、お皿に首を伸ばして食べるということができない。母親が口元まで運んでやると食べれる。

もともと白内障で完全に目は見えないが、それは前の犬も同じ。同じといえば、後ろ足が衰えて立てなくなりつつある、というのも同じ。

犬だから目が見えなくても何とかなる。でも足の衰えは……。眠っていると安らかな顔をしているけど、起きているとしんどそうにハアハア息をして、何だかかわいそう。

非難されるのを覚悟で言うが、安楽死させてやったらいいんじゃないかと思った。


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昨日の朝は夢でうなされていた。泣き声が私が寝泊まりしている部屋まで聞こえてくる。犬を飼ったことのある人なら知っているだろうが、犬が夢を見てうなされるなんて人間並みにしばしば。それ自体は別にいいんだけど、どうしてもいつも不幸そうな顔をしているのを見ていると、夢の中でもつらい目に遭ってるんじゃないかと考えてしまう。

安楽死。前の犬のときは考えもしなかったなぁ。あのときは立てなくなって半年ほど寝たきりだった。だからビニールシートを部屋中に敷きつめてどこで糞尿を垂れても掃除ができるようにしていた。いまの犬よりよっぽどひどかったのに安楽死という発想はなかった。

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(3年ほど前。いまはもう足で顔を掻くなどとてもできない)

いや、本当にそうだろうか。前の犬が死んだのはもう四半世紀近く前。思い出は美化されるものだから、自分が鬼畜のような発想をしたことなど無意識に「なかったこと」にしている可能性が高い。

とはいえ、そのころ友人の家に遊びに行って寝たきりの犬の世話をしているというと、「犬にそこまでしてやるべきなのか。安楽死させてやったほうがいいんじゃないか」と言われ、ムカつきすぎて何も答えなかったことをはっきり憶えている。

そもそも安楽死といってもほんとは安楽死などではないのだ。保健所での殺し方は部屋に二酸化炭素を充満させて窒息死させるのだ。苦しいことこの上ない。

しかし、私はいまその友人と同じことを考えている。ほんの数分の苦しみを与えてでも死なせてやったほうがいいんじゃないか、と。

死んだほうが楽。それは20年前に死んだ祖父の最期を知っているからかもしれない。寝たきりだったので褥瘡がひどく、食べるために起きるときも激痛で悲鳴を上げ、また寝るときも悲鳴。安楽死を合法化してほしいと本気で思った。

犬ならそんな法律がなくても保健所に連れていけば殺してくれる。しかし、この手で引き渡すと考えるとやはり「いくら何でもそれは」と思う。死んだほうがまし。ほんとにそうか?


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こんなふうに笑った顔を見せることはなくなったけれど、犬は喋れないから本音がわからない。不幸そうな顔をしているといっても、私の目にはそう見えるというだけの話かもしれない。

人間の目には自分の見たいものしか見えない。

アリストテレスの言葉だが、では私は愛犬の不幸を見たいのか。まさか。ではなぜ? 見たいものが見えているんじゃなくて、やっぱり本当に不幸なのでは?

自分の命ですら自分だけのものではない。自分を心配してくれる人たちと分かち合っているものであり、自分で自分の命を決めてしまうなど愚の骨頂。などというのは、自殺未遂の経験がある私が言えた義理ではないが。

しかしながら、自分以外の生き物の、それも15年以上もかわいがってきた家族の生き死にを自由にしようなんて傲慢にもほどがある。『ブラックジャック』にも「人間が生き物の生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね?」と主人公が恩師に言われるシーンがあった。

不幸そうに見える。少しも楽しそうじゃない。

じゃ、「幸福」って何? 自分が幸福かどうかもよくわからないのに、他者が幸福か不幸かなんてどうしてわかる。

わかったとして、この手で保健所に連れて行けるかと考えれば、即答で否と答えるしかない。

心は千々に乱れる。

愛犬を抱く。その温かみを幸福と呼ぶのかもしれない。でもそれは私の幸福にすぎない。犬がもし不幸だとしたら? 人間のエゴのために苦しみを与え続けることになる。

考えてみれば、自然界ならあの状態ではとても生きていけない。人間に飼われているから生きていられるだけの話。もうとっくに死んでいるはずなのに無理やり生かしているという可能性はないか。

でも本当にそうだとして、この手で保健所に連れて行けるかと考えると、即答で否と答えるしかない。

前の犬のとき、こんな堂々巡りが続いていたような気がする。死ぬまで? 死ぬまで。

死ぬな。死なないでほしい。

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愛犬日記(死に場所を探しているのか)


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