いま書いている小説の主人公は「ご飯を食べる男の人が好き」という設定なんですけど、そういうことを言う女性って多いじゃないですか。

それはなぜだろうと考えていたら、「男らしさ」なるものへの否定の気持ちじゃないか、と思い当たりました。


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作ったものを全部食べてくれる
ちょいと検索してみると、たいていの女性がご飯をいっぱい食べる人が好きなのは、じぶんが作ったものを全部食べてくれるからじゃないか、という意見が散見されます。

確かにそれはそうでしょうね。一度でも他人に手料理を振る舞ったことのある人ならわかるはずですが、自分が作ったものを残されるととても悲しくなりますよね。まずかったのかな、とか。もともとお腹減ってなかったから、などと言われても、それが本当であっても社交辞令にしか感じられない。

だから「作ったものを全部食べてくれる」というのは大いにわかる。でもこれは「料理は女性の役割」というジェンダーの問題に抵触してくる。

「好きなタイプは?」と訊かれた女性はそこまで考えずに答えているだろうことは明白ですが、やはりこの解釈は私は好きではない。

では、次の理由はどうでしょうか。


元気・健康的・力強い
ご飯たくさん食べる人は見るからに元気で健康的で力強い感じがする。これもよくわかる。

なぜご飯をたくさん食べる人は元気で健康的なのか。そんなの当たり前じゃないかという声が聞こえてきそうですが、ことはそう単純ではありません。

これは次の議論に重なってくることですが、ご飯を食べるのって体によくないことなんですよ。

え、なぜ? と思った人のほうが圧倒的に多いかと思います。

ご飯を食べると消化しないといけませんが、消化において一番大切なことは何だと思いますか?

炭水化物やたんぱく質を最小単位のブドウ糖やアミノ酸にまで分解して吸収しやすくする。そんなことは二の次です。

食べ物って自分以外の生物の死骸ですよね。だから自分以外の遺伝子がたくさん詰まっています。その遺伝子をそのまま取り込んでしまったら、臓器移植で拒否反応が起こるのと同じで下手をすると死んでしまう。

だから、吸収する前にすべての遺伝子を完膚なきまでに叩き潰す必要があるのです。そのため食べ物を摂取すると体に大きな負担がかかります。暴飲暴食が体に悪いのはそういうことです。

だから、「ご飯をたくさん食べるから元気で健康的」なのではなく、「元気で健康的だからご飯をたくさん食べる」のが本当ではないか。つまり、ご飯をたくさん食べる人は健康的だから好きなタイプ、というのは違うのではないか。

でも、ご飯をたくさん食べる人って見た感じがとても元気そうに見える。四の五の理屈っぽいこと言ってるけど、結局そういう「印象」の話では?

と言いたい向きもあることでしょう。

そこで私が考える「ご飯をたくさん食べる人が好きなタイプの真相」を述べましょう。


「男らしさ」からの解放
ちょっと前に「コロナ禍でテレワークばかりになって困ることは?」と奥さんにインタビューした番組を見たんですが、「一日中ずっと家で仕事ばかりしてるのが気に入らない」と言っていました。旦那さんは「でもねぇ、遅くまで仕事するのが男らしさだと思ってるから」と堂々としていました。

えらく古い価値観の人がいるんだなと思いましたが、こういう人っていまだに多いような気もします。

でも、忙しく遅くまで働くとあまり食べられないじゃないですか。

たいてい昼休み前や退勤前にはお腹ペコペコになる私ですら、猫の手も借りたいほど忙しいときは食欲など感じなくなるし、昼休みや帰宅後もあまりガツガツと食べたりしません。

前述のとおり、食べることは体によくないので、疲れているとあまり食べられないのです。そもそも食欲がわかない。脳が「いまたくさん食べたら体に負担がかかりすぎる。だからあまり食べるな」と指令を出すのでしょう。

やはり元気だからたくさん食べるのです。たくさん食べるから元気なのではない。

夜遅くまで働くことが男らしさだと勘違いしている人は決してご飯をたくさん食べられない。

女性は子どもの頃に父親を見て自然と感得するんだと思います。お父さんは仕事で疲れているとあまり食べずに寝てしまう。疲れてないときはたくさん食べてると。長じてからも友人や恋人、夫から同じことを感得する。

だから、「ご飯をたくさん食べる人が好き」というのは、疲れを家にもちこむほど働かないでほしい、家に帰ったらご飯をたくさん食べられるだけの余力をもっていてほしい、という女性側の願いなんだと思います。

それは旧来の「男らしさ」の否定であり、男らしさなど幻想にすぎないということでもあるのだと思い当たった厳冬の夕暮れでした。




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