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小説を書き始めました、三作目(女子高生の胸キュン?)
三作目の小説が順調に進んでいます(女子高生は誰と出逢うのか)


順調に進んでいると言っていた小説の三作目。このところ止まっていました。

というのも、一人称で書くべきか三人称で書くべきか、少しもわからなくなってきたからです。

私はもともと脚本家を目指していたので、映画は三人称しかありえないから三人称でしか書いたことがありませんでした。でもいつか小説を書くことがあったらそのときは永遠の憧れである一人称で書こうと思っていたんです。

それがまぁ良くも悪くも実現したのが3年前の人生初の小説で、あれは二人称でしたが、本質的には一人称でした。そして昨年、二作目の小説は普通の一人称で。

だから今回のアイデアを思いついたときも一人称で書くのかなぁ、という漠然とした思いしかなく、つまり一人称で書くべきだという確固たる信念がなかったんですよね。

こないだ感想を書いた桐野夏生さんの『日没』は一人称でしたが、あれは、いきなり拉致監禁された主人公が自分がどうなるかわからない、周りの言っていることが本当かどうか皆目わからない、という世界を描いているので、一人称が最適でしょう。

他人が書いた作品の「一人称で書いた理由」「三人称で書かれた理由」はわかるんですが、自分が書こうと思っている題材にふさわしいのがどちらかとなると、これがまったくわからない。

職場の同僚さんにそれを言うと、

「それはまだアイデアが膨らんでいないからではないか」

と言われました。昔の私なら激昂していたでしょうね。その人は「私は書いたことがないけど」と前置きしていましたが、「書いたこともないくせに」と怒りの言葉を投げかけていたことでしょう。

自分は書ける人間である。という優等生意識があったのでした。書いたことにない人間、書けないと悲鳴を上げる人間を見下していました。

しかし、東京のある高名な脚本家にその鼻っ柱を折られたのがもう7年近く前。

「もっと謙虚にならなきゃ」

そう言われてそれでも天狗意識が抜けきらなかった私は都落ちを余儀なくされましたが、いまはもうそのような不届き千万な態度はあまり出ません。あまり、ということは、少しはあるということですけど。

でも「アイデアが膨らんでいないからではないか」という意見に対し、「いやいや、アイデアが膨らんできたからわからなくなったんだよ」と思いこそすれ、まったくこいつは書いたこともないくせに! という傲慢な気持ちは少しも湧き上がってきませんでした。あ、そういう見方もあるのか、と。

しかし、帰宅してよくよく考えるに、やはりアイデアが膨らんでいないとは露とも思えず、やはり、アイデアというか、主人公しか明確でなかったのに、周囲のいろんなキャラクターが膨らんできたから、主人公の目線だけで書く一人称ではなく、全員を客観的に描く三人称のほうが適当なのではないか、と思い始めたわけです。

その同僚さんはこうも言いました。

「とりあえずどちらかで書いてみて、ダメなら別の方法でやるとか」

うーん、そういう見切り発車はよけい時間がかかるからダメなのだよ。と思いこそすれ、わかっちゃいない! と腹を立てることはなくなりました。

太宰治の『女生徒』に対する憧れもあって、若い女性の一人称で書きたい気持ちは最初からあるんですが、作者の欲望など作品にとってはどうでもいいことで、ただ題材にふさわしい文体は何か、という観点で考えないといけないわけですけど、答えが見つからない。

と思っていたら、当初一人称で書くならこの書き出しで、と思っていた一文をはるかにしのぐ書き出しを思いついてしまったのでした。

先日、パトリシア・ハイスミスの『ヴェネツィアで消えた男』を読んだとき、解説で「私は状況や人物の説明より、具体的な行動から書き始めるのが好きだ」というハイスミスの言葉が紹介されていて、その瞬間に「見えた」のでした。ハイスミスは主人公ほかキャラクターを徹底して冷徹に見つめる三人称の文体でしか書いたことないはずですが、私はやはり一人称への憧れからか、主人公の目線で主人公の行動を描く書き出しがひらめいた。

本当にその書き出しでいいのかどうか。本当に一人称で書いていいのかどうか。三人称のほうがよくないか。

という疑問はあるものの、もうその書き出ししかありえない感じになってきたので、とりあえずその書き出しで書いてみようと思います。ダメならそのときは三人称で書き直すということで。

というわけで、同僚さんの言葉に従った形になったのでした。素人の意見はだから侮れない。少しは謙虚になれたでしょうか。

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創作の極意と掟 (講談社文庫)
筒井 康隆
講談社
2017-07-14


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