ミシマ社から出た益田ミリさんの新作『今日の人生2 世界がどんなに変わっても』。むさぼり読みました。
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日常の些細なひとコマを類まれな感受性で救い上げた珠玉の短編マンガ集『今日の人生』の続編。

この第2巻も素晴らしいひとコマの数々で彩られています。


★昼下がりのレストラン。
「視野が狭いんだよ、あの人! もっと視野を広げないと!」と怒っている人の声がめっちゃ大きかった今日の人生。


確かにいる、こういう人。意見があるのは結構なことだけれど、自分を客観視できていない。翻って自分はどうだろうか。同じことを思われていないか、と思った今日の人生。

★花粉症で目がかゆいあまり、適当なカフェに入って濡らしたティッシュを目に載せて冷やしました。もう誰にどう思われてもいいと思った今日の人生。

私も花粉症ですが、そこまで目がかゆくなったことがない。でも気持ちはわかる。いまはマスクをするのが常識だし、コロナ以前でも伊達マスクなどマスクをしていても不審者扱いはされなかったけど、ずっと以前は電車でマスクをしていたら自分の両隣だけが空いているなんて珍しいことではありませんでした。時代は変わった。世界は変わった。と思った今日の人生。

★薦められて読む本は、自分で選んだ本とはまた違う読み方になってる気がします。自分自身が追うストーリーと、薦めていた人が落としていたであろう視線が本の上にはあるのです。

これもよく思う! 私は人から本を借りることはあまりないんですけど、読む本のほとんどは図書館で借りた本か古本屋で買った本なので、自分の前に誰かが目を通しているものばかり。だから線を引いていたり書き込みがあったりすると「ふうん、前の持ち主はこういうことを考えながら読んでいたのか」と参考になります。(もちろん図書館の本にそんなことをしてはいけません) 

★電車の中の小学生。
「クレオパトラの死に方は?」「毒蛇に自分をかませた」「グレース・ケリーの死に方は?」


すごいクイズ。しかも答えてる。でも何かこれ、実際に見かけた風景というより「作ってませんか?」と言いたくなった今日の人生。

★電車の中で親子が眠っていたんです。オトーさんの肩にぴったり頭をのせ、安心しきっている今日のことをこの子は憶えていないだろうけども、何かは残っているんだと思った今日の人生。

コメント不要。というかコメントしちゃダメ。何度も味わいたい名作。

★大評判の映画を見に行ってつまらないとき、作った人よりも面白いと言うてる人のほうに距離を感じてしまう。

これも私がいつも思っていることと同じ。ツイッター界隈で絶賛されている映画を見に行ってそれほどでもないと、絶賛している人たちと自分との間には深い深い溝があるような気がして淋しくなるのです。

★前を歩く年配の女性二人。
「質素でもいいからさー、あたし、三食違うものが食べたいのよ」


ある歌手が下積み時代は毎日三食カレーライスだったというのを聞いて「自分だったら絶対めげてる」と思った当方としては、わが意を得たり! な一作。

★会社帰りの女性たち
「明日朝早いんだっけ」「5時半起き。6時までゴロゴロ」ゴロゴロは必要だと思った今日の人生。


貧乏性なのか、いつもあくせくしてしまう私。もっとのんびりしたらいいのに。と自分で突っ込みながらも今日もあくせくしてしまう。無駄って大事。だから今日はたくさん昼寝した。自分をほめてあげたい今日の人生。

★カフェで聞こえてきたセリフ
「ようやく人生のウォーミングアップが終わりましたよ」


これはちょいと前にはやったマンガ『俺はまだ本気出してないだけ』みたいな感じですかね。私もこういうこと堂々と言えたら楽なのにニャ、と思った今日の人生。

★よく晴れた日曜日。充実した休日を過ごさなくてもいいんだな。と、どこかでホッとしている私がいるのでした。

これは2020年のコロナ時代に入ってからの作品で、充実した休日を過ごそうと思ったら三密もソーシャルディスタンスも守れない。だから……ということなんですが、コロナ以前以後に関わらず、私は大学に行くのをやめてからこっち、ろくな職種に就けないので給料は同世代よりかなり低い。社会的地位なんかないに等しい。だから仕事は生きるための仮の姿で、アフターファイブこそ本当の自分と思って生きてきた気がします。

だから「充実した休日を過ごさなきゃ教」という宗教にはまっていました。充実した休日を過ごすのがほとんど義務だった。益田ミリさんも同じ宗教活動をしていたようですが、コロナがそんな宗教を否定してくれた。人生、何が幸いするかわかりまへんな。

★「なぜ描くんですか?」というインタビューを受ける夢を見た。現実の世界で同じことを聞かれたら何と答えるんだろう? よくわからないけど「好きやから」しかないな、と思った今日の人生。

私も「なぜ映画を作りたいんですか?」「なぜ映画作りのなかのシナリオをやりたいんですか?」と訊かれたことがあるけど、そんなことを考えることにどれだけの意味があるのか少しもわからなかった。映画を作りたい衝動、シナリオを書きたい衝動を大事にしていればそれでいいと思っていた。とはいえ、夢破れたいまとなっては、もしかしたら真剣に考えておくべき問いかけだったのではないか。と思った今日の人生。


あと、この本にはマンガ以外に、作者の言葉がそのまま箴言集のように載ってるところがいくつかあります。

★冬の朝 水たまりの薄い氷 そっとはがした世界の部品

うーん、これはもはや俳句ですね! 五七五ではないけどいわゆる自由律俳句。何度も味わいたい一句。

★たったひとつだけ
どんなことでも
おまえの願いを叶えてやろう
魔法使いに言われたときは即答できる


私も即答できる。何をお願いするかって? それはヒミツです。

★テレビを見て笑った自分の声が
思った以上に楽しそうで
もっと聞いていたと思った
今日の人生。


これは未経験だけど、常に自分を他人として同時に俯瞰で見つめる作者の姿勢には共感するところ多々。

元日からこんな素敵な作品を読めるなんて、2021年は幸先いいスタートと言えそうです!


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