ツイッターで絶賛する人続出で期待が高まっていたので、シネマ神戸さんまで『守護教師』との2本立てに行ってきました。


『ブルータル・ジャスティス』(2018、カナダ・イギリス・アメリカ)
脚本・監督:S・クレイグ・ザラー
出演:メル・ギブソン、ヴィンス・ヴォーン、ウド・キアー、ジョン・ドンジョソン


S・クレイグ・ザラーという監督さんは名前すら知りませんでしたが「暴力の伝道師」の異名を取り、さらにこの作品はラジー賞で「公共破壊貢献賞」なるものを受賞しているということを知り、期待は否が応でも高まりました。


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しかし心配もありました。二人の刑事が停職中に強盗から金を強奪する、という物語のあらましは面白そうなものの、この題材で159分という上映時間はあまりに長すぎるのではないか、と。

心配は杞憂に終わってくれませんでした。


停職処分まで30分⁉
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強盗団の一味が幼馴染とセックスするファーストシーンで始まり、彼と母親との諍い、弟との再会などが描かれ、主役二人の刑事二人の強引な逮捕シーンからドン・ジョンソン演じる上司(なぜこんな役で⁉)から6週間の停職を言い渡されるまで、何と30分超。これはいくら何でも長すぎます。ここまでを10分でやらないと。

このあとで見た『守護教師』はボクシングのコーチだった男が暴力沙汰で失職し、ある高校の教師として赴任するところまでものの2分とかかりません。『守護教師』も特に面白いとは思わなかったけど(でもマ・ドンソクと女子高生役の女優の顔がとてもよかった)やはりあの手の話で100分という上映時間は適切だと思うんですよね。欲を言えば90分くらいかな。

それはともかく『ブルータル・ジャスティス』の159分は長すぎる。最後の銃撃戦も長いですよね。

そもそも、あの黒人の日常みたいな描写がなぜファーストシーンなのでしょう。どうせ日常の描写から始めるのなら主役メル・ギブソンから始めるべきでは?


なぜ人物の顔に光を当てない⁉
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この映画はまた、私が前々から言っている「最近のアメリカ映画は人物の顔にろくに光を当てない」という見本のような映画でした。

参照記事↓

上の画像は最初の逮捕のシーンですが、ちゃんと光が当たっています。あれ? 私が見たこのシーンでは二人とも薄暗いなかでろくに表情が読み取れなかったけど……?

シネマ神戸さんはたまに上映状態がよくないから、そのせいかな? と思ったものの、直後に見た『守護教師』はマ・ドンソクやかわいい女優の顔がはっきり映っていたのだから『ブルータル・ジャスティス』は私が見た通り、本来薄暗い映画なのでしょう。


ポール・トーマス・アンダーソンと同じ匂い
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私は『ブギーナイツ』以外のポール・トーマス・アンダーソンの映画にまったく乗れない人間ですが、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』や『ザ・マスター』『ファントム・スレッド』と同じ匂いを感じます。

まず役者にとても色気がある。メル・ギブソンもヴィンス・ヴォーンもあと名前を知らない黒人俳優にしてもすごく色気があります。

色気があるならいいじゃないかという声が聞こえてきそうですが、それはそれでいいものの、その色気に監督自身が酔っている気がするのです。

編集では鬼にならなければなりません。「せっかく撮ったんだから」「せっかくいい芝居してるんだから」という「せっかく」というのは厳しく戒めないと冗長になってしまいます。

私が卒業製作で編集を務めた作品では、あるシーンをまるまるカットしたんですが、「せっかく撮ったのに」みたいなことをさんざん言われました。しかし作品のためには不要なシーン、不要なショットはすべてカットすべきです。

ポール・トーマス・アンダーソン作品にしろ『ブルータル・ジャスティス』にしろ、役者の芝居を重視しすぎていて、いいかげんプロットを前に進めてほしいと思っても、長々と色気たっぷりの役者の表情を見せ続けられるのだからたまりません。

最近の映画監督は「どういう芝居を作るか」より「どう撮るか」「どう編集するか」ばかりを重視する傾向が強く、「演出」という言葉は本来「演技指導」のことなのに、映像演出にばかり重きを置いていて私はそれが大いに不満なんですけど、S・クレイグ・ザラーやポール・トーマス・アンダーソンは芝居に重きを置いているのはいいのですが、重視しすぎていて作品が冗長になって退屈してしまうという本末転倒なことが起こってしまっています。

『ボーン・アルティメイタム』のような役者を殺すことしか考えていない映画よりはましですけどね。

先日、『ザ・ハント』を見て「これよ、これがアメリカのアクション映画だ!」と狂喜乱舞しただけに、期待値の高かった『ブルータル・ジャスティス』が期待外れに終わったのは何とも残念です。


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