山本政志監督の新作『脳天パラダイス』を見てきました。期待にたがわぬ映画で大喜びです。


『脳天パラダイス』(2020、日本)
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脚本:金子鈴幸&山本政志
監督:山本政志
出演:南果歩、いとうせいこう、古田新太、柄本明


借金苦のために家を手放し引っ越さなければならなくなった一家。引っ越し屋が来る間に娘が家の写真付きで「今日、この家でパーティーをします。みんなで参加しよう」みたいなツイートをしたら、たまたま拡散して、次々にいろんな人がやってきて宴会が始まり、やがて踊るマハラジャ状態に至るという、山本政志監督らしいアホな傑作でした。


思わず笑ってしまったところを箇条書きで
・最初にやってくるのがゲイカップルで「私たちを祝ってくれる人を探しています」というセリフ。

・宴会をよそにヤリまくってばかりのカップルを老夫婦が正座して眺めていて、「若いですわねぇ」「思い出すなぁ」というやりとり。

・南果歩が子どもと一緒に風呂に入っていたら男の子がいなくなり「溶けちゃったのかしら」というセリフにはゲラゲラ笑ってしまったのだけど、場内で笑っていたのは私だけだった。

・ついでに、南果歩の一挙手一投足すべて。この人はこういう「ええかげんな役」をやらせると天下一品だと思う。

・何の意味もなく出演している古田新太が焼きそば作りながら「言っとくけどまずいよ」というセリフ。

・自分たちの結婚式のはずだったのに(その頃はまだ人が少なく淋しかった)いつの間にか賑やかなミュージカル葬式になっていることに腹を立てるゲイのイライラっぷり。

・南果歩の今亭主と元亭主が一堂に会して「何かこういうのもいいなぁ。一夫多妻ならぬ多夫一妻というか」と言ったら、それを聞いていた三角関係のゲイが「俺たちも」みたいな感じになるのに、すでに首を刺してしまっていてオロオロするところ。


最後のほうの生きてるコーヒー豆が怪獣になったりするのは好みじゃなかった。ああいうので一気に終幕にもっていくやり方は好きになれない。もっととぼけた味だけで勝負してほしかったな、というのが正直なところ。


今日は舞台挨拶だった
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今日行った元町映画館ではちょうど舞台挨拶の日で、それを忘れていた私は劇場に向かう際、青ざめました。完売だったらどうしよう。元町映画館はちょいと辺鄙なところにあるから不便なんですよね。でも行って整理券をもらったらかなり前のほう。コロナ第三波襲来ということでガラガラでした。

山本政志監督の第一声は、

「さっき行ってきた大阪の劇場では人が死んでました。ウソです。こんな状況のなかわざわざ劇場まで足を運んでくださってありがとうございます。見たらめちゃアホな映画で失望する人がいたりして」

みたいな感じでしたが、なかなかよかったんじゃないでしょうか。

質疑応答では、

「ヤリまくりカップルが部屋の物を盗むとき、博多人形とか福岡の物ばかり盗りますが、なぜあそこまで福岡を推してるんですか?」

という質問が飛び出ました。え、そうなの? まったく気づかなかった。というか博多人形がどんな物か知らない。と思ったら、山本監督も、

「いやいや、まったく! まったく何にも考えてなかったんです。すいません、子どもの頃に交通事故に遭ってるんで論理的なことは弱いんです。これは次の舞台挨拶で使えるな。あれには実はこういう意味があって、なんてね」

と意味がないことを強調してましたね。自らのアホをさらすことを厭わない。だから素敵な映画を撮ることができるのでしょう。

でも、「論理的なことには弱い」というのはどうなんでしょうね。

私は先日、生涯二作目の小説を書きましたが、すごく真面目な内容でした。もとは脚本家志望で9年前に佳作をもらったんですけど、それは下ネタ満載のアホすぎるほどアホなコメディでした。

最近、その両方を職場の同僚さんに読んでもらったんですが、小説のほうは「すごくしっかり書いてるね。シナリオのほうはふざけた書いたの?」なんて訊いてくる人がいるんですよ。ったく。

ふざけて書いたように見えるもののほうがよっぽど計算しないと書けないのに。世間はアホでバカでデタラメなコメディに厳しすぎるのではないか。

かつて大島渚は、「論理を推し進めた果てに立ち現れる『超論理=詩』を発見せよ」と言った。

『脳天パラダイス』は「詩」だと思う。文学の詩とはぜんぜん違うし、いわゆる映像詩というのとも違う。映画にしかできない「詩」。だってデタラメなんだから。論理を超越してるんだから。詩に決まっている。

ところで、昔、同じ元町映画館さんでの舞台挨拶で、52稿まで脚本を直したとか自慢みたいに監督と脚本家が言っていて、そんなのどうでもいいというか、観客にとってはできあがった映画が面白いかどうかが問題なのであって、裏でどれだけ苦労したとかそんなのわざわざ語ったうえで見せられても……と作り手を目指している人間として激怒した思い出があるので、今日のどこまでもアホに徹した山本政志監督にはとことん惚れてしまったのでありました。脚本直しの話もちらっとあったけれど、予算的に無理なホンを直そうとしたらもっと無理になったとかいう笑い話でしたしね。

素敵な映画をどうもありがとうございました。




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