先日、『この町ではひとり』を読んだので、今度は同日発売だったらしい『きょうも厄日です』の第1巻を読みました。しかし暑いっすね。

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これも面白かった!
コミック・エッセイという位置づけですが、『この町ではひとり』が思い出したくない街・神戸での思い出したくないあれやこれやについての物語だったからか、トーンが暗かったのでそういう作風の人だとばかり思ってましたが、本領はおそらくこっちなのでしょう。かなりコミカルです。

コミカルといってもエッセイだから自分自身を嗤うのです。他人を嘲笑うお話なんて誰も読みませんものね。

全部で20以上のエピソードから成る短編集ですが、特に気に入ったものを挙げると……


「書字表出障害」(ディスグラフィア)
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山本さほさんは漢字が書けないらしいんですね。小学生レベルの漢字なら書けるとのことですが、それ以上のレベルとなると無理。マンガ家になったいまでも常に左手に辞書をもっているとか。左手で調べて右手で書いているらしいです。

学習障害のひとつらしいですが、他にも、

・字が読めない
・計算ができない
・カタカナだけ読めない

などなど、さまざまな種類があるそうです。(カタカナだけ読めないというのは初めて聞きました。字が読めないのは「ディスレクシア」といって有名ですよね。トム・クルーズやアインシュタインなどがそうとか。他にもいっぱいそういう有名人がいるらしい)

山本さほさんは、特にサイン会が苦手らしく、相手がじっと自分の手元を見ているから緊張度マックスでよけいわからなくなるらしい。そういうときはいつもなら書ける小学生レベルの漢字も無理になってしまうとか。

私はそういう障害が何もないので恵まれているんだな、と思う反面。実は少しも恵まれていないとも思うのです。

なぜならば……


「運」をもっている山本さほ
高校生の頃にバイクの免許を取った作者は、中学の頃スクールカースト上位だったイケメンくんと再会する。で、彼を後部座席に乗せることになるんですが、彼が乗った途端、車体が傾いてしまう。ここでこけたらあまりにかっこ悪すぎると思った作者は火事場の馬鹿力を発揮して160キロの車体を足で支えた。が、このときマフラーに密着した足が重度のやけどを負ってしまう。全治何と1年!

他にも、マッサージが大好きな作者が入ったマッサージ店で「私はとてもうまいんです」と自慢ばかりするマッサージ師にものすごく力の入ったマッサージを受けるんですが、終わって足を見たら何と内出血だらけ。全治1か月。

さらに、巻頭にあるエピソードですが、まだデビューして数年しかたっていない作者は、無名時代にSNSにプライベート写真をたくさんアップしていたらしく、それを手掛かりに何者かに住所や家族の名前などあらゆる個人情報を特定されてしまっていた。

などなど、不運な毎日ばかり送っているかのよう。

でも、マンガ家としては、特にエッセイ漫画家としては不運な自分を嗤う作品のほうが面白いに決まっているわけで、「山本さほは幸運な人生を歩んでいる」といっていいんじゃないでしょうか。

ネットで個人情報を特定されていた件では、ある先輩が怒りに任せてリプを送ったら静まったとか。普通なら怒りを買って刺されたとしても不思議じゃないのに、それはなかった。ここぞというときに本当の「幸運」に当たるんですから、この人の運は相当なものなんじゃないか。うらやましい。

これから『半沢直樹』を見るのでもう時間がありません。

他に気に入ったエピソードは『おぎぬまX』『岩手』『切ない恋のお話』です。

山本さほ、これから一生追いかけていくマンガ家さんになることでしょう。


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きょうも厄日です 1 (文春e-book)
山本 さほ
文藝春秋
2020-06-30


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