『アリー/スター誕生』を超えたとかいうキャッチコピーは何か怪しかった。だって、あの映画、たいしていい映画だと思えなかったから。
でも嘘ではなかった。どころか最後は滂沱の涙。いや~、ごっつぁんでした。(以下ネタバレあります)
『ワイルド・ローズ』(2018、イギリス)

脚本:ニコール・テイラー
監督:トム・ハーパー
出演:ジェシー・バックリー、ジュリー・ウォルターズ、ソフィー・オコネドー
手持ちカメラ問題
最近の、特に低予算映画の流行である手持ちカメラがこの映画ではあまり見られなかったことがまず好もしいと思った最初の点。
確かに手持ちで撮っているところもあるけれど、まぁまぁ意味のある手持ちというか、三脚にカメラを据えてしっかり撮ったカットと手持ちのカットを無造作につなぐという、監督が何も考えていない昨今の映画とは一線を画していると思いました。
個人的な好みを言わせてもらえば、もっと「ここぞ」というところだけにしてほしかった。でもカメラに関してイライラさせられることが少なく、落ち着いて見ることができました。
主人公の服役理由

冒頭、刑務所を出所するところから始まりますが、いったい何の刑で入っていたのか少しも示されない。タグを付けられているというセリフがあったので、イギリスだから性犯罪なのかな、と思っていました。
でも、なかなかどういう理由でかは示されないまま後半へ。そして初めて明かされたのが「麻薬をやって、子どもたちの部屋にクスリを投げ入れた」と。うーん、予想とはぜんぜん違ったけど、えらく引っ張ったわりにはたいしたことのない罪でした。あれなら最初のほうでばらしていても別段問題はなかったと思う。
「君の伝えたいメッセージは?」

ジェシー・バックリー演じるローズリンという女性はカントリー歌手として世に出ることが何よりの夢で、映画が始まってからずっと音楽の聖地ナッシュビルを目指します。
貯めたお金でいこうとするも金や荷物を盗まれ帰郷。
次は友人がパーティを開いてくれてそこで歌って彼女の歌に投資してくれることになる。そこで過去の罪のことについてその友人の旦那から脅迫まがいのことを言われてしまい、まったく歌えなくなって頓挫。
次は、パン屋に20年勤めて貯めたお金を母親がポンと渡してくれる。「私は遠い世界のことを知らない。未来を見てきなさい」と、それまでの頑固ママがウソのように主人公の夢を叶えてくれる。
で、ナッシュビルに行くも、カントリー博物館みたいなところをめぐって、そのあと誰もいないステージで歌っていると入ってきたバンドマンたちがバック演奏してくれる。でも彼女が歌っているのは既製楽曲。
著名なプロデューサーから彼女はこんなことを言われていた。
「歌唱力は抜群だ。でも君の伝えたいメッセージは何なんだい?」
絶句してしまうローズリン。楽器は何もできず、作詞も作曲もせず、ただ既製楽曲だけを歌ってきた日々。
これには私も身につまされました。
撮影所を辞めて脚本家を目指し始めたばかりの頃、ある著名な脚本家に自作シナリオを送ったんですが、感想が来たのには狂喜乱舞したものの、
「あなたのシナリオは技術的にはとてもよくできています。でもあなたの体臭が感じられません。もっと自分の個性を出すようにしてください」
ローズリンとまったく同じことを言われてしまったわけです。
そしてこんな呆然とした顔になった。

彼女はナッシュビルをあとにして故郷のグラスゴーに帰ります。え、ここで終わっちゃうの⁉ んなアホな。
と思ったら、舞台は突如「1年後」へ。
歌う以外に何もできなかったローズリンが何とギターをもっている。必死で憶えたんですね。そして歌うのは自分が作詞(おそらく作曲も)したであろう楽曲。
「すべてを捨てて夢を追おうとしたこともあったけど」
みたいな歌詞のあとに彼女の渾身の「メッセージ」が歌われます。
「ここが一番。故郷が一番」
歌うべき何のメッセージももたないくせにナッシュビルしか眼中になかったローズリンが紆余曲折の末に出した「人生の結論」はとてもありきたり。でも大事なのは結論ではなく、そこに至るプロセスのほう。
おそらくあの歌は歌としては凡庸なものだと思う。でも、自分の夢しか考えていなかった女の子が故郷が一番と母親と子どもたちに向かって歌う、というバックグラウンドを知ったうえで聴くとさめざめと泣くほかありません。
(めっちゃ楽しそう)
そしてジェシー・バックリーの歌唱力が半端じゃない。レディ・ガガを超えたといっても過言ではないでしょう。
素敵な映画をどうもありがとうございました。

でも嘘ではなかった。どころか最後は滂沱の涙。いや~、ごっつぁんでした。(以下ネタバレあります)
『ワイルド・ローズ』(2018、イギリス)

脚本:ニコール・テイラー
監督:トム・ハーパー
出演:ジェシー・バックリー、ジュリー・ウォルターズ、ソフィー・オコネドー
手持ちカメラ問題
最近の、特に低予算映画の流行である手持ちカメラがこの映画ではあまり見られなかったことがまず好もしいと思った最初の点。
確かに手持ちで撮っているところもあるけれど、まぁまぁ意味のある手持ちというか、三脚にカメラを据えてしっかり撮ったカットと手持ちのカットを無造作につなぐという、監督が何も考えていない昨今の映画とは一線を画していると思いました。
個人的な好みを言わせてもらえば、もっと「ここぞ」というところだけにしてほしかった。でもカメラに関してイライラさせられることが少なく、落ち着いて見ることができました。
主人公の服役理由

冒頭、刑務所を出所するところから始まりますが、いったい何の刑で入っていたのか少しも示されない。タグを付けられているというセリフがあったので、イギリスだから性犯罪なのかな、と思っていました。
でも、なかなかどういう理由でかは示されないまま後半へ。そして初めて明かされたのが「麻薬をやって、子どもたちの部屋にクスリを投げ入れた」と。うーん、予想とはぜんぜん違ったけど、えらく引っ張ったわりにはたいしたことのない罪でした。あれなら最初のほうでばらしていても別段問題はなかったと思う。
「君の伝えたいメッセージは?」

ジェシー・バックリー演じるローズリンという女性はカントリー歌手として世に出ることが何よりの夢で、映画が始まってからずっと音楽の聖地ナッシュビルを目指します。
貯めたお金でいこうとするも金や荷物を盗まれ帰郷。
次は友人がパーティを開いてくれてそこで歌って彼女の歌に投資してくれることになる。そこで過去の罪のことについてその友人の旦那から脅迫まがいのことを言われてしまい、まったく歌えなくなって頓挫。
次は、パン屋に20年勤めて貯めたお金を母親がポンと渡してくれる。「私は遠い世界のことを知らない。未来を見てきなさい」と、それまでの頑固ママがウソのように主人公の夢を叶えてくれる。
で、ナッシュビルに行くも、カントリー博物館みたいなところをめぐって、そのあと誰もいないステージで歌っていると入ってきたバンドマンたちがバック演奏してくれる。でも彼女が歌っているのは既製楽曲。
著名なプロデューサーから彼女はこんなことを言われていた。
「歌唱力は抜群だ。でも君の伝えたいメッセージは何なんだい?」
絶句してしまうローズリン。楽器は何もできず、作詞も作曲もせず、ただ既製楽曲だけを歌ってきた日々。
これには私も身につまされました。
撮影所を辞めて脚本家を目指し始めたばかりの頃、ある著名な脚本家に自作シナリオを送ったんですが、感想が来たのには狂喜乱舞したものの、
「あなたのシナリオは技術的にはとてもよくできています。でもあなたの体臭が感じられません。もっと自分の個性を出すようにしてください」
ローズリンとまったく同じことを言われてしまったわけです。
そしてこんな呆然とした顔になった。

彼女はナッシュビルをあとにして故郷のグラスゴーに帰ります。え、ここで終わっちゃうの⁉ んなアホな。
と思ったら、舞台は突如「1年後」へ。
歌う以外に何もできなかったローズリンが何とギターをもっている。必死で憶えたんですね。そして歌うのは自分が作詞(おそらく作曲も)したであろう楽曲。
「すべてを捨てて夢を追おうとしたこともあったけど」
みたいな歌詞のあとに彼女の渾身の「メッセージ」が歌われます。
「ここが一番。故郷が一番」
歌うべき何のメッセージももたないくせにナッシュビルしか眼中になかったローズリンが紆余曲折の末に出した「人生の結論」はとてもありきたり。でも大事なのは結論ではなく、そこに至るプロセスのほう。
おそらくあの歌は歌としては凡庸なものだと思う。でも、自分の夢しか考えていなかった女の子が故郷が一番と母親と子どもたちに向かって歌う、というバックグラウンドを知ったうえで聴くとさめざめと泣くほかありません。

そしてジェシー・バックリーの歌唱力が半端じゃない。レディ・ガガを超えたといっても過言ではないでしょう。
素敵な映画をどうもありがとうございました。

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