WOWOWオリジナル連続ドラマ『有村架純の撮休』が面白い!

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第1話は風吹ジュン扮する母親とのあれやこれや。第2話では「有村架純」という名前にこびりついたイメージに関するやや告発めいたものも面白かったですが、今回の第3話「人間ドック」にはやられた!って感じです。めちゃくちゃ面白かった。(以下ネタバレあります)


初恋の人との再会
今回は撮休を利用して人間ドック。そこでエコー検査の技師をしている初恋の人(かどうかは明示されないけど、たぶんそう)と再会する有村架純。(最後まで見たら「自分で仕組んだ再会」だったことがわかります)

会いたかった。彼もまだ自分のことを好いてくれている。なのになぜ? というラブストーリー特有のモヤモヤすっきりしない展開もいいですけど、メインプロットよりもサブプロットというかサブテーマのほうが面白かった。

そのサブテーマとは……

仮面と素顔


すっぴんと化粧
監督であるリリー・フランキーと遭遇した有村架純はすっぴんであることを指摘されます。休みだし人間ドックだしすっぴんなのは何の不思議もない。でも、あれは嘘ですよね。


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冒頭、彼女は化粧をしていましたから。

「女優にとって大事なのはどれだけたくさんの恋をするかだ、なんて信じちゃダメよ。たったひとつの大事な想い出を心にとどめておきなさい」という先輩か誰かの助言が紹介されます。そのとき有村架純は口紅を塗っていました。唇と同じ色の。なぜだろうと思ったら自分で仕組んだ初恋の人との再会のためだったんですね。芸が細かい。


社会的な役割という仮面
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元カレとの再会。でも彼は目の前の女が元カノとわかっていながら検査技師的な言葉遣いをやめようとしない。粛々と有村架純のパンツと胸元にタオルをねじ込み、検査のためのジェルを塗る。このあたりの手つきがやたらエロチックで悶絶してしまいました。(監督は世界の是枝裕和さんですが、今回熱を入れたのはここくらいじゃないですかね? あとは適当にやってもいい作品に仕上がる。そう言っていいくらい今回は脚本の出来が素晴らしい)

元カレと元カノ。

でありながら、検査技師であることをやめようとしない男に、有村架純は関西弁で「元気やった?」と語りかけます。おそらく上京してから関西弁を封じてきた男は、突如検査技師という仮面を脱ぎ捨てて柔和な感じで返事を始める。ここらへんは有村架純が兵庫県出身(伊丹でしたか)であることがうまく活かされてますね。もし方言を知らない人間だったらこの展開・味は望めなかった。

でも、彼は一線を越えなかった。仮面を脱ぎ捨てきることができなかった。だから悶絶してしまうんですが、最終的に一線を越える意思があることがわかります。絶対に本人に直接渡してはいけないエコー画像を渡し、その裏に「年に一度は受診しにきてください」と書いてある。

でも、それはあくまでも検査技師としてであって、おそらく彼は検査室で会う約束をして会おうとしているのでしょう。つまり、検査技師という仮面を脱ぎ捨ててもかまわない病院の外で彼女と会おうとは考えていない。どこまでも社会的役割という仮面を脱ぎ捨てられない人間という生き物の悲哀がよく出ています。(方言を封じて東京弁で喋るのも「仮面」ですよね)


タトゥーと白衣
「有村架純さんの予約が入っています」という婦長が、前日にあったクレームとして一番大きな声で言うのが「検便と大きな声で言われた」でした。「採血が下手」よりこちらのほうが大きい問題らしい。

病院なのだから検便くらい普通だろうに、それを周りに聞こえるような声で言われて恥をかいたと。誰だってウンコをするのにそれを隠しているのが現代人。ここにも「仮面」というサブテーマが生きています。

さて、その婦長が朝礼で隣のキャピキャピした看護婦の首のあたりを指して「出てる」と注意します。看護婦は襟を直して持ち場につきますが、あれは何だろうと思っていたら、最後に明らかになります。

その子は頸骨のすぐ下くらいまでタトゥーを入れているのでした。タトゥー自体が呪術のための仮面みたいなものなのにそれを日本社会は許さない。外国では普通ですよ。サッカー選手なんか入れ墨だらけですから。みんな大好きだったベッカムなんて顔と足以外は全部入れ墨ですよ。入れ墨をしているというだけで銭湯にも入れてもらえないこの国は絶対におかしい!

話がそれましたが、タトゥーという仮面をさらに白衣という仮面で隠してあの看護婦は働いているのですね。あの白衣は「看護婦」という社会的役割と「タトゥー隠し」という二つの役割を担っている。

そして、婦長もまた「仮面」をかぶっている。

検査技師の名前を確認してから女性ではなく男性技師で、と有村架純が自分で予約を入れてきたという情報に、タトゥーの子が興奮して「なぜでしょう⁉」と訊くと「女優の考えてることがわかったら面白くないでしょ」「婦長も女優目指してるんですか?」と訊くと不敵な笑み。

おそらく年齢からしてもうあきらめたんでしょうが、若いときは目指していたんでしょうね。彼女もまた「女優を目指していた。いまからでもチャンスさえあれば……」と考えている自分を白衣で隠している。(私もかつては「脚本家を目指している本当の自分」を「昼間働いている自分」という仮面で隠していたっけ)


有村架純の仮面
有村架純は女優。女優とは誰かを演じること、他の誰かを装う仕事。だから彼女は関西弁をしゃべる「有村架純になる前のただのカスミ」になるためにわざわざ唇と同じ色の口紅で化粧せねばならない。


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女優という仮面を隠すもうひとつの仮面としての口紅。元カレの仮面をはぐために、自分は二重に仮面をせねばならなかった。女優としての、有名人としての哀しみ。

そしてその口紅を差していたときのあのナレーションをもう一度思い起こしましょう。

「どれだけたくさんの恋をしたかではない。たったひとつの想い出をどれだけ大事にするか」

こうしてサブテーマの充実が見事にメインプロットの結末に落とし込まれました。素晴らしすぎる!


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人間ドック
渡辺大知
2020-12-01


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