ジェームズ・キャメロンが製作陣に復帰し、28年前の『ターミネーター2』の正統的続編と宣伝されている最新作『ターミネーター:ニュー・フェイト』。うーん、実に残念な映画でした。面白い面白くない以前に辻褄が合わなさすぎ。世界観に異議あり! と言いたい。(以下ネタバレあります)


『ターミネーター:ニュー・フェイト』(2019、アメリカ)
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キャラクター創造:ジェームズ・キャメロン&ゲイル・アン・ハード
ストーリー原案:ジェームズ・キャメロン、チャールズ・イグリー、ジョシュ・フリードマン、デビッド・ゴイヤー&ジャスティン・ローズ
脚本:デビッド・ゴイヤー、ジャスティン・ローズ&ビリー・レイ
監督:ティム・ミラー
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、リンダ・ハミルトン、マッケンジー・デイビス、ガブリエル・ルナ



スカイネットを滅ぼしてもリージョンが、ジョンを殺してもダニーが
いきなりジョン・コナーが殺される冒頭はガツンとやられましたが、「え、で、ターミネーターは誰を殺しに来るの?」と見た人ならすぐ思ったはず。一世一代の当たり役サラ・コナーとしてリンダ・ハミルトンが復帰することも知っていたし、シュワがT-800として登場することも知っていた者としては、ジョン・コナーが殺された時点でいやな予感が漂いました。悪役ターミネーターは誰かを殺しに来るんでしょうが、そこにサラ・コナーとT-800がどう関わってくるのか、と。

T-800がジョン・コナー殺害後、20年間隠遁生活をしていたというのは笑いました。確かに、1作目で現代にやってきたシュワもマイケル・ビーンも「もう帰れない」と言ってましたし、ジョン・コナー殺害の指令だけを受けたT-800が指令を完遂した以上、何をしようと勝手だし、別にこれはこれでいいのではないでしょうか。

サイボーグ兵士グレースがメキシコ人の「新たな救世主の母ダニー」を助けにやってくるんですが、問題は、『2』でサラ・コナーとT-800が消滅させたスカイネットが「リージョン」という新たなAIにとって代わり、リージョンと人類の最終戦争がダニーの息子という「新たなジョン・コナー」によって人類側の勝利に終わりそうだという未来設定ですね。

これって完全におかしいでしょ。

いまチラシを見てみると、「時代は変わった。運命はどうだ」というキャッチコピーがあります。確かにこの30年近くでヒスパニック系の割合が格段に多くなったアメリカ社会が反映されていますが、運命に関しては「審判の日は起きなかったが、人類の運命は変わらない⁉」などと書かれています。

そうなんですよね。スカイネットを滅ぼしてもリージョンが開発される。そこには「人類は結局、自分自身の首を絞めるとんでもないものを開発してしまう」という文明批評的なものが感じられます。が、「人類の運命は変わらない」のはここまでにしておかないといけなかったのではないでしょうか。

ジョン・コナーを殺しても新たなジョン・コナーが生まれる。こんなに「人類の運命は変わらない」ことにしてしまうと、『ターミネーター』シリーズの面白さや魅力が完全に損なわれてしまっているのではないでしょうか。

スカイネットだろうとリージョンだろうと他のAIだろうと、人類側の救世主の本を絶つためにターミネーターを過去に派遣してその母親を殺そうとする。仮に首尾よく殺せたとしても、新たな救世主が生まれるだけじゃないんでしょうか。

だって、ジョン・コナーを殺しても新たなジョン・コナーが……という世界観なんですよ。この『ニュー・フェイト』でダニーを殺せたとしても、新たなダニーが登場するだけなんじゃないんですか? 


最終戦争は起こらない!?
で、ですよ。そういう世界観ならば、もう人類とAIの最終戦争は起こらないと思います。

参照記事⇒AI自動運転社会は不可能・絶対無理と思う件

AIは通常「人工知能」と訳されますが、いまだに本当の意味での「人工知能」は開発されていません。現在「AI」と呼ばれているものは「恐ろしく計算の速い電卓」にすぎず、できることは四則演算だけです。最近話題の「量子コンピュータ」も異常に計算が速いだけで自分で問題を設定することはできません。

しかし、スカイネットやリージョンは自分の意思でターミネーターを開発し、過去に派遣して勝利しようと目論むのですから、真の意味での「AI」なのでしょう。

が、それならば、最終戦争は起こりません。

なぜなら、自分たちを敗北に追い込む救世主の本を絶とうとしてその母親を殺しても、結局新たな救世主が現れるなら遅かれ早かれAIは敗北します。

AIならそういことを素早く計算して「人類に戦争を仕掛けるのは得策ではない」という結論を弾き出すはずなんです。

だから、「運命は変わらない」のは、スカイネットを滅ぼしてもリージョンが……というところで止めないといけなかった。それなら誰を殺しにくればいいのかって? そんなのジョン・コナーに決まってるじゃないですか。


人類の救世主「ジョン・コナー」
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『2』でせっかく救ったジョン・コナーをあんなにすぐに殺してしまうなんて、という声がたくさんあるようですが、そういう感情論よりも、救世主はジョン・コナーひとりにしておかないとシリーズの物語が起動しないからダメだと思うわけです。

スカイネットを滅ぼしてもリージョンが開発される。リージョンを滅ぼしても新たなAIが開発される。それほど人類は愚かである。そんな人類の希望の星がジョン・コナー。AIはジョン・コナーの本を絶ってしまえばと何度もターミネーターを過去に送り込んで最終戦争に勝利しようと画策する。

それがキャメロンが監督した2本に共通する世界観だったはずなんです。

だから、このシリーズは『2』で終わるべきだったと強く思います。個人的には『1』だけで充分かな、と。『2』も好きですですけどね。

今回、仮にジョン・コナーを母親とT-800が救う話にしたら『2』と同じになってしまうし、何よりエドワード・ファーロングの顔が変わっちゃってるし。(つづく)

続きの記事
見せ方にも疑問 『ターミネーター:ニュー・フェイト』感想②


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