これからシナリオコンクールに応募しようという方、またはすでに応募したことがあっていま現在も頑張っている方にぜひ言っておきたいことがあります。
といっても書き方とかドラマの仕組み方とかではありません。結局プロになれなかった人間なのでそんなことに講釈を垂れる資格はありません。
私が言いたいのは、
親兄弟、恋人、配偶者の類であっても絶対に信用してはいけないときがある。
ということです。
その前に『放浪記』の話をしましょう。
『放浪記』といっても林芙美子の小説は読んだことがありません。成瀬巳喜男監督が映画化したのを見たことがあるだけです。それほど好きじゃないから一度しか見ていませんしほとんどのシーンを憶えていません。
が、ひとつだけ強烈に憶えている場面があります。
すでに小説家として名を成した高峰秀子演じる林芙美子(自伝的作品です)が、小説家志望の女性から預かった原稿をゴミ箱に捨てるのがそれです。
その女性は小説コンクールに応募しようと必死で書いた。その原稿は今日が締切で絶対に今日中に出さねばならない。でも急用ができたか何かで、林芙美子に投函しておいてほしいと預けて行ってしまうのです。
林芙美子は「甘いのよ」と言ってその原稿を捨てます。
『放浪記』を見たことも読んだこともない友人にこの場面を説明すると「ひどい」と言っていました。
私は林芙美子の「甘い」という言葉の意味がよくわかります。
必死で書いた原稿なら、その原稿に人生を賭けているのなら、絶対に他人に託してはいけません。捨てた林芙美子が悪いなんて少しも思わない。そんな大事なものを他人に、それも将来のライバルになるかもしれない人に託すなんてはっきり言ってアホです。
私は何度もコンクールに応募しましたが、どの原稿も自分で出しに行きました。親が「代わりに出しといてあげようか」と言ってくれたこともあります。しかし私は「こういうことに関しては自分しか信用していない」と言って頼ったりしませんでした。経済的には脛かじりまくりでしたけど。(笑)
親は「自分の親を信用できないなんて」と文句を言っていましたが、無視しました。そういうときは世界の誰も、自分以外の誰も信用してはいけない。確かに親兄弟や恋人や配偶者なら悪意をもって捨てるなんてことはないでしょう。でも、交通事故に遭って出せなかった、という可能性は大いにある。自分が事故に遭ったならあきらめる他ありませんが他の人がそうなって原稿がおじゃんになるなんてもったいなすぎる。
必ず自分の手で出してください。もしその日が締切で消印有効なら、郵便局員がいくらめんどくさがろうと文句を言おうと「目の前で消印を押してください」としつこく言い続けましょう。「今日が締切なんです」と言えば誰でも押してくれます。
押した日付がちゃんとその日の日付になっているかも確かめましょう。誰も信用してはいけません。その原稿にあなたの人生が懸かっているんでしょ。ならば信用などしていいはずがない。
そういうときに誰かを信用するのは「甘い」のです。仮に頼んだ人に裏切られて怒ろうが縁切りしようが何しようが、もうその原稿はダメです。
書いた原稿は必ず自分で出しに行く。徹底してください。
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