遠藤憲一さんのスケジュールが空くまで1年も撮影を待ったという『それぞれの断崖』もついに最終回。しかしこれがあまりにあんまりな最終回で、見た直後は憤懣やるかたなしという感じでした。

第4話までの感想
「もったいない脚本構成」


私の結論は『エヴァンゲリオン』のようにやるべきだったんじゃないか、というものですが、その前にまず最終回のどこが残念だったか。


よけいなシーン
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八巻満が少年院を退院して主人公と再会したのが前回。主人公は彼の父親になる決意をしている。八巻満は当然反発する。そして今日の最終回。あとたった1時間でどう話を落としどころに落とし込んでいくのかと思ったら……

なぜか満の実の父親が死亡したという知らせがあり、満が父親をまったく知らないことが明らかになります。ミュージシャンを目指していたが最近は刑務所を出たり入ったりだったと。

なぜそんな情報が必要なんでしょうか? 主人公が彼の父親になろうとしているから、実の父親を知らないのは好都合ということ?

さらに「あのおじさんと生活するのはいやだ」という満は「母さんを自分だけのものにしたい」と包丁を振りかざし、階段から転落させて大怪我を負わせます。

満がマザコンという設定なんか邪魔なだけだし、しかも入院が必要な怪我を負わせるという展開がなぜ必要なのでしょうか。田中美佐子と田中美里を再会させたかったという気持ちはわかります。でも、主題は「被害者の父親が加害者の父親になれるか」ということでしょう? それとは何の関係もないシーンが続くので辟易しました。


時間がない!
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前回の記事に書いたように、息子が殺されるところから始めたために、全8話しかないのに被害者の父親と加害者の母親が恋に落ちる禁断の展開がちょうど真ん中の第4話で起こります。そこから離婚をし、犯人の父親になる決意をし、会社を辞め、再会し、反発を受け……これを残り半分でやるというのはいくら何でも無理があります。

遠藤憲一さんのスケジュールが空くまで1年も待ったなら、なぜシナリオの見直しをしなかったんでしょうか。2000年にドラマ化されたときは全10話で、主人公と犯人の母親が恋に落ちるのが第8話だったらしく、それよりはまだしもですが、やっぱり最初のほうの無駄な時間の使い方が気になりました。

そしてこの人たち。


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主人公が加害者の母親と不倫関係と知ったときはものすごい非難の嵐だったのに、前回と今回、最後のほうになればなるほど理解を示すのはなぜ? 主人公を甘やかしてはいけない。

結局、田中美里は「これからちゃんと生きていく」と言い、遠藤憲一さんも「俺も一からやり直す」と言います。これは別れ話なんですか? はっきりわからなかった。ただその直後の田中美里の「生きていくってつらいけど、捨てたもんじゃないですね」というセリフは白けました。セリフで言わせないで視聴者に感じさせないと。

オーラスは農作業をする遠藤憲一さんのもとに八巻満がやってくるというもので、彼がどういう気持ちで来たのか少しもわからない。父親として受け容れるということですか? それはあまりに安直というか取ってつけたような結末。

そう、「取ってつけたような結末」というのがキーワードですね。


『エヴァンゲリオン』
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最終回を見ていままで一番怒ったのは『新世紀エヴァンゲリオン』です。

「すべてのチルドレンにおめでとう」っていったい何だと。あれだけ大風呂敷を広げておいてどうやって畳むのかと思ったらめちゃくちゃ意味不明な結末。使徒とはいったい何者だったのか。エヴァンゲリオンも使徒だったのか。何の答えも示さず終わったので見終えた直後は激怒しました。

が……

時間がたつにつれて、あれはあれで正直なやり方だったのかな、と思うようになりました。いや、むしろ、取ってつけたような結末を見せられるよりもよっぽど作り手の正直な思いが出ている気さえしてどんどん好感をもつようになりました。

初見から10年以上たって再見したら「これしかない!」とまでは思えないけれど、やはり好感をもちました。怒るなんてとんでもない。いまでは大好きな結末です。

『それぞれの断崖』はまさに私が嫌った「取ってつけたような結末」ですよね。しかも、八巻満が主人公を受け容れたのかどうかはっきりさせないで視聴者の想像にまかせるという、誠意の感じられない結末でした。

私の脚本のお師匠さんは「解決不能の問題には絶対手を出すな」といつも言っていました。

「いじめや差別には手を出さないほうがいい。現実に解決の芽がない問題をフィクションの中だけで解決させても空々しく見えるだけだ」

『それぞれの断崖』は現実にありえない問題を設定しています。それ自体は悪くも何ともないですが、いみじくも最終回で刑事が「被害者の父親が加害者の父親になれるものなんでしょうか」
と言うように、1年間かけた大河ドラマでやったとしてもなかなか視聴者の納得を得るのが難しい問題です。それをたった8話でやる、しかも問題が発生するのが第4話のラスト。いくら何でも無理です。

『それぞれの断崖』の物語で『エヴァンゲリオン』のような「正直で誠意ある結末」というのがどんなものか、具体的にはまったく見えてきません。

ただ、どうすればいいか主人公もわからない、周りもわからない、作り手自身もわからない、もうどうしていいかわからない。そんな「私たちには少しもわからないんです」という思いを見せてくれたら、傑作になったかどうかはわかりませんが、記憶に残る作品になったと思うし、やる価値はあったと思います。


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