山田太一さんの1979年作品『沿線地図』。今日は第5話・第6話の放送でした。

前回までの記事
①まるで自画像のような
②両親たちのウロウロ


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今回は前回のニアミスから一歩進んで、ついに双方の両親が子ども二人の居所を突き止めます。

最初の感想が「まるで自画像のような」でしたが、今回もそんな感じでした。というか、あまりに自分のことと同じなのでギョッとなりました。

「現実は芸術を模倣する」とはオスカー・ワイルドの言葉。あのときの私はワイルドの名前すら知らなかったけど、存在すら知らなかったテレビドラマを模倣していたのかもしれません。私だけでなく、親兄弟など周りにいる人たちもみんな。それだけ山田太一さんの人間や世の中を見つめる目が冷徹だということでしょう。

一番ギョッとなったのは、真行寺君枝が、

「私たち結局お父さんやお母さんみたいに生きたくなかったのよ!」

というセリフですね。私はあそこまではっきり言葉にできなかっただろうけど、胸の内ではそう思っていた気がします。

ところが、児玉清の言葉にも一理あると思うんですよね。

「じゃあはっきり言おう。おまえは恐いんだ。受験が恐いんだ」

確かに恐かったのかもしれません。合格できなかったらどうしようという気持ちがなかったとは言えない。恐怖を別の言葉で言い換えてもっともらしく装っていただけだったのか、どうか。

しかしながら、児玉清の言葉は頭ではその通りとは思えても、あまり胸に刺さってきません。

逆に、第5話の冒頭で広岡瞬が児玉清に、

「間違ってることをしようと思ったんだよ。人生狂わせようと思ったんだよ」

と言いますが、あっちのほうが胸に刺さる。もちろん先述の真行寺君枝のセリフも。

私は若者二人の側なのに、親の言葉が胸に刺さらず、当の若者の言葉のほうが刺さってくるというのはどういうわけか。

逆に、親の言葉には苦笑してしまいます。完全に私と同じだと思ったのは、児玉清が、

「こういう生活をしたいなら認めてやろうじゃないか。ただし高校だけは出ておけ。大学にも入っておけ」

真行寺君枝はそれ見たことかと言い返します。

「高校だけは出ておけと言って、出たら大学行けっていうのよ。大学行ったら卒業だけはしてくれっていうのよ。卒業したらいい会社に入れっていうのよ」

私の周りも同じでした。大学に行きたくなければ行かなくていい。ただし高校だけは出ておけ、と。

何とかぎりぎり卒業しましたが、するとすぐに大学へ行けと言う。アホらしくなってそれ以上は言うとおりにしていません。

今日の5話6話で強烈に思い出されたのは「1本のレール」という言葉ですね。広岡瞬と真行寺君枝がそういう言葉を使ったかどうかはっきり憶えてないのですが、そういう意味のことはいいましたよね。あらかじめ敷かれた1本のレールの上を走るだけの人生はごめんだ、と。

私は親にそういうことは言わなかったけれど、親から言われました。

手紙を書いた、と何枚かの便箋が入った封筒を親父から渡されました。そこには、

「平社員から係長、係長から課長、課長から営業部長、営業部長から事業部長、あわよくば重役、そして社長。そういうふうに人生を1本のレールとしか見ていなかった私の落とし穴だったのかもしれない」

なぜか泣きました。いまも書きながら泣いています。

その後、映画の専門学校に行った私が夏休みに実家へ帰ると、母親がこういいました。

「お父さんはあなたに感化されてるところがあるのよ。そういう人生もあったのかって」

私は親父が嫌いでした。いまも嫌いかもしれない。でも、親父が自分に感化されていると聞いても、感じるのは、してやったりの勝利感とは真逆の、何とも苦い味わいだけでした。

なぜそう思うのかわかりません。やっぱり受験が恐かったから、恐いのをごまかして自己欺瞞していたから、そんな自分に感化されるなんて哀れだ、ということなのでしょうか?

わからない。

ただ、はっきりしているのは、大学に行っておけばよかったと思うのは、職探しをしていて高卒だと応募すらできないときだけです。これでよかったのだと思っている。

でも、それも自己欺瞞なのかもしれません。本当はあのままレールの上を走っていればこんなにあくせくせずともすんだと激しく後悔しているのかもしれない。

でも、とも思うのです。

登校拒否を始める直前、1本の映画を見ました。『明日に向って撃て!』。あの愚か者たちが愚かな最期を迎える映画にあんなに感動したのは、やはり広岡瞬と同じことを思っていたからかもしれません。

「間違ってることをしようと思ったんだよ。人生狂わせようと思ったんだよ」


続きの記事
④脚本家の苦心
⑤前面に出てきた笠智衆
⑥口紅はいらない
⑦仰天の笠智衆!
⑧喉に突き刺さる自殺の理由

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