新しく作った「平成歌謡」カテゴリの一発目は、ザ・ブルーハーツの『青空』。




初めて知ったんですが、この動画はブルーハーツが初めてNHKに出演したときのもので、問い合わせが殺到したそうです。甲本ヒロトが狂ったように引き攣って歌っているのでヤク中なのか、はたまた、身体障碍者を揶揄しているのか、みたいなことを言う人がいたのでしょう。わからんではない。でも笑える。

そんなことより、やはり『青空』を語るうえで外せないのはそんな情報より、やはり歌詞ですね。


(歌詞・真島昌利)

ブラウン管の向こう側
かっこつけた騎兵隊が
インディアンを撃ち倒した
ピカピカに光った銃で
できれば僕の憂鬱を
撃ち倒してくれればよかったのに

神様にワイロを贈り
天国へのパスポートを
ねだるなんて本気なのか?
誠実さのかけらもなく
笑っている奴がいるよ
隠しているその手を見せてみろよ

生まれたところや皮膚や目の色で
いったいこの僕の何がわかるというのだろう

運転手さん そのバスに
僕も乗っけてくれないか
行き先ならどこでもいい
こんなはずじゃなかっただろ?
歴史が僕を問い詰める
まぶしいほど青い空の真下で



世間的には、「生まれたところや皮膚や目の色で」というフレーズが一番心に刺さるという声が多いようですが、私は「神様にワイロを贈り、天国へのパスポートを~」というところが一番引っ掛かります。


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ハワード・ホークスの最高傑作『赤い河』の主人公ジョン・ウェインは神様にワイロを贈るわけじゃないけど、意に沿わない者を次々に殺し、埋葬して聖書の一節を読めばすべて終わり。再び旅を続けます。子分のモンゴメリー・クリフトは「なぜ神様とグルになるんだ」とウェインを責めます。

この「神様とグルになる」と「神様にワイロを贈る」というのはほとんど同じ状況を謳っているように聞こえます。

奇しくもこの『青空』の冒頭は、アメリカ合衆国の西部開拓時代を揶揄しています。

『赤い河』はインディアンと対決する話じゃなく白人同士の物語ですが、神様という後ろ盾を利用して殺人を犯しているのは同じです。

この歌が発表されたのは1989年、つまり平成元年ですが、まだベルリンの壁が崩壊する前。昭和天皇崩御、天安門事件と立て続けに大事件があった頃です。

こんなはずじゃなかっただろ?
歴史が僕を問い詰める

これは、200年前のインディアン虐殺の時代より少しはましになったかと思ったら少しも変わらないじゃないか、という歴史からの問い詰めという意味なんでしょうか?

答える言葉がなくて、バスの運転手に行き先はどこでもいいから乗っけてくれ、と。


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1999年のアメリカ映画『ゴーストワールド』のラストシーン。封切時に一回見たきりなので詳しい内容は忘れましたが、確か廃線になったはずのバスが来て主人公がそれに乗ってここではないどこかへ旅立つエンディングでした。

『青空』も同じく逃亡の歌なんですね。

昨日の『ホンマでっか⁉ TV』では、「日本人は『逃げる』ということをとても否定的に捉える。立ち向かうことを是とする人が世界でもダントツに多い」と言ってましたが、ブルーハーツはそれに異議を唱える。

逃げることの何が悪い。こんな世の中なら逃げたほうがましでは?

ちょっと眉をしかめられる内容の歌をふざけた調子で歌うブルーハーツよ、永遠なれ!


赤い河(字幕版)
モンゴメリー・クリフト
2019-02-08


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