名作『夫のちんぽが入らない』の著者こだまさん推薦の『出会い系サイトで実際に70人と会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』を読みました。
花田菜々子さんという無類の本好きが「X」という出会い系サイトを通して文字通り本をすすめまくる実体験が綴られています。


91qqHB19WXL (1)


最高のビルドゥングス・ロマン
これは面白かったですねぇ。
出会い系サイトというと、どうしても美人局とか、女性だったら変態に犯されたり、とても恐いものだと思いがちですが、いや、確かにこの本で実際に花田さんが最初のほうに会った男たちはセックス目的だったようですが、本をすすめる面白い女性という評価が確立すると、そのような変な人との出会いがなくなり、良きにつけ悪しきにつけ「とても変で面白い人たち」との出会いに変わっていくんですね。

そして、あろうことか、出会い系サイトを飛び出して現実世界で逆ナンするようになったり(もちろん本をすすめるのが目的)挙げ句の果てに本をすすめるイベントを実現してしまう。さらに終章の一文にグッときます。

「そして私は『X』へのショートカットをスマホのホーム画面から削除した」

そうなんですね。この本は奇を衒ったタイトルでキワモノ本を装っていますが、実はとてもまっとうでごくごく普通の教養小説=ビルドゥングス・ロマンなわけです。(ビルドゥングス・ロマンとは、主人公の成長を描く物語のこと)

夫と別居することになった著者が「X」の手を借りて逆境を跳ね返し、ついには「X」の助けを必要としなくなる。リアルな世界で生きる力を取り戻すために「X」というバーチャルなツールが必要だったというのはとても今風ですね。

私もこういうふうに出会い系サイトを活用してみようかな、という気持ちが湧き起こりました。でも、どうしても根が臆病だからか、↓こんなふうになってしまわないかと心配なわけです。


Db-qM5jW0AMvYl4

でも、著者は悪意に絡め捕られる危険よりも新しい出会いに賭けて成功したわけで、怖がっているばかりでは何も変わらないなぁと。

そういえば、こんな言葉があります。

百聞は一見にしかず。百見は一感にしかず。百感は一行にしかず。

つまり、たくさん見てもひとつの感動にはかなわない。そして、たくさん感動してもひとつの行動にはかなわない。だから何か行動を起こそうと思う猛暑日の夕暮れでした。著者もこう言っています。

「私が思ってたよりもこの世界は愉快なのかもしれない」


興味を惹かれる数々の本
それにしても著者の博覧強記ぶりには舌を巻きます。巻末に文中ですすめた本の一覧表が載ってるんですが、読んだことがあるのは4冊だけ。藤子・F・不二雄の『モジャ公』というのさえ知らなかった。『カンビュセスの籤』なら読んでるけど。

早速、谷川俊太郎よりメッセージ性が高くて好きだと著者おすすめの『おんなのことば』(茨木のり子)を読んでみました。

最初の『自分の感受性くらい』という詩にガツンとやられました。

「ばさばさに乾いてゆく心を
 人のせいにはするな 
 みずから水やりを怠っておいて
 (中略)
 自分の感受性くらい 
 自分で守れ 
 ばかものよ」

と読者をアジる内容となっています。

他にも史群アル仙なんて漫画家は名前すら知らなかったし、いろいろ読んでいこうと思います。

花田菜々子さん、素敵な読書体験をどうもありがとうございました。


本書で推薦されていた本の感想
『ワイルドマウンテン』




このエントリーをはてなブックマークに追加