ジャーナリスト伊藤詩織さんが元TBS記者・山口敬之氏にレイプされたと告発する『ブラックボックス』。


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私が注目したのは次の3点。

①レイプにかぎらず証拠が「ブラックボックス」の中にある場合はどうすればいいのか
②レイプ直後は「レイプされた」とは思わない
③レイプ大国スウェーデン!?

そこにプラス、
④私自身の痴漢実体験で思ったこと

まず、①レイプにかぎらず証拠が「ブラックボックス」の中にある場合はどうすればいいのか、ですが、


正義のセ
吉高由里子が新米検事を演じる『正義のセ』第3話では結婚詐欺師が1千万円を騙し取った証拠がブラックボックス内にある。伊藤さんのように密室内で行われた犯罪ではないけれど、目撃者も監視カメラもないところで大金が授受されたため証拠がどこにもない。証拠がなければ起訴できない、となるところをしらみ潰しに当たっていくうちに隠れた証拠を見つけることができ起訴に至るわけですが、あれはフィクションだから都合よく証拠が見つかるけれども、現実には証拠が完全にブラックボックス内にあって手も足も出ないケースは多々あるように思います。

合意があったかどうか、というのもねぇ。そんなの被疑者があったといえば、なかったとは立証できないわけでしょ。目撃者も記録映像もないブラックボックス内で行われた犯行であれば、拒否したといくら被害者が訴えても認めてもらえない。

しかも、伊藤さんの場合は目撃者とかカメラの映像とかいろいろ証拠があるにもかかわらず権力側の都合でもみ消されてしまった。100%クロだとわかっているのに、しかも逮捕状も出たというのに逮捕できない。起訴もできない。しかも検察審査会でも不起訴相当という判断。このあたりの経緯はすでに知っていましたが、やはり権力者におもねる人間が得をするというのはいつの時代にもあることとはいえ怒りを禁じえません。


被害届を出すのが遅れただけで
伊藤さんは、レイプされた直後は「レイプされた」とは思わなかったそうです。なぜなら、相手が顔見知りだから。どうしてもレイプというと「暗闇で見知らぬ男に羽交い絞めにされて…」という場面をイメージしがちですけれど、顔見知りによる犯行のほうがダントツで多いとか。それで被害者にレイプされたという自覚がなく、被害届を出すのがどうしても遅れてしまう。

『正義のセ』第1話でも、パワハラ上司に暴行を受けた部下がすぐに被害届を出すことも考えるけれども「そんなことをしたら会社にいづらくなる」と逡巡して事件から一週間後に被害届を出します。それが原因で「本当に暴行を受けたのならすぐに出すだろう」と思われてしまい「上司を陥れるためだったのでは?」という意見が大勢を占める。伊藤さんの場合もまったく同じで「なぜ被害届をすぐ出さなかったのか」と詰問されたとか。

すぐに被害届を出さないと出したほうが疑われるというのは納得いきませんね。そりゃ相手を陥れるためにそういうことする人もいるんだろうけど、もう少し警察も司法も人間心理を勉強したほうがいいのではないでしょうか。

人間心理といえば「セカンドレイプ」というのもひどい。アメリカの病院で医師から「傷はついてないから大丈夫」と言われたそうですが、いやいや心の傷のことを少しも考えていないのは医師として失格じゃないのか、と思ってしまいました。

それから、「処女ですか」という質問の無神経さ。
『女教師』という映画でレイプされた主人公が同じことを話題にされます。「処女じゃないんなら別にいいのでは」という意見が出る。なぜ??? 伊藤さんも同じ疑問を提示していますが、そもそも、女性に処女かどうか聞くなんておかしいでしょ。普通の会話なら絶対聞かないじゃないですか。それが相手がレイプされたとなると平気で聞けてしまうのはどういうことか。


レイプ大国スウェーデン!?
何と、人口10万人あたりの各国のレイプ件数は、
1位スウェーデン 58.5件
2位 イギリス 36.4件
3位 アメリカ 35.9件

68位 インド 2.6件
87位 日本 1.1件

日本ってこんなに少ないの? というより、スウェーデンなど北欧ってこういう犯罪は少なそうなイメージがあるけど……と最初は思いましたが、著者の解説を読んでなるほどと膝を打ちました。

まず、これは警察に被害が届けられた件数なのですね。しかも、日本などでは、たとえば父親から何度も性的虐待を受けても「1件」とカウントされるのに対し、スウェーデンでは実際に暴行が行われた回数でカウントするので、同じ人から100回受けたら100件となるらしい。

それから、スウェーデンは女性警察官の比率が日本よりもかなり高いので被害届を出しても男性から心ない質問を受けることも少ないし相談もしやすい。被害者の受け皿が整っている北欧だからこそ件数が多くなり、日本のように被害者のことをまるで考えていない国は少なくなる、という数字のマジックなのでした。


私の実体験
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私は以前、こういう混雑した電車内で痴漢と間違われました。前に立っている女性がどんどん押されてこっちにお尻が押し付けられるようになってきたため、右足を比較的すいてる左側へ移そうとしてふくらはぎで女性のお尻をなでるような形になってしまった。
やばい! と思って女性を見ると、キッと鋭い目で睨んできました。幸い、それですんだからよかったようなものの、もし「この人痴漢です!」と言われていたら、と思うとゾッとします。両手は本をもっていたので目撃者が名乗り出てくれたら無罪放免になったかもしれませんが、もし誰も証言してくれなければそれこそ「ブラックボックス」。

ただ、私は間違って逮捕されずに済んでよかった、で終わりですが、その女性は痴漢に遭ったと信じているわけで、その傷は一生消えないでしょう。

と思ったのは、この本を読んでのことで、ずっと「捕まらずにすんでよかった」としか思っていませんでした。自分には何も後ろ暗いことはない、手でなでたわけでは絶対にない、自分はシロだ! という自覚があるから、その女性が「自分は痴漢に遭った」と思い込んでいることには考えが至りませんでした。

だから、男性諸氏はもうちょっと性犯罪とかセクハラとかに自覚的になったほうがいいと思うのです。法律的にシロであっても一生消えない傷を負わせている場合があるのだから。


Black Box
伊藤 詩織
文藝春秋
2017-10-18



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