①私情で動くスパイたちに続く第2弾です。
第4作 2011年『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』
製作:トム・クルーズ、J・J・エイブラムス&ブライアン・バーク
原作:ブルース・ゲラー
脚本:ジョシュ・アッペルバウム&アンドレ・ネメック
監督:ブラッド・バード
出演:トム・クルーズ、ジェレミー・レナー、サイモン・ペッグ、ポーラ・パットン、ミカエル・ニクヴィスト、レア・セドゥー
美しくも恐ろしい女暗殺者サビーヌ・モローの登場で幕を開けるこの映画で、イーサン・ハントはまず、なぜか服役していたロシアの刑務所を仲間の手引きによって脱獄し、さらにこのシリーズで最も『スパイ大作戦』らしいミッションを受けます。「クレムリンへ潜入して核ミサイルの発射コードを盗め」と。
クレムリンという、第1作のCIA本部に勝るとも劣らない要塞への潜入。そして核ミサイルの発射コードというハイ・コンセプト。
ここには何の私怨も私情もありません。その象徴が「なぜ俺を脱獄させたのか」とイーサンに問われたポーラ・パットン演じる同僚ジェーンが「そういうミッションだったから」と答える場面です。
おおおお!
ミッションが発令されたからミッションを遂行する。まさしくテレビ版『スパイ大作戦』がそういう物語でした。仮に失敗しても当局は一切関知しない、そんな無慈悲な組織であってもミッションが発令された以上プロフェッショナルとして職務を忠実に遂行する。これこれ、これですよ!!
と思ったら、事情がちょっと変わってくるんですね。
クレムリン潜入にまんまと成功するイーサンたちでしたが、肝心の核ミサイル発射コードはヘンドリクスという男に奪われ、しかもヘンドリクスが逃亡のためにクレムリンを爆破。イーサンはその犯人として捕らえられます。すぐ逃げるイーサンのところにIMF長官が来て、「ゴースト・プロトコル」が発令されたと説明します。
ゴースト・プロトコルとは、トムたちが所属するIMF=インポッシブル・ミッション・フォースと政府を切り離す、つまりIMF消滅と同義。本当に「当局は一切関知しない」という非情なものでした。長官は「ここで私を襲って逃げ、勝手にヘンドリクスから発射コードを奪い返すかどうかは君の自由だ」と温情を示してくれますが、その長官も無残に撃たれてしまいます。
当然イーサンは仲間たちとともに発射コード奪還に向かいます。しかし、これって自分が汚名を着せられたことへの意趣返しであって、やはり私怨なのですね。このシリーズは「私情ぬきの純粋なミッション」がないなぁ、とちょっとがっかりするんです。
しかしながら、これまでは愛する人を救うためとか、仲間が殺されたからとか、裏切り者は許せない、といった他者のための行動だったのに対し、今回は自分が着せられた汚名を返上するためというのがちょっと違います。それに第3作のようにイーサンはいっさい取り乱しません。だから私情で動くスパイという匂いが薄まっているのも事実。
さらに、この物語のパターンは、ヒッチコックがよくやっていた巻き込まれ型サスペンスですね。警察に追われながら真犯人を追うという。前作『ミッション:インポッシブル3』ではラビットフットというマクガフィンを使い、今回は物語の枠組みがヒッチコック。
ヒッチコックは何よりも登場人物のエモーションを持続させることを大事にしたフィルムメイカーでした。トム・クルーズもそれに倣ってミッションに私情を絡めることで映画を盛り上げようとしているのでしょうか。
しかし、ひとつ気になることがあります。イーサンの婚約者ジュリアの身に不幸が起こったらしい。でもそのことは今回のミッションとは関係ない。
1作目から、私情=主人公のエモーションをどんどん激しくしてきたこのシリーズですが、ここにきて、なぜか私情の度合いが前作までに比べてかなり下がるのです。
それはなぜかと考えて、ある仮説にたどり着きました。
1作目から共通する固有名詞でこの4作目にない名前は? もちろんトム・クルーズ以外で。
そう、トムとタッグを組んでいたプロデューサーのポーラ・ワグナーです。そして、イーサンのよき仲間ルーサーを演じるヴィング・レイムスです。(ヴィング・レイムスや妻役のミシェル・モナハン、そして長官のトム・ウィルキンソンは出演していますが、クレジットはありません)
ポーラ・ワグナーは本作のあとでも『アウトロー』でトムと組んでますから別に仲違いしたわけではなさそうです。しかし、本作と現在公開中の『ローグ・ネイション』と続けて組んでいないこと、また第3作の監督J・J・エイブラムスとプロデューサーとして組んでいることから考えると、トムがポーラ・ワグナーよりJ・J・エイブラムスのほうがこのシリーズに適した相方だと判断したと思われます。
ただ、3作目までと4作目を比べると、ミッションに絡む私情が極端に減ってるんですよね。
それは、最愛の妻ジュリアの登場をラストシーンだけに限定したことにも顕著です。イーサンは映画が始まる前、ジュリアは死んだと偽装するために何人かの人間を死に至らしめ、そのために刑務所に入っていたことが明らかになります。ジュリアへの愛のためにイーサンは遠くから見つめるだけの関係を選びます。それは激情ともいえる私情なのですが、ミッションとはまったく関係ないところでの激情なのだから『スパイ大作戦』の「私情をはさまないプロフェッショナル」とも相反するわけじゃないし、逆に『スパイ大作戦』にエモーショナルなサブプロットが加わることによって『スパイ大作戦』以上の『スパイ大作戦』が展開されていました。
トム・クルーズがポーラ・ワグナーとのコンビを解消したのは、ここにあると私は見ます。3作目までは激情型スパイを描くことで意見の一致を見ていた二人が、4作目を作るにあたり、さらなる主人公の激情を描くことで盛り上げようと考えたポーラ・ワグナーに対して、トムは内に秘めた「ある狙い」があって、コンビを解消したんじゃないでしょうか。そして、J・J・エイブラムスはその狙いに共鳴したんじゃないか。
さて、もう一人、この4作目で初めてクレジットから外されたヴィング・レイムスについては次回の記事で。
続き
③トム・クルーズ真の狙い
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』

第4作 2011年『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』

製作:トム・クルーズ、J・J・エイブラムス&ブライアン・バーク
原作:ブルース・ゲラー
脚本:ジョシュ・アッペルバウム&アンドレ・ネメック
監督:ブラッド・バード
出演:トム・クルーズ、ジェレミー・レナー、サイモン・ペッグ、ポーラ・パットン、ミカエル・ニクヴィスト、レア・セドゥー
美しくも恐ろしい女暗殺者サビーヌ・モローの登場で幕を開けるこの映画で、イーサン・ハントはまず、なぜか服役していたロシアの刑務所を仲間の手引きによって脱獄し、さらにこのシリーズで最も『スパイ大作戦』らしいミッションを受けます。「クレムリンへ潜入して核ミサイルの発射コードを盗め」と。
クレムリンという、第1作のCIA本部に勝るとも劣らない要塞への潜入。そして核ミサイルの発射コードというハイ・コンセプト。
ここには何の私怨も私情もありません。その象徴が「なぜ俺を脱獄させたのか」とイーサンに問われたポーラ・パットン演じる同僚ジェーンが「そういうミッションだったから」と答える場面です。
おおおお!
ミッションが発令されたからミッションを遂行する。まさしくテレビ版『スパイ大作戦』がそういう物語でした。仮に失敗しても当局は一切関知しない、そんな無慈悲な組織であってもミッションが発令された以上プロフェッショナルとして職務を忠実に遂行する。これこれ、これですよ!!
と思ったら、事情がちょっと変わってくるんですね。
クレムリン潜入にまんまと成功するイーサンたちでしたが、肝心の核ミサイル発射コードはヘンドリクスという男に奪われ、しかもヘンドリクスが逃亡のためにクレムリンを爆破。イーサンはその犯人として捕らえられます。すぐ逃げるイーサンのところにIMF長官が来て、「ゴースト・プロトコル」が発令されたと説明します。
ゴースト・プロトコルとは、トムたちが所属するIMF=インポッシブル・ミッション・フォースと政府を切り離す、つまりIMF消滅と同義。本当に「当局は一切関知しない」という非情なものでした。長官は「ここで私を襲って逃げ、勝手にヘンドリクスから発射コードを奪い返すかどうかは君の自由だ」と温情を示してくれますが、その長官も無残に撃たれてしまいます。
当然イーサンは仲間たちとともに発射コード奪還に向かいます。しかし、これって自分が汚名を着せられたことへの意趣返しであって、やはり私怨なのですね。このシリーズは「私情ぬきの純粋なミッション」がないなぁ、とちょっとがっかりするんです。
しかしながら、これまでは愛する人を救うためとか、仲間が殺されたからとか、裏切り者は許せない、といった他者のための行動だったのに対し、今回は自分が着せられた汚名を返上するためというのがちょっと違います。それに第3作のようにイーサンはいっさい取り乱しません。だから私情で動くスパイという匂いが薄まっているのも事実。
さらに、この物語のパターンは、ヒッチコックがよくやっていた巻き込まれ型サスペンスですね。警察に追われながら真犯人を追うという。前作『ミッション:インポッシブル3』ではラビットフットというマクガフィンを使い、今回は物語の枠組みがヒッチコック。
ヒッチコックは何よりも登場人物のエモーションを持続させることを大事にしたフィルムメイカーでした。トム・クルーズもそれに倣ってミッションに私情を絡めることで映画を盛り上げようとしているのでしょうか。
しかし、ひとつ気になることがあります。イーサンの婚約者ジュリアの身に不幸が起こったらしい。でもそのことは今回のミッションとは関係ない。
1作目から、私情=主人公のエモーションをどんどん激しくしてきたこのシリーズですが、ここにきて、なぜか私情の度合いが前作までに比べてかなり下がるのです。
それはなぜかと考えて、ある仮説にたどり着きました。
1作目から共通する固有名詞でこの4作目にない名前は? もちろんトム・クルーズ以外で。
そう、トムとタッグを組んでいたプロデューサーのポーラ・ワグナーです。そして、イーサンのよき仲間ルーサーを演じるヴィング・レイムスです。(ヴィング・レイムスや妻役のミシェル・モナハン、そして長官のトム・ウィルキンソンは出演していますが、クレジットはありません)
ポーラ・ワグナーは本作のあとでも『アウトロー』でトムと組んでますから別に仲違いしたわけではなさそうです。しかし、本作と現在公開中の『ローグ・ネイション』と続けて組んでいないこと、また第3作の監督J・J・エイブラムスとプロデューサーとして組んでいることから考えると、トムがポーラ・ワグナーよりJ・J・エイブラムスのほうがこのシリーズに適した相方だと判断したと思われます。
ただ、3作目までと4作目を比べると、ミッションに絡む私情が極端に減ってるんですよね。
それは、最愛の妻ジュリアの登場をラストシーンだけに限定したことにも顕著です。イーサンは映画が始まる前、ジュリアは死んだと偽装するために何人かの人間を死に至らしめ、そのために刑務所に入っていたことが明らかになります。ジュリアへの愛のためにイーサンは遠くから見つめるだけの関係を選びます。それは激情ともいえる私情なのですが、ミッションとはまったく関係ないところでの激情なのだから『スパイ大作戦』の「私情をはさまないプロフェッショナル」とも相反するわけじゃないし、逆に『スパイ大作戦』にエモーショナルなサブプロットが加わることによって『スパイ大作戦』以上の『スパイ大作戦』が展開されていました。
トム・クルーズがポーラ・ワグナーとのコンビを解消したのは、ここにあると私は見ます。3作目までは激情型スパイを描くことで意見の一致を見ていた二人が、4作目を作るにあたり、さらなる主人公の激情を描くことで盛り上げようと考えたポーラ・ワグナーに対して、トムは内に秘めた「ある狙い」があって、コンビを解消したんじゃないでしょうか。そして、J・J・エイブラムスはその狙いに共鳴したんじゃないか。
さて、もう一人、この4作目で初めてクレジットから外されたヴィング・レイムスについては次回の記事で。
続き
③トム・クルーズ真の狙い
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』

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