京都アニメーションが2012年に制作した全22話のアニメ『氷菓』をようやく見ることができました。というか現在完了進行形で見ています。
アニメでミステリ、というのはすごく珍しいんじゃないんですかね? アニメ事情には疎いのでよくわかりませんが。(以下少しだけネタバレあります)


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さて、この『氷菓』、シリーズとしてなかなか面白いです。
各エピソードの面白さもさることながら、主人公・折木奉太郎(オレキ・ホウタロウ)が「エネルギー効率(別の言葉で言えばコスパ)を何よりも重視するいまどきの若者」なのがいいですね。無駄なことはやりたくないと言いながらいろんな謎を解決してしまう。いわゆる名探偵という風格はなく、でもやっぱり名探偵という設定が秀逸かと。

最初は、主人公たちが所属する古典部(これもすごく珍しい)の歴史をめぐる謎。

その次が小さな謎が二つ続いて、そのあとが先輩たちが作った自主製作映画をめぐる謎。

これ、すごくいいと思いました。

密室殺人が起こるその自主製作映画では、後半の謎とき部分の脚本ができていない。脚本家の生徒が悩みすぎて倒れてしまった、と。途中まで撮影された映像を見て誰が真犯人かを当て、それをもとに結末部の脚本を書いて映画を完成させる、というミッションが描かれるのですが、二転三転するプロットが実にいいんですよ。

倒れた脚本家(最後まで登場しません)は小道具班にどういう指示をしていたかとか、映像に映っているさまざまな手がかりをもとに推論に推論を重ね、最後は「ミステリ」と聞いて推理ものと思う人もいれば「ホラー」のことだと思っている人もいる、という「本当に?」と思ってしまうことまで手がかりにして主人公はミッションを完成させる。

が、奉太郎は完全に間違っていた!
奉太郎は、それまでのエピソードで名探偵ぶりを発揮していたために傲慢になってしまってたんですね。で、あることが盲点になっていた。

その盲点とは…

ミステリだから詳しく書けませんが、この自主映画エピソードは坂口安吾の大傑作ミステリ『不連続殺人事件』への挑戦じゃないかとさえ思います。

『不連続殺人事件』は、心理的なトリックが鍵でした。普通は、密室の仕掛けとかアリバイとか凶器の隠し方とか、ミステリのトリックって物理的なものがほとんどですが、心理的なトリックを作り出したのが安吾の独創でした。

この『氷菓』自主映画エピソードにおいて、心理トリックというとちょっと違うんですけど、謎解きの鍵が人間の心理なんですよね。
奉太郎は「俺なら密室の謎を解ける」という傲慢な思い込みが激しいあまり、最後まで書けずに倒れてしまった脚本家の気持ちを忖度することをまったく忘れてしまっていた、という事実に気づいたとき、初めて「謎の核心」に迫ることができる、と。

『不連続殺人事件』では、真犯人が人間の心理にトリックをかけるというものでしたが、この作品では、探偵役の人間の心理にトリックをかけて「密室」にしてしまうんですね。実際の密室殺人の謎ではなく、探偵自身が無意識に作った己の心中の密室の謎を解くことですべての謎が解けてしまう、という見事すぎるほど見事な物語構成となっています。

とうとうあの名作『不連続殺人事件』を超える推理ものが現れたか、と感慨深いです。

『氷菓』はまだまだ半分ほど未見です。続きを見るのが超楽しみです! お奨めですよ。

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この二人の行く末がどうなるのかも含めてね。(たぶん、どうにもならない気がするんですが…)

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第19話「心当たりのある者は」は『9マイルは遠すぎる』を超えたか⁉





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