2021年06月01日

バカリズム脚本で、永野芽郁と広瀬アリス共演なら見に行かないわけにはいかなかった『地獄の花園』、非常に美味でした。映画ならではのバカバカしさとバカリズムらしい知性が同居した傑作ですね。

面白かったポイントは4つほどあると思います。ひとつずつ説明していきましょう。(めちゃくちゃネタバレしてます。ご注意を!)


①堅気/やくざという「結界」
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この映画で一番よかったのは、なぜか社内や会社同士でで喧嘩が行われているというありえない世界の中で「堅気OL」と「やくざOL」の棲む世界がきちんと分けられていることです。

私に映画編集の極意を教えてくださった谷口登司夫さんは、最初は大映で、大映倒産後は勝新率いる勝プロで鳴らした方ですが、その谷口さんが言っていました。撮影所仲間と近くの喫茶店に行ったとき、たまたま近くに座っていたやくざたちと口論になって喧嘩になり、勝ったと。すげー! と思ったものの「下手したら殺されてた可能性ありますよね?」と訊くと、谷口さんは悠然とこう答えました。

「昔のやくざは堅気の人間にドスを抜くような真似は絶対しなかった」

なるほど! そういうものかもしれない。

まだ昭和の中頃の牧歌的時代の世界が、もう令和になって丸2年たつ映画の中で再現されていることが私にはとてもうれしかった。

一番強いのは永野芽郁である。それはやられた遠藤憲一さん(好演!)が一番よく知っている。だから奴を出せ! と息巻くけれど、あくまでも頭は広瀬アリスであり、彼女がいない以上、ナンバー2の菜々緒が出ていく。「あの子は堅気だから」と。

一番強かろうが相手の要求だろうがそんなの関係ない。堅気の人間を喧嘩に巻き込むわけには絶対にいかない。という「昭和極道のメンタリティ」がこの『地獄の花園』には脈打っています。

「堅気」と「やくざ」の間に明確な結界が張られているのですね。

では、その結界を解くものは何か。

その前に……


②メタ・フィクション
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メタ・フィクションとは簡単にいえば「フィクションについてのフィクション」のこと。

最初、ごく普通のOLとして登場した永野芽郁は、番長的存在の広瀬アリスと仲良くなり、彼女に守ってもらいます。「マンガなら彼女が主役で、あたしは主役に守られる脇役といったところか」みたいなナレーションが入りますが、そうです、永野芽郁は自分が登場しているこの物語をフィクションとして鑑賞しています。それは広瀬アリスも同様だということが「日本最初のOL」(←笑った)が登場する第3幕で明らかになります。「ずっと主役だと思ってたのに」と言いますから。

この『地獄の花園』の内容を簡潔に説明するなら、「主役になりたくない主役と、主役になれない脇役との葛藤劇」ということになります。

もちろん、主役になりたくない主役とは「ごく普通のOLになりたかった」という永野芽郁であり、主役になれない脇役とは、永野を守っているつもりだったのに実は彼女が自分より強い生粋のヤンキーであることに愕然となる広瀬アリスです。

脇役として広瀬アリスの活躍を見ていたかったのに、敵陣へ乗り込んだら簡単に負けてしまった。要求通り菜々緒たちを呼べばもっと自体は悪化する。それならば……と永野芽郁は封印を解いて喧嘩を始めます。

これが堅気とやくざを分け隔てる結界を解くカギです。要するに「命の危険」。日本最初のOLの手ほどきを受けた広瀬アリスと決戦するときも本物のパンチを受けたことで生粋のヤンキーの血がうずいたからです。

そう、「血」なんですよね、この映画で重要なのは。


③血筋という「宿命」
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永野芽郁は親父も兄貴3人もヤンキーというヤンキー一家に育ちます。『ビー・バップ・ハイスクール』や『ろくでなしブルース』を読んで育ったという彼女はたいして喧嘩慣れしてないのにめっぽう強い。それは親父さんが言っていた通り「遺伝子」の問題です。もしかすると兄三人の母親とは別の喧嘩が強い愛人との間にできた子なのかもしれない。

それはさておき、由緒正しき「血筋」に生まれた永野芽郁は広瀬アリスがどれだけ努力しようが叶わない本物の極道なのです。

新宿で20年負けなかった男、伝説の雀鬼・桜井章一はその著書でよく言っています。

「宿命は親や自分の名前など自分の力でどうにもできないもの。運命はそれとは違って自分の力で変えられるもの。いま自分を縛っているものが運命なのか宿命なのかをよく考えなさい」

劇作家の木下順二さんはその著書『劇的とは』の中で「人間の力ではどうしようもないものをもちこまないとドラマは充実しないのではないか」みたいなことを書いていました。

永野芽郁の血筋は宿命です。それは、ごく普通のOLとして生きたいのにどうしてもそうできないものとして彼女を縛るものですが、それ以上に、そんな血筋に生まれなかったばかりにどんな努力も水泡に帰さざるをえない広瀬アリスにとって残酷きわまりないものとして立ちはだかります。

だから、最後の永野芽郁が憧れている男子社員が実は広瀬アリスの彼氏で喧嘩には勝ったのに「完敗」となるエンディングはよけいだと思いました。


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「主役になりたいのに永遠に脇役でしかない女」と「主役になんかなりたくないのに主役にしかなれない女」の哀しみで終わってほしかった。

どちらが哀しいか、はたして「本当の勝者」は誰か。

だから「完敗」という画面を覆い尽くすテロップにはがっかりしました。


④広瀬アリスがかっこいい
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最終的に敗者か勝者かわからない広瀬アリスですが、少なくとも喧嘩では負ける。が、それでも前半、まだ永野芽郁の正体がわからなかったころの彼女は素晴らしくかっこよかったですよね。背が高くて美形だから立っているだけいい。そんな役者はいまのこの国にはそうはいませんぜ。


確かに永野芽郁の幼稚なアクションは見るに堪えない。それはわかります。一昔前の武富士のCMのダンスみたいに編集でごまかしたらよかったのでは?

喧嘩映画なのに喧嘩を編集でごまかすなんて禁じ手もいいところですが、あれぐらいひ弱な女の子に見える子でないと話が成立しないのだから禁じ手に手を出してもよかったかも、と思いました。

とにかく緊急事態宣言中、なかなか映画館に行けないなかで久しぶりに行った映画が快作でよかった、よかった。







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開催中のテニス全仏オープンで義務づけられている試合後の会見を罰金覚悟で一切拒否する声明を出した大坂なおみ選手が、突然うつ病を告白して大会を棄権するというニュースを見て、驚くよりも納得感のほうが強かったです。


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私は今回の騒動に関して、最初は大坂さんに対して反感を抱いていました。

確かに「日本へ帰ったら何を食べたいですか?」とかくだらない質問をするマスコミにも問題はあったでしょう。レアル・マドリードを退団したジダン監督も「記者たちともっとフットボールについて語り合いたかった」と、どの選手と仲が悪いとかゴシップ的な質問ばかりだったことに苦言を呈していました。

だからといって、会見をすべてキャンセルするという強硬手段に出るというのはどうなんだろう、と。質問の質が悪いならそれを会見ではっきり言って報道してもらったほうがよっぽどいいんじゃないかと思ってました。しかも「罰金がメンタルヘルスに使われることを願う」とかよくわからないなぁ、と。

が、うつ病と聞いてすべて納得しました。

そういう極端な行動に出るのは鬱の典型的なものなんですよね。

私自身はうつ病ではなく、正確な病名は神経症(ノイローゼ)というんですが、調子が悪くなると鬱になるわけだからまぁ似たようなものかと。(厳密にはぜんぜん違うらしいですが)

私は子どもの頃から「すべてかゼロか」という極端な考え方をしていたように思いますが、それが原因で神経症を発症したのかどうかはわかりません。だから大坂さんの病因も何かはわかりません。2018年の全米優勝から発症したというから、プレッシャーなのか、何なのか。まさか記者のくだらない質問が原因ではないでしょう。発症したあと悪化させた可能性は高いと思われますが。

うつ病なのに再びグランドスラムで優勝したり、すごいとしか言いようがないですが、今回それが限界に達して、あのくだらない会見だけは御免蒙りたいということで「会見一切拒否」という極端な言動に走ったのもうなずけます。そして、1万5千ドルという高額な罰金が科され、今回の全仏失格のみならず、今後のすべてのグランドスラム大会からの排除もありうるという国際テニス連盟からの声を聞いて、「四面楚歌」状態に陥ったと感じたのでしょう。突然の棄権。

そりゃ理解を示す選手やファンがいたのも事実ですが、うつ病というのはそういうポジティブな面に目が行かずネガティブな面しか見えないのでね。「世界中が敵」に見えてしまい、インスタでの「さよなら。せいせいする」という発言に至ったのでしょう。

出場するけど会見は拒否⇒突然棄権

これはうつ特有の「すべてかゼロか」という思考回路ですね。私はこのたび職場を辞することになりましたが、辞めたいと初めて思ったのはもう半年以上前なので、辞めたくなったらすぐ辞めてた昔に比べたらだいぶましになってきたように思います。

大坂さんが棄権をするというのは賢明な判断というより、これ以上プレーを続けるのは不可能だったのでしょう。いままでは持ち前の身体能力で何とかなったけれど、カバーできるのももう限界ということかと。ゆっくり休んだほうがいいと思います。いや、休まねばならない。

いま心配なのはやはり自殺ですね。体は思い通りに動いてくれないし、世界一の栄光から転落。毎週更新される世界ランキングをたぶん見てしまうと思う。見なければいいだけの話、というのは健康な人間だから言えることで、鬱の人間はどうしてもネガティブな情報を見たがるのです。毎週のように落ちていく自分の名前を見て将来を悲観して……という可能性は充分考えられます。

ホッと安堵したのは、国際テニス連盟が「大坂なおみを全面的にサポートする」という声明を出してくれたこと。この素早い対応は素晴らしい。「私はあなたの味方ですよ」という声は心の栄養なのです。

頑張れという言葉は鬱には禁物といいますから(鬱のときに「頑張れ」と言われると頑張れない自分を否定された気持ちになるんですよね。でも鬱がよくなってきた人には逆に頑張れと尻を叩かなきゃいけないんですよ!)頑張れとだけは言いませんが、世界の片隅でひっそり生きている私もあなたの味方ですよ、と声を大にして言いたい。

いまはたくさん泣くといいと思う。涙は心を洗い流してくれるから。


マンガでわかるうつ病のリアル
錦山 まる
KADOKAWA
2020-07-02








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