2021年03月11日

今日は厳しい現実を突きつけられた日だった。

いまは繁忙期で土曜日出勤もあるので、今日はその代休。で、いつものようにかかりつけの病院へ薬をもらいに行ったのだけど、何とシャッターが閉まっていて「当面の間休診させていただきます」と貼り紙が貼ってある。

ギョエーーーーー!!!

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何ということ。この週末で薬が切れるからこれはただごとではない。しかし当面の間っていつまでだろう。それより先生は何か病気にでもなったのか。まさかコロナ? もう70歳は越えてるはずだから大丈夫だろうか。

と思っていたら、別の患者さんがそのへんの事情に詳しく、2,3か月前にも1日だけ休診したことがあり、そのときは「腰が原因」ということだったらしい。

じゃあギックリ腰だろうか。詳細はわからないが、とにかくこれから最低2週間分の薬をどこかで確保せねばならない。

ビルの1階に薬局があるのでそこで近くの精神科の病院を聞いてみた。目と鼻の先にあるというので行ったらば、何と完全予約制のうえに今週はすべて予約が埋まっていると。

さっきの薬局に引き返し、今度は心療内科を教えてもらう。ちょっとだけ歩くけど近かった。というかいまだに精神科と心療内科の違いがよくわからないのだけど、同じ薬を処方してもらえるだろうか、と心配だった。

学歴だの、いままでで一番つらかったことだの、「性欲はありますか?」などの普通の病院の問診票にはない質問に答えて提出すると、そこはあまりはやってない病院なのか、すぐ診察室へ通された。

そこでもいままで一番つらかったこと、つらかった時期などを聞かれ、自殺未遂をした2001年でしょうか。好きな子に振られ、職場ではいじめに遭い、脚本家を目指していたけどまったく芽が出ないので将来を悲観するなどいろんなことが重なって……などの話をしたら、「わかりました。まったく同じ薬を出しましょう。ただし……」

問題は「重さ」だというんですよね。私が飲んでるのはいわゆる「抗鬱剤」というやつで麻薬と同じ作用がある。つまり健康な人が飲むとトリップできる。幸福感をもたらす脳内ホルモン、確かノルアドレナリンとかセロトニンとかを増やす作用があるらしい。だから重さが大事なんです。同じ名前の薬でも重さが多ければジャンキーのように多幸感が過ぎるし、少なければ元気ではいられない。

運よくというか、薬切れを防ぐために予備の薬を鞄に入れてるので、全部で5種類ある薬のうち4種類はグラム数がわかった。それを言って同じ薬を出してもらえることになった。

しかし、睡眠導入剤だけは鞄には入れてないので(外で寝ませんから)重さがわからない。「0.4ミリですか?」と訊かれ、確かそれぐらいの数字を主治医から聞いたような気が……と思い「はい!」と答え処方箋を出してもらった。

それをさっきの薬局へもっていって「一件落着!」とばかりに悠然と椅子に座って読書に勤しんでいたのだけど、名前を呼ばれてちょいと怖くなった。

だって、5種類のうち2種類はまったく同じ薬でしたが、あとは「うちでは在庫がジェネリックしかありません」とかいう。しかも睡眠導入剤は0.4ミリグラムではなかった! それでもないよりはましだろうと出してもらったけれど、かなり不安。いまはまだ前回主治医からもらった薬が残っているからいいけれど、週明けからはジェネリック医薬品を飲まないといけない。いくら「成分は同じ」といっても皮膚病でもらってる薬のジェネリックの効き目のなさを知ってるだけにめちゃ不安。

薬より不安なのは先生の具合。薬局の人は少しだけ知っているらしく、「おたくの先生、2,3週間はだめなようですよ」と。うーん、やっぱりギックリ腰か。しかしそれなら来月には出てこれる。しかしあれは1回やったら癖になるというし、同じことが繰り返されるかもしれない。

主治医は昔ながらの医者で、月が替わっても健康保険証を見せろなんて言わない。変わったときだけ見せればいい。保険証がなければ10割負担で後日7割返金とか、いまどきのシステマティックな病院とはぜんぜん違う。それに何より診察だけなら金を取らない。薬を処方するときだけ金を取る。だから1週間に毎日行ったときもあるけどまったく金がかからなかった。少しでも患者の金銭的負担を軽くすることを心掛けている昔ながらの名医なのである。

その名医もおそらく70代半ば。今生の別れが突然訪れても不思議ではない。もしそうなったとき、私は誰に体の相談をすればいいのか。死にたくなったとき誰に話を聞いてもらえばいいのか。

死ぬまで先生がいるような気がしていたけど、自分より先に死ぬ人だという厳しい現実を突きつけられた。何とかせねば。

続きの記事
厳しい現実を突きつけられた件パート2







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2021年03月06日

山田太一さんの不朽の名作『男たちの旅路』。第4部の第1話「流氷」を再見しました。

実はこの回、あまり好きではなかった。一番好きになれないのは、第2部第3話の『釧路まで』なんですが、この「流氷」はその次に好きじゃなかった。

だって第3部第3話「別離」で、部下の桃井かおりから求愛されて溺れてしまう鶴田浩二が彼女の死によって文字通り、桃井かおりとも水谷豊とも戦友の池辺良社長とも別離してしまう。

山田太一さんの言葉によると、ここでこの部を打ち止めにするつもりだったと。終わるべきところで終わらないといけない、と思っていたそうですが、プロデューサーとディレクターからの強い説得があり、さらにこの第4部だけでなく『男たちの旅路』という稀有なテレビドラマ全体の一番の代表作と言っていい最終話「車輪の一歩」の基本的アイデアがすでにあり、吉岡司令補=鶴田浩二にあの有名なセリフ「君たちは迷惑をかけていいんだ」を言わせたくてオファーを受けたそうです。

ただ、この「流氷」は行方不明となった鶴田浩二を東京へ呼び戻す回、つまりは「車輪の一歩」のための布石にすぎないわけです。「流氷」と「車輪の一歩」をつなぐ「影の領域」だってなかなかの名作ですが、そこでは新キャラの清水健太郎と岸本加世子が鶴田浩二の警備会社で働き始めるという布石を打っておかなくてはならない。すべては「車輪の一歩」へつなぐため。

「影の領域」は複雑な問題を孕んだ物語なので「つなぎ」という感じはしませんが、「流氷」は「つなぎ」以外の何ものでもない。

これが今回見直すまでの私の浅はかな見解でした。


これが本当の「別離」
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第3部の「別離」は77年。この第4部は79年。当時、水谷豊は別の局で主役を張っているので(おそらく『熱中時代 刑事編』でしょう)1回しか使えない。だから最初から鶴田浩二を連れ帰るだけの役割だった。連れ戻して、次回の「影の領域」で姿を消す。「これ以上一緒にいるとベタベタしてしまいそうだから」とだけ残して。

役者のスケジュールで内容が左右されるなんてことはテレビや映画の世界ではよくあることで、それを四の五の言っても始まらない。大事なのはこの「流氷」が鶴田浩二と水谷豊の「別離」を描いているということです。

純粋に内容だけ見れば、おそらく水谷豊は最初から鶴田浩二を東京に連れ戻せたら姿を消そうと思っていたのでしょう。鶴田浩二が東京へ帰る列車の中にいるのを見たとき、うれしそうではあったけど、いろいろ言葉を交わして列車が出発すると思いつめた表情になる。「とうとう本当に吉岡さんとはお別れなのだ」という気持ちの表現でしょう。

思えばこの『男たちの旅路』は戦中派で元特攻隊の鶴田浩二と、いまどきの若者の代表者として現れた水谷豊が出逢うところからすべてが始まりました。確かにあのとき桃井かおりとも出逢う。でもやっぱりこのシリーズの主軸は水谷豊と鶴田浩二だと思うんですよね。「別離」だって桃井かおりをはさんで三角関係になっていたし。

いまどきの若者が大嫌いな鶴田浩二と、そういうことを言う中年が大嫌いな水谷豊。水と油の二人が次第に距離を縮めていくのがこのシリーズの一番面白いところ。

水谷豊は鶴田浩二に心酔している。たぶん桃井かおりより心酔している。心酔していながら、「あんな中年の言うことなんて」みたいなことを言う。

そんな彼が、この「流氷」では清水健太郎相手に「おまえ喧嘩で負けたことないだって? 笑わせてくれるよ。おまえなんか吉岡さんの手にかかったらあっという間にやられちゃうよ」とか「あの人が皿洗いなんかしてるわけがない」(←このセリフ、いまだったら炎上しますな)などとついに「本音」を吐くんですね。だって目の前に本人がいないから。本人がいる前ではかっこつけて嘘を言い、本人がいないと本音を言う。人間という存在の本質がよく描けています。


「あんたには責任があると思うね」
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「住所を書かず、消印で知らせてくるなんてかわいいじゃないか」と池辺良社長は水谷豊に出張という名目で根室まで鶴田浩二を探しに行かせます。

住んでいる町から出したのだから、誰かが探しに来るのは必定。鶴田浩二も帰りたくて手紙を出したのです。でもやっぱり勝手に姿を消した負い目もある。必死で愛した女への想いもある。だから帰らない。「東京へ帰って何がある?」と意地でも帰らない決意を示す鶴田浩二をどうやってチャラ男の水谷豊が連れて帰るかと思ったら、何と「あんたには責任がある」という。

「これまで司令補、特攻隊の連中は本当に生き死にのことを考えていたとか、そういうこときれいなことばっかり言ってるけど、でも、あの頃は戦争に反対できる雰囲気じゃなかったとも言ってたよね。なぜそういう雰囲気になったの。そこを言ってくれなかったら、また俺たち戦争してしまうかもしれないじゃない。俺は50代の人間には責任があると思うね。あんたには責任があると思うね」

鶴田浩二はまったく言葉を返せません。説教されるばかりだった水谷豊が初めて鶴田浩二を論破したのです。お見事!

というわけで鶴田浩二は帰る決心をするんですが、自分を論破するまで成長した水谷豊のことがうれしかったのでしょうね。

タイトルの「流氷」について鶴田浩二はこんなセリフを言います。

「流氷にぶつかられて転覆する船もある。迷惑な行為だが、美しい」

流氷が船にぶつかることを「行為」と言っている。おそらく、自分という船にぶつかりに来た水谷豊のことを流氷に例えているのでしょう。おまえの昨日の説得は美しかったよ、と。

だからこそ、この二人の「別離」がたまらなく哀しい。役者のスケジュール? そんなのどうでもよろしい。最近は映画やテレビドラマの裏側がDVDの特典映像なんかで詳しく知ることができますが、私はあまり好きではありません。

できあがった作品がすべて。裏の事情などどうでもよくなるくらい、この「流氷」は美しい。


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