聳え立つ地平線

ありえないものを発見すること、それを写し撮ること、そしてきちんと見せること。

昔のテレビドラマ

『王様のレストラン』大解剖⑥(終)(最低だが素晴らしい!)




『王様のレストラン』大解剖シリーズもいよいよ最終回です。

印象深い最終回、第11話にまたしても涙を流してしまいましたが、今回の再見で明らかになったのは、この『王様のレストラン』で「ヒーロー」と呼ぶにふさわしい人は、千石さん以外の全員だということですね。

禄郎だけがヒーローだと思ってましたが、違ってました。

この『王様のレストラン』は、「千石さんが他のみんなを導いていく」ように見せながら、その実、「他のみんなが千石さんを暗黒面から救い出す」物語なのでした。

プチ・ヒーローしずかにとっての助言者が千石さんだったように、禄郎もまた物語全体のヒーローではなく千石さんにとっての助言者という役割だったのではないでしょうか。

ヒーローが誰かを考えることは主人公を明らかにすることだと確か一番最初に書きましたが、昨日最終回を見てやっとわかりました。主人公は千石さんです。

主人公は千石さん。暗黒面に堕ちた千石さんを救い出すのが他のみんな。


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ずっと私は、千石さんがやる気も知識もないベル・エキップの面々の問題を一つ一つ解決していく物語だと思っていました。第10話で千石さん自身が暗黒面に堕ちるというのはあるにしても、それは最後のほうだけの問題であって、前11話通しての問題ではないと。

しかし、前回にも書いたように、千石さんは第1話から傲慢なアンチヒーローです。確かに、言うことはいちいち的を射ている。何も間違ったことは言っていない。でも、いや、だからこそ彼こそ問題の根源だというのがこのドラマの肝であり、三谷幸喜氏の思想でもあるのかもしれません。

有り余るほどの知識をもっていても、それを利用して「教えてやろう」という態度は傲慢極まりないと。何もわかってない人間でも「自分は何もわかってない」「自分は何者でもない」と思っている人物こそが世界を救うのだと。(しずかがまさにそういう人物ですね。禄郎も、他のみんなも)

先代オーナシェフの暴走を戒めていた頃の千石さんはヒーローだったでしょうが、クビにされ、舞い戻ってきたとき、自分ならこの薄汚い店を盛り返せると思ったのでしょう。だから千石さんは第1話ですでに暗黒面に堕ちたアンチヒーローなのです。

そして、第10話までそれを前面に出さないのが三谷幸喜氏のうまいところです。あくまでも千石さんが他のみんなにとってのヒーローであるかのように見せながら、実は他のみんなが千石さんを暗黒面から救い出し、彼を再びヒーローズ・ジャーニー=英雄の旅へと旅立たせる役目を担っている。実にうまい構成です。

だから、この『王様のレストラン』はどこまでも千石さんに焦点を当てた「千石さんの個人史」だったのですね。群像劇ではありません。千石さんのメインプロットに絡むサブプロットがかなり多岐にわたるため群像劇に見えているにすぎません。主となる構造は「アンチヒーローに堕ちていた主人公のヒーローへの脱却」というめちゃくちゃシンプルなものです。

アンチヒーローといっても、それはヒーローの暗黒面ですから、その暗黒面を脱却すればまたヒーローに返り咲ける。

ヒーローとして現れた千石さんがアンチヒーローになり、また……という物語ではない。
アンチヒーローとして現れた千石さんを他のみんながもう一度ヒーローズ・ジャーニーに連れ戻す。ここが『王様のレストラン』の要諦ではないでしょうか。

最大の問題児・範朝だって、彼が店を売り飛ばそうとしたことで逆に千石さんが自分はアンチヒーローだと自覚する役目を担っているのですから、ヒーローでしょう。何より、店に戻ることを渋る千石さんに最後の一押しをしたのは、ギャルソンの制服を突きつけた範朝その人です。

最終回で千石さんは高らかに言いました。

「この店は最低です。しかし最低ではあるが素晴らしい!」

第10話では畠山が稲毛に「俺はお前のこと嫌いだけど、好きだ!」と言います。

この『王様のレストラン』では、「○○だけど××」というのが底流している気がします。「あったかいシャーベット」というのもその一環ですかね。

アンチヒーローたる千石さんは明日のヒーロー。
他のみんなも千石さんのようにアンチヒーローになるかもしれない。(特に禄郎)

「ヒーロー(に見える)だけどアンチヒーロー」
「アンチヒーロー(に見える)だけど実はヒーロー」

というのがこの『王様のレストラン』の肝ではないでしょうか。

再び英雄の旅に出た千石さんの目標は、決して「一流のギャラにふさわしい一流のギャルソンになること」ではなく、「最低(なギャルソン)だが素晴らしい人間」になることです。それは、親友だった先代オーナーシェフに対して彼が言ったとされる「たとえ一流と呼ばれる店であってもあなたに人を思う心の優しさがないかぎりこの店は三流以下だ」の実践となるでしょう。

まだまだエンディングを迎えたときの千石さんにとって難題と思われるその旅が吉と出るか凶と出るかは…

それはまた、別の話。




『王様のレストラン』大解剖⑤(アンチヒーロー千石武)




『王様のレストラン』大解剖シリーズ。

①「ヒーロー」は千石さんではない!?
②ヒーローはオーナー禄郎である!
③シェフしずかはヒーローでないのか?
④ディレクトール範朝から千石さんへと至る道

に続く第5弾です。

ディレクトール範朝がアンチヒーローであることは誰の目にも明らかですが、彼もまたプチ・ヒーローとして(未来の)ベル・エキップを盛り立てていってくれる存在です。

その範朝と同じくらい、いやそれ以上のアンチヒーローがいます。それが千石さんに他なりません。

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彼は、ベル・エキップを一流の店にするために雇われました。事実、千石さんの知識と経験で数々の困難を乗り切り、店は往時の活気を取り戻しました。

しかし、彼には驕りがありました。「自分がこの店を支配している」という驕りが。

先日の第10話では、先代オーナーシェフが傍若無人な人間だったために店を辞めた顛末が明かされます。「彼は自分の意に沿わない人間を次々にクビにしていった。それを戒めるのは私だけでした。それで結局私も辞める羽目に。店を去るとき私は言いました。たとえ一流と呼ばれる店でも、あなたに人間としての心のやさしさがないかぎりこの店は三流以下だと」。そして、「いまの私はあのときの彼だ」と言って自嘲気味に笑います。

パティシエ稲毛をクビにするかしないかでオーナー禄郎ともめた挙句に、千石さんは自分がかつてのオーナーシェフと同じアンチヒーローに堕落していたことを思い知らされるのです。

でもそれは第10話で突然そうなったのではありません。最初からそうだったのです。

第1話で、禄郎が一緒にこの店を立て直しましょうと頼まれたとき、「この店はフレンチレストランの格好をした、薄汚れた学生食堂です」と言い放ちます。確かにその通りでしょう。しかし、それがかつてともにフランスへ留学し、一緒に働いていた親友の店に対する言葉と考えると合点がいきません。

千石さんが働いていたときにこの店にいた人間は範朝だけです。その範朝がディレクトールをやっている。彼が総支配人なら薄汚れた学生食堂に落ちぶれるのも当然だろう、と千石さんならずとも思うところですが、先代オーナーシェフにはもう一人息子がおり、その息子が遺言を託された。「千石さんを頼るといい」と記されていました。千石さんはそれを目にしてもなお禄郎に「あなたも早くこの店から手を引いたほうがいい」と言います。

先代オーナーを戒めていたときの千石さんは確かに「ヒーロー」だったでしょう。しかし、辞めざるをえなくなったことで恨みつらみが重なり、さらに往年の栄光を知らないスタッフばかりになったベル・エキップに対して「自分のほうがよっぽどフレンチのことを知っている。こんな店を立て直すくらい簡単だ」という驕りが芽生えたことは想像に難くありません。

第2話で、「いまうちは火の車でね、よけいな人を雇う余裕がない」という範朝に対し、千石さんは「心配いりません。いまにこの店は毎日お客でいっぱいになります。根拠があります。私が来たからです」という場面がありました。あそこは千石さんのあまりの自信過剰な態度に何度見ても爆笑してしまうんですが、このドラマをコメディではなく「神話」として捉えた場合、あそこは千石武という男が暗黒面に堕ちていることを証しする何よりの場面です。

実際、千石さんはその言葉通りベル・エキップを立て直していく。一人一人にいろんなことを教えて店を盛り立てていく。その姿はヒーローのように見えます。

しかしながら、第10話で明らかになったのは、そして彼自身が自覚するに至ったのは、「他のみんなを見下していた」という冷酷な事実でした。先代オーナーと同じ道をたどってしまった千石さんは店を辞めます。

先代オーナーと千石さん
千石さんと現オーナー禄郎

は同じ関係です。アンチヒーローとヒーロー。

「ヒーローズ・ジャーニー=英雄の旅」は、ヒーローからアンチヒーローへ、そしてそこからまたヒーローへ、という循環する旅のことです。

ここで疑問が起こります。私の仮説「禄郎こそがヒーロー」って合ってるの???


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第3話で誰の首も切らずに赤字を解消する手段を見つけた禄郎は、他にも数々の難事件を解決します。

第6話では、直接的に問題を解決するのはメートル梶原だとしても、他のみんなが「嘘をついた本人が悪い」と少しも協力しようと思ってないところを、禄郎が「困ったときはお互い様」と全員に協力するよう呼びかけます。オーナーの言うことならしょうがない、とみんなは嫌々協力することになるんですが、禄郎の呼びかけによって従業員一同が一丸になり、後半のさらなる難事件を解決することになります。

千石さんに対する従業員一同のストライキが描かれる第4話でも、直接的に問題を解決するのは最初に手を貸したシェフしずかでしょうが、それだけではまだ厨房の人間が持ち場に戻るだけ。梶原と彼に操られるコミ和田はあくまでも千石が謝ってくるまではストライキを押し通すぞ、と意固地になっていました。
それを解決するのが禄郎です。「嘘でいいですから梶原さんたちに頭下げてもらえませんか」と千石さんにお願いする。実際に頭を下げに行くのは千石さんですが、後ろで糸を引いているのは禄郎です。

第9話では、普通ならクビにすべき範朝を許すことで彼を暗黒面から引き戻します。第10話では、暗黒面に堕ちていた千石さんにその自覚を促す。

しずかのセリフ「一流っていってもいろいろあると思うんだよね。料理が一流とか店の造りが一流とか。働いてる人間が一流ってのもあるんじゃないかな。そういう意味ではこの店はもうとっくに一流だと思う」が決定打になるとはいえ、「働いている人間を一流にした」のは無類のお人よしたる禄郎であることは衆目の一致するところでしょう。

ベル・エキップを一流の店にしたのは千石さんではなく、禄郎なのです。

その証拠に最終回の第11話では…これは来週を見てからですね。

第7話が異質だと以前言ったのは、禄郎が問題を解決してないからなんですよね。淀んだディナーを解決したのは直接的にはバルマン政子ですが、後ろで糸を引いていたのは千石さん。アンチヒーローがあのエピソードではヒーローだから何か異質な感じがするんです。

いや、そこにこそ『王様のレストラン』の面白さの秘密が隠されている気がしてきました。

それは、第10話での畠山が稲毛に言うセリフ「俺はお前のこと嫌いだけど、好きだ!」ということにも通じるものなのかも…。

「私が来たからです」というセリフがコメディとしては爆笑ものだけど、神話としては深刻なものだということとも通じるような気が…。

そこから「主人公は誰か」という最大の問題があぶりだされてくる気がします。

すべては来週の最終回を見直してからですね。

続き
⑥最低だが素晴らしい!




『王様のレストラン』大解剖④(ディレクトール範朝から千石さんへと至る道)




『王様のレストラン』大解剖シリーズ。

①「ヒーロー」は千石さんではない!?
②ヒーローはオーナー禄郎である!
③シェフしずかはヒーローでないのか?

につづく第4弾です。

しずかがヒーローでないことが前回で明らかになりました。
千石さんもヒーローでないことを明らかにせねばならないというか、その前に、これまでまったく触れてこなかった重要人物、オーナー禄郎の兄でディレクトール(総支配人)範朝の「ヒーローズ・ジャーニー=英雄の旅」を考えねばなりません。

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え? 範朝がヒーロー?

はい。
「ベル・エキップ」で最も嫌われている最大の問題児たるこの男もまた英雄の旅を歩んでいるのです。といっても、しずかなどと同じくプチ・ヒーローですけど。

第9話ではこの範朝が主人公でした。
運が悪かっただけの、ちょっと歯車が噛み合わなかっただけの、とてつもなく長い厄年が続いているだけの憎めない悪人、範朝が借金のかたに店の権利書を売り飛ばそうとしたことが店の全員に発覚します。

千石さんはもちろんのこと、従業員全員がクビにすべきだと息巻きます(しずかだけは違いますが)。

が、オーナーであり範朝の唯一の肉親、禄郎は不問に付そうとします。

「何でそういうことに…?」
「だから、根は悪い人じゃないから」

そうです、彼は何も考えておりません。「真心」を尽くしたといえば聞こえがいいですが、禄郎は何も考えずに発言する達人です。

もちろん、範朝が店に残る決心をするのは、禄郎に諭されたからではなく、こっそり逃げようとしていたところを千石さんに説得されるからです。

「範朝さん、自分を信じるんです。あなたが自身が信じてやれなくて、いったい誰が信じるんですか」

いいセリフです。心に染み入ります。

ここで範朝はとても大事な返しをします。

「不思議だなぁ。あんたと話してると親父を思い出すよ」

そうです。いままでまったく触れてきませんでしたが、「ベル・エキップ」という店は、禄郎と範朝の父であり、千石さんの親友だった先代オーナーシェフの店なのですね。

その先代の店を売り飛ばそうとしたんだから範朝はクビになって当たり前。

とは誰も言いません。千石さん自身も「私たちの努力の結晶を売り飛ばそうとした」という言い方をします。

千石さんが再び「ベル・エキップ」で働き始めたのはなぜでしょうか? 禄郎に説得されたからですね。禄郎はなぜ千石さんを? 当然、父親の親友であり伝説のギャルソンと言われた男を参謀としたほうがうまく行くとの確信があったからでしょう。千石さんは「一流のギャルソンはギャラも一流」というのが信条ですが、実際は禄郎の給料(しずかの給料に毛が生えた程度と第3話で範朝が明かします)から払われている。貯金を切り崩さないと生活できない額でしょう。それでもやるのはただ禄郎に説得されたから?

違いますね。あの店が偉大なシェフだった親友の店だからでしょう。三流になった落ちぶれた店をもう一度一流と呼ばれる店にしたいというのが千石さんの野望です。それは禄郎もしずかも他のみんなも一緒でしょう。最初はそんなのどうでもいいと思っていた面々ですが、第8話のしずか移籍騒動では「この店は昔に逆戻りだ」と危機感をあらわにします。すでにみんなは「店のために」働いているのです。

そんななか、範朝は店を自分のものとして売り飛ばそうとした。断罪されてしかるべきだ。

正論でしょう。

しかし、無類のお人よしである現オーナーの「真心」により、彼はそのとてつもなく長い厄年に終止符を打つことができる。
もし禄郎が範朝をクビにしていたら、おそらく彼はどこかで大問題を犯していたに相違ありません。殺人とか強盗とかね。そんな他人様に迷惑をかけるくらいなら、お兄さんの迷惑は僕が被るよ、なんて高邁な精神が禄郎にあったとは思えませんが、結果的に禄郎の「何も考えていない人の好さ」が範朝を救います。

「俺には無理だ」とのおそれを抱く英雄の卵・範朝に対して千石さんの「自分を信じるんです」との亡き父を彷彿させる一言によって、範朝はヒーローズ・ジャーニーの暗黒面から一気に上昇気流に乗ることが暗示されます。

範朝を暗黒面から救い上げたのは、何より禄郎であり、禄郎の意を汲んだ千石さんであり、不祥事をしでかしても再び仲間に迎え入れた店の全員でしょう。もちろん、愛人のバルマン政子も大きな役割を担っています。

店を自分のものとして売り飛ばそうとした範朝は、逆にアンチヒーローからヒーローへと生まれ変わろうとしています。とてつもなく長い厄年とは、とてつもなく長いアンチヒーローとしての旅だったのですね。これからはヒーローとしての道だ!


さて…


ここにベル・エキップという店を自分のものと見なしているアンチヒーローがもう一人います。


他ならぬ千石さんその人です。
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続き
⑤アンチヒーロー千石武
⑥最低だが素晴らしい!




『王様のレストラン』大解剖③(シェフしずかはヒーローでないのか?)




『王様のレストラン』大解剖シリーズ

①「ヒーロー」は千石さんではない!?
②ヒーローはオーナー禄郎である!

に続く第3弾です。

前回のラストで、『王様のレストラン』のヒーロー、つまり問題を解決する人物は、筒井道隆演じるオーナーの禄郎だと仮説を立てました。

が、その前に確認しておきたいことは、前回の最後で引用した「一流のレストランに必要なのは、シェフとギャルソン、そしてオーナーです」という千石さんのセリフです。

伝説のギャルソン千石さんはヒーローでない、そしてオーナー禄郎こそヒーローだと仮定するなら、なぜ「オマール海老のびっくりムース」を開発したシェフしずかがヒーローでないのかという疑問が起こります。

神話とは「英雄の旅=ヒーローズ・ジャーニー」のことですが、このしずかもまたヒーローなんですね。

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え? どういうこと?

この物語は群像劇だし、連続11回の物語なのでヒーローが各回に一人ずつ全部でたくさんいるんです。

いや、ヒーローはたった一人のはずだから、それぞれはプチ・ヒーローでしょうか。

例えばわかりやすいのは、メートル梶原が元妻に「俺はディレクトール、総支配人なんだ」とウソを言ったためにウソの上塗りを重ねなければならなくなる、という第6話。
あのエピソードのヒーローは梶原その人でしょう。自分で問題を作っておいて自分で解決するなんざマッチポンプですけど、自分が作った問題以上の問題(本物のディレクトール範朝に用があって来た借金取りの出現)を解決してしまうのですから。

第7話では、まったく話のはずまない外交会議が描かれますが、これを解決したのは「一番この店の役に立ってない」と自分で思っていたバルマン政子でした。

寄り道をすると、この第7話がちょっと異色なんですよね。前々からこのエピソードだけ好きになれないと思っていて、その理由は「淀んだ空気を描こうとするあまりドラマ自体が淀んでいるから」と思っていたんですが、今回再見して本当の理由がわかりました。
政子は「早く食べなさいってフランス語でどういうの?」と千石さんに聞き、教えられた言葉をフランス人たちに言って問題を解決するんですが、実はその言葉の本当の意味は「坊や、お口動いてまちぇんよ」と母親が赤ん坊に言う言葉だと最後に明かされます。

つまり、第7話で問題を解決するのは政子でも、後ろで糸を引いているのは千石さんなんですね。ここが他のエピソードと違うところです。どう違うかは後述します。

さて、シェフしずかは彼ら各回のプチ・ヒーローとはちょっと違います。

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昨日放送された第8話は非常に印象深いラストシーンがたまらないんですが、彼女の旅は、「一流の自覚がなかったシェフがその自覚をもち、最高のシェフになるまで」となるでしょう。

もし、「最高のシェフは恋をしているシェフ」というミッシェル・サラゲッタ氏の言葉が正しいなら、第8話においてしずかは最高のシェフになりました。

彼女に一流の自覚を促したのも、最高のシェフに押し上げたのも他ならぬ千石さんです。ならば千石さんがやはりヒーローでは?

いやいや、それは違います。千石さんはしずかのヒーローズ・ジャーニーにおいて、例えば『スターウォーズ』におけるルーク・スカイウォーカーに対するオビワン・ケノービの役どころです。ヒーローを手助けする助言者ですね。

一流への旅に出ることに臆病だったしずかを強引に旅へ出してやるのは千石さんです。第2話で無理やり作ったことのない料理を作らせ、「あなたはコンダクターになる」と命令とも予言とも取れる発言でしずかをその気にさせる千石さんは完璧な助言者です。

そして、しずかはオマール海老のびっくりムースという独創的な料理を作り、店への客足はかつて先代オーナーシェフが存命だったころの勢いを取り戻します。

そして、千石さんへの恋心を募らせた挙句、パリでも五本の指に入るという超一流レストランからの誘いを蹴ることで、逆に最高のシェフへと変容する。

じゃあ、しずかがヒーローじゃないか。オーナー禄郎はしずかの旅に何も関わっていないどころか、最初からしずかのことが嫌いだったぞ。店に引き留めようと画策はしてたけど。

確かにその通りですが、やっぱり、しずかはこの連続ドラマの「本当のヒーロー」ではないのです。

なぜなら、しずかの英雄としての旅はこの第8話で終わってしまうからです。全11話を通してのヒーローではない。彼女もまた梶原や政子と同じプチ・ヒーローだったのです。

では、なぜオーナー禄郎こそが全11話を通したヒーローと言えるのか。

それは千石さんの役割とは何かを考えればおのずと答えが出ます。

続き
④ディレクトール範朝から千石さんへと至る道
⑤アンチヒーロー千石武
⑥最低だが素晴らしい!




『早春スケッチブック』で耳が痛くなった件(二つ目)

ここんところ山田太一さんの『早春スケッチブック』を見ることで、とてつもなくやりきれない思いを強いられているのですが、昨日の日記で書くの忘れてたことをつらつらと。

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山崎努演じる「ありきたりが大嫌いな男」は、カメラマンで一時代を築いた人間で、初めて会う18歳の息子・鶴見辰吾に焚き火をしながらこんなことを言います。

「こうやって枯れ枝を見つけると、どの角度から撮るか、光の具合は、寄るか引くか、そんなことばかり考える。そして撮る。撮ってしまえばもう枯れ枝のことなんか忘れてる。次の獲物を探してる。いつの間にか、ひとつの物事をじっと見つめられない人間になっていることに気づく。人を、街を、花を、自分は少しも見つめていない」

これまた私のことです。

夢の実現のためにあくせくばかりしてしまって、周りの風景が目に入らない。きれいな花が咲いていても、そんなものに時間を奪われるのがいやでしょうがない。

山崎努のように、「獲物」にしか興味がない。その獲物を表現してしまったらもう興味を失ってしまう。

そして、いつの間にか、自分にしか興味がない人間になってしまいました。

岩下志麻のあのセリフがまた脳裏に甦ります。

「お母さん、自分のしていることにうっとりしてる人、嫌いよ」

全否定されてしまいました。

吉田喜重監督の著作に、『自己否定の論理 想像力による変身』ってのがありましたが、私がここから新たに飛翔するためには、これまでの自分を自分で全否定せねばならないのでしょう。

誰かにしてもらうのではなく、フィクションにしてもらうのでもなく、自分の手で。

それができれば…道は開けるでしょうか。



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