サスペンス

2019年01月28日

鈴木京香と草刈正雄の素晴らしい演技が絶賛されまくっている『モンローが死んだ日』。
第3話のラストシーンにはビックリ仰天してしまい、最終回が楽しみでしょうがなかったんですが、残念な結果に終わってしまいました。


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夫に死なれ、猫と孤独に暮らす鈴木京香は淋しさから精神状態が不安定になり、精神科医・草刈正雄の診察を受け、彼に恋をする。しかし、彼は実はニセ医者だった、というのが第3話までの内容ですが、最終回では「なぜ彼はニセ医者を装ったのか」という説明ばかりで、納得はできるんですけど受け容れがたいものでした。


金のためにニセ医者をやっていた
草刈正雄にはモンローの物真似で一世を風靡した芸人の娘がいて、彼女は不幸にも子どもを亡くしたことから精神を病んでしまい、もともと総合病院で事務をしていた父親・草刈正雄は精神医学を独学で学ぶ。金銭的に行き詰まったとき、「お父さん、もう精神科医になれるよね」という娘の悪魔の囁きをきっかけに鈴木京香の住む小さな町の診療所にニセ医者として赴任する。

というのが草刈正雄の背景ですが、金のためにというのが決定的に面白くない。必要に迫られてしょうがなく、ということでしょう?

娘のために精神医学を勉強したとはいえ、もう開業してもいいぐらいの自信がある。精神科の患者は転移と呼ばれる現象で医師に恋をする傾向が強いから歳を食った俺でも行けるかも。娘の世話ばかりはもうごめんだ……という邪な動機のほうがよかったんじゃないでしょうか。

事あるごとにマリリン・モンローを引き合いに出して「彼と彼女は医師と患者を超えた関係だった」というのも転移を促すためだった。狙い通り美女と恋に落ちるが、彼女との逢瀬を優先するばかりに娘が自暴自棄になってしまい自殺する。彼は自分を責める。責めても娘は戻ってこない。だから姿を消す。「私はもうあなたに会ってはいけない」と自分を責める男と、彼をやさしく包む女のラストシーンであれば、涙と拍手でを迎えられたとのに、と。


娘の自殺
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『モンローが死んだ日』のモンローって佐津川愛美のことでしょ? やっぱり彼女の自殺が新聞記事で触れられるだけというのは致命的だと思う。第3話まで、主人公が知っている情報量と視聴者が知っている情報量を同じにしておくのは大事ですが、最終回は主人公の知らないところでいろんなことが起こってもよかったのではないでしょうか。ずっと鈴木京香に寄り添って語られるので、佐津川愛美の自殺が直截的に描かれず、草刈正雄がその事実に直面してどのような感情を表出させたのかが事後的にセリフで説明されるだけ。娘のためにニセ医者を装ったのに娘の自殺をどう受け止めているのかサラッと触れるだけというのにはイライラしました。

確かに、佐津川愛美が自殺して物語世界からすみやかに退場してくれたほうが鈴木京香とのドラマに決着をつけやすい。それはわかります。しかし、登場人物は生きた人間であり小道具ではないのだから、物が紛失したみたいに「死んだ」だけで済ませるのは、単純に登場人物と演じる役者さんに対して失礼だと思います。




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2019年01月15日

「週刊文春エンタ!」で徹夜必至と紹介されていた井上ひさしさんの『十二人の手紙』(中公文庫)を読みました。(できれば作品を未読の方は以下の感想は読まないでください。特にネタバレはしてませんが読まないほうが楽しめるかと)

徹夜はしなかったというか、もう徹夜なんかできる歳じゃないだけで、徹夜するほど面白いという惹句に嘘はないでしょう。13の手紙や書簡から成る短編集なのにひとつの話が終わってもすぐ次が読みたくなる。もうページをめくる手が止まらない。

ミステリと紹介されてましたが、謎解きとかそういうものではなく、正確にはサスペンスでしょうね。シリアスなサスペンスもあればコミカルなものもあり、ほとんどホラーじゃないかと思えるものもあったりするなど多種多彩。

手紙なのですべて一人称で書かれています。どうも去年、二人称の小説を書いたからか、小説における「人称」というものにこだわってしまうのですが、この一人称しかありえない書簡体小説において、プロローグ「悪魔」というのは純粋な一人称小説ですが、他のものはすべて「複数の一人称小説」になっています。

つまり、手紙の書き手が複数いるということです。手紙なんだから当然ですよね。書けば返事が来るのだから「悪魔」のような形が特別で、他の作品が普通のあり方でしょう。

で、その複数の手紙の書き手によって、ウソが暴かれたりする。そのウソも意図的で悪いウソもあれば、微笑ましいウソもあり、さらには書き手すらウソとわかってない無意識のウソもある。この無意識のウソを扱ったものが私には一番面白かったですね。タイトルを挙げれば「隣からの声」「シンデレラの死」というところ。こわい。

あとは「鍵」なんていう本格ミステリかと思わせておいて喜劇として収束するものも面白いし、「里親」みたいにダジャレがカギになっているのも悪くない。「葬送歌」の底意地の悪さも面白い。たぶん井上ひさしさんの周りにこういう「悪い小説家」がいたのでしょう。

とか言いながら、解説でも書いてありましたが、「赤い手」と題された作品が一番この短編集の精髄のような気もします。

これは手紙ではなく、出生届や死亡届、死亡診断書、転入届、転籍届、欠席届、洗礼証明書、誓約書、起訴状など公的文書だけを使って、私生児として産まれ修道院に引き取られた不幸な身の上の少女が、キャバレーのホステスに身をやつし、そして車に轢き殺されるまでの悲劇を語り尽くしてしまうのです。

これには唸らされました。もう40年も前にこんな斬新な作品が書かれていたのかと。もっと早く読みたかったと後悔しています。「赤い手」の最後2ページほどだけがその少女の手紙になっていて、これが泣かせるんです。

エピローグでは、プロローグ「悪魔」で悪役だった男に復讐しようと、無残にも愛人の子を殺してしまった女の弟がホテルに立てこもる事件を扱っているんですが、何とそれまでの12の作品の登場人物がそのホテルに泊まっているという設定で人質に取られるんですね。

最後の短編の終わり方が難しいんじゃないかと思って読み進めていたんですが、そう来たか、と。

天才としか言いようがないですね。井上ひさしさんの作品はこれまで1冊しか読んだことなかったんですが、これからもっと読んでいこうと思います。
いやぁほんと、こんなド傑作をこの歳になるまで読んでいなかったとは不覚のうえにも不覚ですわ。


十二人の手紙 (中公文庫)
井上 ひさし
中央公論新社
2009-01-25




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2019年01月11日

昨日から始まった沢村一樹主演の『刑事ゼロ』
記憶喪失で20年間の記憶を失った刑事が活躍するというので面白そうだと思って見始めたんですが……


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苦手な本格ミステリ
はっきり言って途中で見るのやめようかと思いました。

何しろ私は本格ミステリというのが苦手でして。昨日の1話でも「源氏香図」というのはまったく知らなかったので雑学としての面白さはあったものの、それに沿って殺人を犯していくという見立て殺人というのがぜんぜん乗れない。あんなふうに人を殺す人なんていないでしょ、と、たまに本格ミステリを読むといつも思ってしまうんです。

でも、『刑事ゼロ』で扱われる事件がすべてそういうものかどうかはわからないし、と思って見ていましたが、しかし、この物語の一番の勘所は犯人が誰かとかトリックは何かとかそういうことじゃなくて、主人公が記憶喪失だということですよね。


なぜ刑事を続けるのか
沢村一樹がなぜ刑事を続けようとするのかわからなかったんです。必死で記憶喪失を隠して刑事を続けようとし、部下の瀧本美織にばれて監察に言うと言われ、それでも続けると。20年前は交番勤務だったようで刑事に対する憧れはあるんでしょうけど、それだけで記憶喪失なのに続けるだろうか、と。

瀧本美織を必死で説得する場面で少しは納得できましたけど、まだ何かわだかまりがある。

と思っていたら……


大逆転!
もともとおかしいと思っていたんですよね。看護婦と言わずに看護師と言っていたのには気づきませんでしたが、スマホの操作の仕方をなぜ知ってるんだろうとは思ってました。叔父の医師・武田鉄矢に、

「実は20年間の記憶をすべて失っているわけではない。刑事に関することだけを忘れている。忘れているというより、記憶はあるがそれを思い出そうとすると無意識が拒否する。刑事であることにかなりのストレスがあったようだ」

みたいな意味のことを言いますが、これで俄然興味が湧き、来週も見ようと思いました。

『仁義なき戦い』の脚本家・笠原和夫は、「枷は主人公の心のあり方にこそ求めるもの」という教えを遺していますが、このドラマはまさにそれですよね。

主人公の無意識は刑事を辞めたがっている、でも警察官を志した彼の正義感はそれよりも強い。交番警察官だったころの純朴な主人公が、名刑事と謳われた心の中のもう一人の自分との闘い。面白そう。

ただ、それと事件の謎解きがリンクしていないのが気掛かりです。昨日の見立て殺人の謎解きはそれとは関係なく、ただ沢村一樹が刑事の嗅覚を失っていないことを瀧本美織に思い知らせるためのものだけだったような……? 

来週からの事件は記憶喪失とのリンクがあるのでしょうか。記憶の秘密が明らかになると、彼が必死で刑事を続けようとした動機にも納得がいくのでしょうか。

これからどういう展開を見せてくれるのか、とても楽しみです。





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