聳え立つ地平線

ありえないものを発見すること、それを写し撮ること、そしてきちんと見せること。

サスペンス

ゆっくり喋る真木よう子の滑舌に秘密 『よつば銀行 原島浩美がモノ申す!』

すでに3話を終えた真木よう子復活作の『よつば銀行 原島浩美がモノ申す! ~この女に賭けろ~』。

ちょっとタイトルが長すぎますね。原作タイトルは『この女に賭けろ』らしいですが、『よつば銀行 原島浩美がモノ申す!』だけでいいと思うし、主人公の名前をタイトルに冠するならもっとインパクトのある名前に変えたほうがよかった。

とはいえ、内容はとても面白い。

私は、真木よう子の喋り方にその秘密があると思います。


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あまりに高いハードル
この物語で原島浩美が跳ぶように設定されたハードルはあまりに高い。頭取を追い落とそうとする副頭取と過去の因縁があって会社を追い出されそうになっているという設定。頭取だって別に味方じゃないし、敵の敵は味方というだけで第2話では援護射撃してくれましたが、結局それだけの関係でしかない。

副頭取の横槍は威力絶大だし、支店長も誰も味方しれくれない。孤立無援の主人公はほとんど「偶然」で勝利を手にしてきました。

第1話では、ある会社の社長子息が原島浩美と同様、美術に造詣が深いというのが功を奏しただけですし、第2話では頭取派の矢島健一が柳葉を撃ち落とそうと頭取に入れ知恵してくれなかったらあの時点で話は終わり。

昨日の第3話では菅原大吉が自腹を切ってくれなかったら、奥さんがさばけた人じゃなかったらジ・エンドでした。

やはりハードルが高すぎるのだと思います。

じゃあ、つまらないのかと問われたら「面白い!」と答えます。
それはまず西田征史さんの作劇のうまさですね。最後は絶対勝つとわかってるんだけど、そこに至るまでの構成が手堅いのでまったく退屈しない。プロの技だと思います。さすがは『半分の月がのぼる空』『ガチ☆ボーイ』『小野寺の弟・小野寺の姉』を手がけた方だと感服します。

でも、私が考えるこのドラマの勝因は下記です。


ゆっくり喋る真木よう子
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丸山隆平がお約束通りいつも原島浩美の手伝いをさせられますが、彼だって半分以上自発的に手伝っている。菅原大吉だってそうでしょう。

確か第1話でしたか、丸山隆平が「あの人には人を巻き込む力がある」みたいなことを言ってましたが、それは本当に感じます。

なぜそう感じるか。

その理由こそ、真木よう子のゆっくりした喋り方なのではないかと。

キャピキャピした女の子が周りを巻き込んでもあまり面白くないですよね。特に「ドラマBiz」というサラリーマン向けの枠でやるような主人公の設定ではない。

真木よう子はもともと滑舌のいい役者だから早口でもはっきり発音できるんですが、このドラマでは完全に意図的にゆっくり喋っています。

ずっと前の『ホンマでっか!? TV』で言ってましたが、

「滔々とよどみなく喋る人は信用されない。訥々と喋る人のほうがかえって信用される」

そう。真木よう子は実際には訥々とは喋っていないけれども、とてもゆっくりなので訥々した感じに聞こえる。それで周りからの信用を得ているのでしょう。この人なら巻き込まれてもいい、いや、自分から何か手伝おうと思わせるものがある。

周りが手を貸すから原島浩美は連戦連勝なわけですが、その理由が理屈じゃなく腹に落ちてくるものだから面白いのでしょう。

脚本内に設定されたハードルを脚本家が簡単に跳べるよう細工したらまったく面白くありませんが、脚本とは関係ないところで跳べる工夫をしてるんですね。だから高すぎるハードルを楽々と跳び越えても面白い。

あの異様なまでにゆっくりした喋り方は、西田征史さんが台本にあらかじめ書いたものなのか、それとも原作に書いてあるのか、現場で監督がそういう芝居をつけたのか、はたまた真木よう子の発案によるものか。

気になりますが、それは大きな問題ではないのでしょう。

第2話で原島浩美が言っていたように「誰の手柄でも同じではありませんか?」。ドラマ作りはチームワークですから!





『幻の湖』(橋本忍が好きになった傑作!)

橋本忍が嫌いだった
私は橋本忍という脚本家が大嫌いでした。『生きる』『切腹』『砂の器』などで押しも押されもせぬ名脚本家と誉れ高い方ですが、『砂の器』はまだしも、『生きる』の奇を衒った構成には思い出しただけで鼻白んでしまうし、『切腹』に関しては「あんな頭だけで作った映画はダメです」と一刀両断にした淀川長治さんの言葉に何度も膝を打ったものです。


『幻の湖』
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それが、先日、日本映画専門チャンネルで、監督もした『幻の湖』を初めて見ていっぺんに好きになってしまいました。それぐらいこの『幻の湖』はめったやたらに面白かった。

世紀の珍作なんて評があるのは知っていたので、少しでもつまらなかったら見るのやめようという軽い気持ちで見始めたんですが、何やら得体の知れない魅力にあふれた映画で、珍作というのもうなずけますが、最後まで見たいま、やはりこの映画にふさわしい言葉は「傑作」だと断言します。


ソープ嬢の復讐物語
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戦国時代をモチーフにしたソープランドで働く主人公は拾ってかわいがっていた犬シロを殺され、その下手人に復讐するというのが物語のあらましです。

特にすごいと思ったのは、犬が死んでから復讐を誓うまで、つまり警察に届けたり、そこで適当にあしらわれたり、会社まで犯人に会いたいと詰め寄っても体よく追い返されたり、はたまた復讐とは関係ないシーンや描写がものすごく長いことです。

復讐物語なのだからそういうところは不自然でない程度にパパッと済ませたくなるじゃないですか。それをかなり長い時間をかけてみっちりねっとり、ときには意味不明に描いていくんですね。警察や弁護士は「犬の放し飼い許可証がなきゃ」みたいなことを言って諦めさせようとしたり(放し飼い許可証なんてあるんだろうか。当時はあったんですかね?)男の会社の受付嬢は写真をくれと言われてなぜか「あなたにあげる写真なんかない!」と突然キレたりします。

復讐物語の主人公は復讐する。これは「映画の原理」です。でも、だからといってすぐ復讐に手を染めるわけではないし、できるわけでもない、周りはそんなことさせてくれない、というのが「世界の原理」です。橋本忍は徹底的に「世界の原理」に忠実すぎるほど忠実に描写を積み重ねていきます。だから意味不明になるのです。復讐に躍起になっているはずなのに銀行の営業マンといい仲になって観光映画みたいになったり、この丁寧すぎるぐらいの描写には唸りました。

え、丁寧? どこが! という声が聞こえてきそうですが、あくまでも「世界の原理」を丁寧に描いていると言いたいのです。復讐志願者だからといって簡単に標的が見つかるなんてありえないし、妙齢の女性なんだから復讐そっちのけで恋に走りもするだろう、変な妄想に囚われることもあるだろう、復讐者だって生活してるんだから復讐という目的に沿って直線的に物語が進むほうがおかしいんだよ、という通俗的娯楽映画への異議申し立て。アメリカのB級映画みたいにパパッとやってしまえば全体が80分くらいに収まっただろうに、興行的に不利になるのを承知で丁寧すぎる描写の積み重ねを選んだ。

時間が飛んで戦国時代のシーンになったりもするし、最後にはスペースシャトルが発射したりもするんですが、そういうぶっ飛んだ内容なのに見ていられるのは丁寧な描写の積み重ねを怠っていないからでしょう。そりゃま、ああいうのをアホだと断じたい気持ちもわからないではありませんが。


ついに復讐を完遂するまさにそのとき!
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ついにシロを殺した男を見つけて追いかけるんですが、他に2度ほど追いかけっこのシーンがあります。それもかなり長いシーンです。ついに追いつけなかったり、最後は追いつきますけど何度も引き離されそうになります。警察や男の会社で体よくあしらわれるのと同じで、橋本忍は主人公になかなか復讐を完遂させません。それが普通だよ、と言わんばかりに。

しかもこの映画、相当狂っています。

ついに男に追いつき、シロを殺した包丁で男を刺し殺すのかと思ったら、何と追い抜いてしまうんです。そして「勝った、勝ったよ、シロ!」

えええええええええええええええええええええ!!!!!!???????

マジっすか。追い詰めて刺し殺すんじゃなくて追い抜くのが目的だったの!? 何これ。いつの間にか復讐映画からマラソン映画に変わってたのか、と思ったら、我らが主人公は首尾よく男を刺すので安心します。しかし!

もう一度とどめに刺した瞬間、スペースシャトルが発射するんですねー。

あまりのぶっ飛びぶりにゲラゲラ笑い転げました。これは面白い!!!


底流する「虐げられた者」への愛情
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本筋の復讐は殺されたシロへの想いで駆動されますし、結構長い時代劇パート(高橋恵子と星野知子が美しい)でも信長の気まぐれのせいで串刺しにされた浅野長政の子ども(万福丸)への哀惜の念が描かれます。虐げられた者への愛情が底流しているからこそぶっ飛んだ描写を楽しく見れるのだと思います。

というか、シロや万福丸のように「理不尽に殺される者」というのがこの『幻の湖』を解き明かすカギでしょう。

世界は理不尽に満ち溢れている。それが「世界の原理」です。だからシロは無残に殺される。警察も少しも親身になってくれない。会社の受付嬢は突然キレる。

「勝った!」という冗談としか思えないセリフもそう考えると腑に落ちます。本来の目的を見失い、別の目的に無意識にすり替えるのも「世界の原理」でしょう。

橋本忍はどこまでも理不尽に満ちた「世界の原理」を描こうとしたのでした。『切腹』もまた理不尽に立ち向かっていく映画でしたが、あの無駄のない緊密な構成、あれでいいのか、という思いがあったんじゃないか。もしなかったのなら、なぜこんな映画を作るのか少しも理解できません。『切腹』みたいなのはしょせん「映画の原理」で貫かれた絵空事なのだという思いがあったから『幻の湖』を作ったんだと思います。

もちろん、『切腹』の脚本を書いていたときはそのようなことは微塵も思っていなかったのでしょう。月日が経つにつれて「あれでよかったのだろうか」と疑問が高じてきたのだと察します。

生涯忘れられない映画との出逢いになりました。未見の方はぜひ見てください。「世界の原理」に負けてばかりなのに最後の最後で「映画の原理」が勝利する『カリフォルニア・ドールス』のような爽快な映画です。

ただ、そのあとのスペースシャトルの乗組員が地球の琵琶湖の上に笛を置くというのはまったくわかりません。それもペタッと貼り付けるみたいに置いてましたよね。笑うしかなかった。戦国時代と現代と宇宙の破滅までを強引につなぐ豪快な、あまりに豪快な……

あれが何なのかはまったくわかりません。橋本忍という稀代のフィルムメーカーが到達した「神の境地」なのかもしれませんね。


幻の湖
南條玲子
2015-07-01







『モンローが死んだ日』最終回がとても残念だった件

鈴木京香と草刈正雄の素晴らしい演技が絶賛されまくっている『モンローが死んだ日』。
第3話のラストシーンにはビックリ仰天してしまい、最終回が楽しみでしょうがなかったんですが、残念な結果に終わってしまいました。


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夫に死なれ、猫と孤独に暮らす鈴木京香は淋しさから精神状態が不安定になり、精神科医・草刈正雄の診察を受け、彼に恋をする。しかし、彼は実はニセ医者だった、というのが第3話までの内容ですが、最終回では「なぜ彼はニセ医者を装ったのか」という説明ばかりで、納得はできるんですけど受け容れがたいものでした。


金のためにニセ医者をやっていた
草刈正雄にはモンローの物真似で一世を風靡した芸人の娘がいて、彼女は不幸にも子どもを亡くしたことから精神を病んでしまい、もともと総合病院で事務をしていた父親・草刈正雄は精神医学を独学で学ぶ。金銭的に行き詰まったとき、「お父さん、もう精神科医になれるよね」という娘の悪魔の囁きをきっかけに鈴木京香の住む小さな町の診療所にニセ医者として赴任する。

というのが草刈正雄の背景ですが、金のためにというのが決定的に面白くない。必要に迫られてしょうがなく、ということでしょう?

娘のために精神医学を勉強したとはいえ、もう開業してもいいぐらいの自信がある。精神科の患者は転移と呼ばれる現象で医師に恋をする傾向が強いから歳を食った俺でも行けるかも。娘の世話ばかりはもうごめんだ……という邪な動機のほうがよかったのではないか。

事あるごとにマリリン・モンローを引き合いに出して「彼と彼女は医師と患者を超えた関係だった」というのも転移を促すためだった。狙い通り美女と恋に落ちるが、彼女との逢瀬を優先するばかりに娘が自暴自棄になってしまい自殺する。彼は自分を責める。責めても娘は戻ってこない。だから姿を消す。「私はもうあなたに会ってはいけない」と自分を責める男と、彼をやさしく包む女のラストシーンであれば、涙と拍手でを迎えられたとのに、と。


娘の自殺
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『モンローが死んだ日』のモンローって佐津川愛美のことでしょ? やっぱり彼女の自殺が新聞記事で触れられるだけというのは致命的だと思う。第3話まで、主人公が知っている情報量と視聴者が知っている情報量を同じにしておくのは大事ですが、最終回は主人公の知らないところでいろんなことが起こってもよかったのではないでしょうか。ずっと鈴木京香に寄り添って語られるので、佐津川愛美の自殺が直截的に描かれず、草刈正雄がその事実に直面してどのような感情を表出させたのかが事後的にセリフで説明されるだけ。娘のためにニセ医者を装ったのに娘の自殺をどう受け止めているのかサラッと触れるだけというのにはイライラしました。

確かに、佐津川愛美が自殺して物語世界からすみやかに退場してくれたほうが鈴木京香とのドラマに決着をつけやすい。それはわかります。しかし、登場人物は生きた人間であり小道具ではないのだから、物が紛失したみたいに「死んだ」だけで済ませるのは、単純に登場人物と演じる役者さんに対して失礼だと思います。


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