聳え立つ地平線

ありえないものを発見すること、それを写し撮ること、そしてきちんと見せること。

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京都アニメーション制作『氷菓』第19話「心当たりのある者は」は『9マイルは遠すぎる』を超えたか!?

前回の記事
自主映画エピソードが素晴らしすぎる!

に続く、京都アニメーション制作の『氷菓』の感想です。(以下ネタバレあります)

自主映画エピソードの次は文化祭での連続窃盗犯の謎解きでしたが、これはあまり面白くなかったです。やっぱり最後のセリフで全部の謎ときというのは、まるでかつての火サスみたいでゲンナリしました。

しかし、それに続く、一話だけの「心当たりのある者は」が素晴らしかった! 
あのハリイ・ケメルマンの名作短編『9マイルは遠すぎる』への挑戦ですね。はたして超えることはできたのでしょうか。

「9マイルもの道を歩くのは容易じゃない。ましてや雨の中となるとなおさらだ」

という言葉だけから、推論に推論を重ねてその前夜に起こった殺人事件の謎を解いてしまうのが『9マイルは遠すぎる』でした。

『氷菓』の「心当たりのある者は」では、

「10月31日、駅前の巧文堂で買い物をした心当たりのある者は、至急、職員室柴崎のところまで来なさい」

という校内放送から推論を重ねていきます。

まず、巧文堂とは何か。高齢の夫婦が営んでいる小さな文房具屋である。
柴崎とは誰か。教頭である。
いまはいつか。放課後である。
放課後ならすでに帰ってる可能性もあるのになぜ明朝ではなく、いま校内放送で呼び出すのか。急いでいるからである。
なぜ生徒指導室ではなく職員室なのか。なぜ教頭が呼ぶのか。大きな問題だから。管理職の者しか知らされていない問題だから。

というわけで、ここまでで、呼ばれている生徒Xは何らかの「犯罪」に関わっているとの推論に辿り着きます。

ここまでなら誰でも思い浮かぶでしょうが、秀逸なのはここからですね。『9マイル』ばりの推論です。


文房具店での犯罪。万引きか? しかし、それなら「買い物をした心当たりのある者は…」などという呼び方をすれば、「まだ犯人の目星はついてないらしい」と生徒Xはほくそ笑むに違いない。
もし警察が生徒Xの顔など外見を知っていれば「買い物をした心当たりのある者は…」などという呼び方はしないはず。ならば警察は生徒Xがどういう外見かという情報をもっていない。
情報はもっていないが、警察はすでに学校に来ているものと思われる。なぜなら今日が11月1日だから。つまり10月31日とは昨日。ならばなぜ「昨日」と言わずに「10月31日」と言ったのか。「10月31日」と書かれたメモをそのまま読み上げたからである。警察が来てそのメモを渡し、放課後にもかかわらず、まだ生徒Xが下校してないという可能性に賭けて慌てて校内放送をしたと思われる。

推論はついに佳境を迎えます。

生徒Xの外見などの情報は知られていない。しかし、うちの学校の生徒が関与していると警察が知っているのはなぜか。生徒Xが文房具店に謝罪の手紙を書いたに違いない。
しかし万引きくらいで謝罪するだろうか。いや、謝罪するかもしれないが、警察がそこまで急いでいるのはもっと大きな犯罪ゆえのはず。

偽札だ!

生徒Xは偽札を使ったのだ。謝罪の手紙を書いたということは、最初から偽札と知っていて使ったはずであり、最初から偽札と知っていながら警察に届けなかったのは、恐い先輩に貸した金を返してもらったがそれが偽札だった。「これ偽札じゃないですか」とは言えなくて、高齢の夫婦が営んでいる文房具店でなら使ってもいいんじゃないかと魔が差した。しかし良心の呵責に耐えかねて…

というのが主人公・奉太郎の結論。で、これが大当たり、というのが結末です。

偽札だ! というところがちょっと突飛というか、推論というより思いつきで、その思いつきを推論で補強するというのでは、『9マイル』のほうが上かな、と思いましたが、『9マイル」では探偵役の男が「ほんの些細な言葉からいろんなことを推論できる」と意気込んで推論を始めるのに対し、奉太郎は「推論なんて当たらない。俺は運がいいだけで、いままでの推理が当たってたのは偶然にすぎない」というと、同じ古典部所属で不思議天然少女の千反田える(チタンダ・エル)は「偶然じゃない」と言い張り、奉太郎は自分は真実を当てることができないと賭けて推論を重ねるわけです。

ここが『9マイル』とは違うところ。しかも、推論に熱が入ってしまった二人は、「いったい何で俺たちはこんなに熱っぽく語り合っていたんだろう」と夕焼けのなか二人で帰ります。このへんは『9マイル』より面白いですね。というか、あえて逆を行こうとしたんでしょうが。

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これはあくまでも奉太郎の幻想。「二人乗りでもいいですよ」と千反田は言うのに、「ありえない」と別々に帰ってしまう。うーん、今回はこの二人しか出てこないから何か進展があるかと思ったのに。


京都アニメーション制作『氷菓』の自主映画エピソードが素晴らしすぎる!

京都アニメーションが2012年に制作した全22話のシリーズものアニメ『氷菓』をようやく見ることができました。というか現在完了進行形で見ています。
アニメでミステリ、というのはすごく珍しいんじゃないんですかね? アニメ事情には疎いのでよくわかりませんが。

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さて、この『氷菓』、シリーズとしてなかなか面白いです。
各エピソードの面白さもさることながら、主人公・折木奉太郎(オレキ・ホウタロウ)が「エネルギー効率(別の言葉で言えばコスパ)を何よりも重視するいまどきの若者」なのがいいですね。無駄なことはやりたくないと言いながらいろんな謎を解決してしまう。いわゆる名探偵という風格はなく、でもやっぱり名探偵という設定が秀逸かと。

最初は、主人公たちが所属する古典部(これもすごく珍しい)の歴史をめぐる謎。

その次が小さな謎が二つ続いて、そのあとが先輩たちが作った自主製作映画をめぐる謎。

これ、すごくいいと思いました。

密室殺人が起こるその自主製作映画では、後半の謎とき部分の脚本ができていない。脚本家の生徒が悩みすぎて倒れてしまった、と。途中まで撮影された映像を見て誰が真犯人かを当て、それをもとに結末部の脚本を書いて映画を完成させる、というミッションが描かれるのですが、二転三転するプロットが実にいいんですよ。

倒れた脚本家(最後まで登場しません)は小道具班にどういう指示をしていたかとか、映像に映っているさまざまな手がかりをもとに推論に推論を重ね、最後は「ミステリ」と聞いて推理ものと思う人もいれば「ホラー」のことだと思っている人もいる、という「本当に?」と思ってしまうことまで手がかりにして主人公はミッションを完成させる。

が、奉太郎は完全に間違っていた!
奉太郎は、それまでのエピソードで名探偵ぶりを発揮していたために傲慢になってしまってたんですね。で、あることが盲点になっていた。

その盲点とは…

ミステリだから詳しく書けませんが、この自主映画エピソードは坂口安吾の大傑作ミステリ『不連続殺人事件』への挑戦じゃないかとさえ思います。

『不連続殺人事件』は、心理的なトリックが鍵でした。普通は、密室の仕掛けとかアリバイとか凶器の隠し方とか、ミステリのトリックって物理的なものがほとんどですが、心理的なトリックを作り出したのが安吾の独創でした。

この『氷菓』自主映画エピソードにおいて、心理トリックというとちょっと違うんですけど、謎解きの鍵が人間の心理なんですよね。
奉太郎は「俺なら密室の謎を解ける」という傲慢な思い込みが激しいあまり、最後まで書けずに倒れてしまった脚本家の気持ちを忖度することをまったく忘れてしまっていた、という事実に気づいたとき、初めて「謎の核心」に迫ることができる、と。

『不連続殺人事件』では、真犯人が人間の心理にトリックをかけるというものでしたが、この作品では、探偵役の人間の心理にトリックをかけて「密室」にしてしまうんですね。実際の密室殺人の謎ではなく、探偵自身が無意識に作った己の心中の密室の謎を解くことですべての謎が解けてしまう、という見事すぎるほど見事な物語構成となっています。

とうとうあの名作『不連続殺人事件』を超える推理ものが現れたか、と感慨深いです。

『氷菓』はまだまだ半分ほど未見です。続きを見るのが超楽しみです! お奨めですよ。

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この二人の行く末がどうなるのかも含めてね。(たぶん、どうにもならない気がするんですが…)

続き
第19話「心当たりのある者は」は『9マイルは遠すぎる』を超えたか⁉



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