マンガ

2018年09月26日

花田菜々子さんの『出会い系サイトで実際に70人と会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』で軽く触れられていた史群アル仙(しむれ・あるせん)の短編集『臆病の穴』第1巻を読みました。

つい先日、デビュー作の『今日の漫画』の感想を書きましたが(→こちら)この史群アル仙という人は引きこもりでコミュ障という自分の生活や性格を礎にした思想で勝負していて、とても面白い。

『今日の漫画』が読切1ページだったのに対し、この『臆病の穴』は10~20ページの普通の短編集です。愛を希求する者どものウロウロが描かれていてとても面白かった。なかでも特に気に入った3作品をご紹介しましょう。


「また夜がきたら……」
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これは、友人も多く、家族とも円満な中学生(高校生?)が主人公なんですが、円満なのは昼間だけで、夜は家族も友人も道行く人や警官までもが彼を殺そうと狙ってきます。
おそらく史群アル仙さんにとって、このマンガの夜が自分にとってのリアルな生活なのでしょう。昼間はそうありたいという願望なのかな?

でも、願望といえば、夜に現れる人で唯一彼を襲わないクラスメイトのケイコちゃんという子がいて、作者が好きな子だったんだろうと思われます。しかし、この子さえ主人公を襲ってくるほうが作品としては面白いのに……と思ったんですが、そうできなかった作者の気持ちもわかる気がします。


「さくら、愛してる……」
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これはちょっと『百万回泣いた猫』に似てるな、と思いました。(あの絵本は昔一回だけ読んだだけなのでうろ憶えですが)

主人公はさくらという名前の奥さんを愛していて、すぐ「さくら、愛してる」という言葉が口をついて出てくる。すると夢から覚めて、学生や園児の姿になっても「さくら、愛してる」と言っては目が覚め、ついには動物の姿になり宇宙人の姿になっても「さくら、愛してる」と言い続ける。愛してると言わなければいいと気づいたものの、やっぱり好きだから言わずにはおれない。この夢は永遠に続くのかと思われたとき……現実の主人公は死の床に就いていて、妻のさくらさんから初めて「愛してる」と言われます。そして安らかに死んでいく。

素晴らしい。愛されることを希求してウロウロする作者の心情がひしひしと伝わってきます。そしてそのための切符はこちらから愛することであると。


「怪物父さん」
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交通事故で妻を死なせてしまったお父さんが怪物になった。一人娘は怪物父さんのお守りをするのが大変で自分の運命を呪う。医者に見せると、

「愛を存分に与えると人間に戻りますよ。愛を失うと人は怪物になるのです。怪物を救えるのは生粋の愛のみです」

と言われる。理屈としてはわかっても娘は怪物父さんにつらく当たってしまい、ついには街中で捨ててしまう。警察からの電話で交番に駆けつけると、お父さんが花をプレゼントしてくれる。怪物になっていたのは娘のほうだったのですね。「怪物と戦うときに大切なことは、自分も怪物になってしまわないことだ」というニーチェの言葉が思い出されます。

この「怪物父さん」には続編があって、そちらでは娘が本当に怪物になってしまう。それを人間に戻ったお父さんが愛情をもって救おうとする結末で、ここでも愛されることを希求してやまない作者の心情がストレートに表現されていて好感がもてます。

早速、第2巻も堪能します。






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2018年09月21日

花田菜々子さんの『出会い系サイトで実際に70人と会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』で小さく紹介されていた史群アル仙(しむれ・あるせん)というマンガ家さん。何でもちょっと前まで引きこもりだったそうで、ツイッターで試しに1ページ読切の漫画を載せたらぐんぐんリツイート数が伸びてフォロワーも一気に1万人を超えたとか。

そのマンガがこちら↓

『狂人になりきれない男』
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気が狂って自分を馬鹿にした連中を皆殺しにしてやる! と意気込んだ主人公が妹の「お兄ちゃん、どうしたの?」という無垢な一言に救われる。
まぁよくある話だと言えばよくある話ですが、妙なリアリティがあります。私自身にも似たようなことがありましたが、ここは友人のエピソードを紹介しましょう。
彼は「このままでは誰か人を殺してしまう」と自分で自分が恐ろしくなり、ある日、思いきってお母さんにそのことを告白しました。「俺、誰かを殺してまいそうや」するとお母さんは「はいはい、何でもええからご飯食べ」と少しも取り合わない。でも彼はその一言に救われ、二度と自分が自分でなくなる恐怖を味わうことはなかったそうな。

この作品は妹の純粋な気持ちが兄を救う、となっていて、比べるとすると、友人のエピソードのほうが上かなと思います。なぜ救われたのかよくわからないぶんね。因果関係がはっきりしていないほうが物語の奥行きは深くなりますから。


さて、この『今日の漫画』では、このような1ページだけの読切マンガが73編と、10ページ未満の短編が3編収められています。

他に私の心を撃ちぬいたのを3編だけご紹介すると、

『学校』
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クラスで自分だけがネズミで周りはみんなネコ。ネズミの主人公は自分だけ異質でしかも弱く、標的になる毎日にうんざりしている。「死の恐怖に怯えながらじっとしているのだ……毎日」と。
これは作者が実際に学校に行っていたときの心情を素直に表現したものでしょう。私も同じような感じだったからよくわかります。底なしの孤独。。。


『失敗』
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楽しかった日々が思い出されるけれど、我に返ると首を吊ろうとしたロープが切れて自殺は失敗に終わる。死ぬ直前にそれまでの人生を走馬灯のように思い出すというアレをマンガにしたものです。『ふくろうの河』(アンブローズ・ビアス『アウル・クリーク橋の一事件』の映画化作品)のハッピーエンド版といっていいんじゃないでしょうか。
いずれにしても、私のような過去に自殺を図ったことがある者にとってはやたらリアリティがあります。私は別にその瞬間に走馬灯が見えたなんてことはありませんでしたが、心の中に過去のあれやこれやが浮かんでは消えていきました。
人間の記憶は、その人がどれだけ幸せな人生を送っていようと、どれだけ不幸を味わっていようと、楽しかった記憶、つらかった記憶、そのどちらでもない記憶が「6:3:1」になっているそうです。そういう配分になってないと生きていけないんだとか。


最後はもう少し明るいものを。

『シノブ』
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もう死ぬから新聞を取ってこないでもいいと言っているのに、犬は言葉がわからないからしつけられたとおりにもっていき、そしておせっかいにもほっぺたをペロペロなめて主人公の気力を恢復させることを暗示して幕を閉じるのですが、これはいいですね。私も飼い犬にどれだけ救われたかわかりません。内田樹先生が「いまの世の中に求められているのは『おせっかい』だ」と繰り返し言っていますが、このマンガはまさにおせっかいによって救われる様が描かれています。


というように、この史群アル仙という変な名前のマンガ家さんは自分のことを素直に正直に描いている。私が脚本家として成功できなかったのは素直でも正直でもなかったからだ、と痛感させられました。どこかカッコつけていたんですよね。
カッコつけるといえばまだ聞こえがいいですが、もっと正直に白状するなら、「借り物の思想」で書いていました。史群アル仙さんのように自分の生活からくる本当の思想を書こうとしなかった。

でも、いまはそういう脚本の代表格だった作品をリニューアルしようと目論んでいます。はたしてどこまで自分の本心からくる思想で書けるか。覚悟が問われています。


史群アル仙作品集 今日の漫画
史群 アル仙
ナナロク社
2014-10-10





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2018年07月31日

花田菜々子さんの『出会い系サイトで実際に70人と会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(その感想は→こちら)で推薦されていたマンガ『ワイルドマウンテン』全8巻を読んだんですが、これがとてつもなく面白かった。

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この表紙にあるかわいい顔した男・菅菅彦は(スガ・スガヒコという名前が素晴らしい)実は地球防衛軍の元隊長でなかなかのやり手軍人だった。が、地球に衝突する可能性の高い隕石を破壊する極秘指令を受けたのにちょっとした手元不如意から撃ち落とし損ね、隕石は中野区に落ちて多数の死傷者を出した。
その隕石の塊が山となって新しい町を形成してワイルドマウンテン町ができ、失意の菅菅彦は軍を辞めて町長として町おこしの役を担う。というのが物語の発端部です。

つまり、菅菅彦は「隕石を撃ち落とし損ねた」というつらい過去をもっており、そこがクライマックスでどう解決されるかが物語の主眼となります。

軍で好き合っていたマリという女の子とワイルドマウンテン町で出会う未亡人との三角関係、さらには親から捨てられたも同然の銀造とその祖父・淵野辺さん、軍の部下などが入り乱れます。そこに「ハガレゴッド」なる宇宙人も登場するからこれはれっきとしたSFなんですね。


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菅菅彦を抱っこしている大きな薄っぺらい壁みたいなのがハガレゴッドで、この人物(?)は誰の心の内も読める超能力をもっています。菅菅彦は宇宙人がいるとなると町おこしには最適だと胸躍らせますが、ハガレゴッドや他の奇々怪々な生き物たちと仲良くなってしまい、さらに銀造も彼ら以外に友達がいない。友情を何よりも重んじる菅彦は彼らの存在を隠します。

だから、隕石を撃ち落とし損ねた過去をめぐるメインプロットと、ハガレゴッドたちの存在を隠している現在をめぐるサブプロットと、二つのドラマが描かれているわけです。
はたして菅菅彦は軍人として失敗した逆境を順境にできるのでしょうか。そこにハガレゴッドのサブプロットがどう絡まってくるのか。

と思っていると……

別の宇宙人が出てきて香港まで行ってかなり複雑な展開を見せながら、菅菅彦がやはり軍人としてやたら優秀である一面を見せてくれます。
なんていうと、菅彦がめちゃかっこいい男のようですが、未亡人がジャズシンガーで、ジャズなんか聴いたことないのにジャズマニアを気取る可笑しさを演じるかと思えば、軍時代の同僚マリちゃんに告白してオーケーをもらうもあまりにせこいことを言い出したためにマリちゃんから膝蹴りを食らうなど痛い面ももち合わせています。主人公にふさわしいキャラクター設定ですね。

さて、ハガレゴッドたちの存在がマスゴミのせいで明るみとなり、そのせいで菅菅彦が隕石撃ち落としに失敗した過去まで明らかになります。メインプロットとサブプロットの危機=クライシスがいっぺんにやってきました。さあ、どうなる!?

と、思っていたら……

あっと驚く結末が待っているんですね。神話的想像力に彩られたメインプロットも解決するうえに、サブプロットも解決する。しかもラスト近くはほとんどのキャラクターが殺されてしまうのにそれすらも解決されてしまう。

しかも菅菅彦の問題が解決するだけではありません。ラストシーンに至っては、別のキャラクターの問題が噴出し、そして一気に解決を見ます。

このマンガは菅菅彦ではなく別のキャラクターのドラマなのでした。え? マジで!? 

いやいや、もしかすると、これはやはり菅菅彦の町長としての物語かもしれないし、同時に別のキャラクターの物語かもしれない。どちらも真なのでしょう。そして両方の物語から浮かび上がる「友情」というテーマ。神話の変奏かと見せかけておいて実は神話以上のものを見せる手腕に拍手。お見事!!!

作中人物が作者の狙いを推量したりするんですが、私は普段ああいうメタフィクション的な仕掛けが好きじゃない。でも、それすらもあの結末は解決してしまうんですね。あれは作者の語りではなく別のキャラクターの語りだったわけですね。ちゃんと整合性が取れてる。ほんと見事としか言いようがない。

『出会い系サイトで実際に70人と~』を読まなければこのマンガを読むことは一生なかったでしょう。著者の花田菜々子さんに厚く御礼申し上げます。もちろん『ワイルドマウンテン』の作者、本秀康さんにも!







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