ドキュメンタリー

2020年02月01日

ずっと見たい見たいと切望してきた東海テレビ製作による『さよならテレビ』。

監督が傑作『ホームレス理事長』『やくざと憲法』の土方宏史さんということでよけいに期待が高まっていましたが、これが期待にたがわぬ素晴らしい壮大なる「自爆テロ映画」でした。


最初にすべてが……?
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冒頭、土方監督が『テレビの今』という仮題の企画書を見せ、同じ会社の面々に取材を申し込む。テレビがいまどうなっているかを撮らせてほしいと。

で、すぐ机の下にマイクが仕込まれるんですが、「ダメだ、マイクがあると喋れない」となり、お偉いさんたちの猛反発に遭って、

①机のマイクを外す
②打ち合わせは許可を取ってから
③発表の前に必ず試写をする

という三条件を新たに設けて取材が進むことになるんですが、土方監督が「テレビ局内部にカメラを向けることでハレーションを起こすかもしれませんが、それならぜひそれも撮りたい」と言っていたハレーションがまさに起こってましたよね。いつもカメラを向ける側のテレビマンたちが、カメラを向けられれるとキレかかる。マイクがあるとナーバスになって喋れない。いつも取材対象にはそれを受け容れさせているのに……。


三人の登場人物
しかし、そんなことにお構いなしに映画は別の方向に進みます。

登場人物が三人出てきます。

局アナの福島さん(右側)
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派遣社員から一年契約の契約社員になれた新人の渡邊くん
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ベテラン記者の澤村さん(中央)
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これら三者三様のドラマが展開されるんですが、この人たち、すべて「外様」ですよね。

局アナはもちろん東海テレビの社員ですが、カメラを向ける側ではなく向けられる側だから社内でも異質の存在のはず。常日頃からカメラを向けられている人にカメラを向けても意味ないでしょう。

新人の渡邊くんもしかり。まだ半人前以下の彼はカメラやマイクを突きつけるより、自分が被写体になることのほうが多い。それにテレビマンになりたての人間にカメラを向けて「テレビの今」を活写できると思うなんてあまりに馬鹿げています。

澤村さんも中途入社らしく、かなりのベテランのようですが一年契約の契約社員といってましたよね。やはり東海テレビの中では外様。

やっぱり、冒頭でカメラを止めろ! と叫び、渡邊くんのミスを叱り飛ばしていた東海テレビの中枢の人たちのあれやこれやを見せてくれないと意味がない。


自爆テロ=アクロバティック・ドキュメンタリー
おそらくは、撮ったけど編集で切ったのではなく、撮らせてもらえなかったのでしょう。もしくは撮って編集でも残したけど試写をしたら切らされた。そこで土方監督は逆の手を打った。

最後に澤村さんに「このドキュメンタリーも結局、いつもテレビがやってるのと同じでしょ?」と告発してきます。共謀罪で逮捕されたが無罪になった人との対面の場面は最初からマイクなどが仕込まれた「やらせ」だった。そうやってテレビ番組は作られている、この映画だって同じでしょと澤村さんが告発する。

と見せかけて、実はその澤村さんも仕込みなんですよね。あの告発はもともと台本にあるセリフのはず。

だって、最後に「出演者」として三人の名前が出ましたから。被写体ではなく「出演者」です。ドキュメンタリーなのに「出演者」です。

ドキュメンタリーと称していたこの映画は、実は周到に準備された劇映画だった。というか、編集の魔力によって無理やり劇映画にしてしまった。それもかなり不出来な。

映画そのものが、いまの腐ったテレビをそのままなぞるような「腐った映画」たろうとしています。

渡邊くんが地下アイドルのライブに行ったりするのをなぜ見せる必要があるのか。密着取材だから撮るのはいいけど作品のテーマとぜんぜん違うことだから編集で切らないといけないのにあえて残す。

それは、いまのテレビはこういう必要のない場面、テーマや主旨とは関係ないけど、アイドルおたくが情けない顔で握手会に参加してる場面があると視聴率が上がるからですよ、と作者自身が身を挺して訴えるためでしょう。

映画そのものを駄作にすることで「テレビの今」を告発する自爆テロ映画。何ともアクロバティックなドキュメンタリーで、これはかなりの実験作にして野心作だと思いました。

まだまだ映画には可能性が残されていますね。この映画は希望の星です。


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1月23日に放送されたクローズアップ現代+『データが浮き彫りに! 知られざる痴漢被害の実態』を見ました。

傍観者効果
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痴漢は電車内だけで起こるものではなく、明るい広場など衆人環視の場でも起こるという衝撃の内容でした。

なぜそのような場で痴漢が起こるか、はたまたなぜそのまま犯人が捕らえらないかというと、「傍観者効果」が働くから、ということだそうです。



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自分が助けなくても誰かが助けるだろう、近くには交番もあるし大丈夫だろう、という感じでみんな立ち去ってしまう。

特に日本人には傍観者効果が強く働いてしまうような気がしますが、番組内で告発されていた「痴漢を見て見ぬふりをする人たち」には複雑な思いを禁じえません。

電車内で痴漢に遭った女性が男の手を掴んで「この人、痴漢です!」と叫んでいるのに、みんな寝たふりやケータイを見たりして助けてくれない。

私がそこでその男を捕らえられるかというと、かなり微妙です。

なぜか。

私自身が痴漢に間違われたことがあるからです。


痴漢に間違われた
といっても警察に突き出されたわけではありません。

ある電車の扉付近で立って本を読んでいたんですが、前の女性が押されてどんどん密着してきたので、窮屈な右足を比較的すいている左足の近くに動かしたんですが、そのとき右足の太ももが女性のお尻をなでる形になってしまったんですね。手で触れたと誤解した女性はキッと睨んできましたが、それだけですみました。あのとき「この人、痴漢です!」と言われて警察に突き出されていたら……

両手は本をもっていたので目撃者が名乗り出てくれたら無罪放免ですが、目撃者にも「傍観者効果」が働いて名乗り出てくれなかったら有罪率99.9%の日本の司法では確実に有罪にされていたでしょう。


真の問題は……
痴漢は性犯罪である以上に「弱い者いじめ」の卑劣極まりない犯罪だと思うけど、もし私のように痴漢していないのに「この人、痴漢です!」と言われていたら、と思うと、捕らえようとしても二の足を踏んでしまいそうな気がする。もし無実ならその人の一生を台無しにしてしまうわけでしょう?

だから傍観者効果も大きな問題だけれども、真の問題は「有罪率99.9%」というこの国の司法のあり方にこそあると思った次第です。





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2019年10月28日

MBSの映像’19『えん罪漂流記 ~元看護助手が失った16年~』をとても興味深く見ました。といっても批判的にね。番組では「検察が悪い」と主張していましたが、私はそうは思いません。というか、この番組スタッフは検察と同じ体質だと思いました。


事件の経緯
2003年5月に滋賀県近江市の病院である男性が死亡。人工呼吸器が外れており、警察はアラーム音が鳴ったのに看護師の誰も気づかず死なせてしまった業務上過失致死で捜査を始めました。

そこで参考人として聴取された西山美香さんが人工呼吸器を外したと「自白」をしてしまいます。優秀な兄を二人もち、自身は発達障害を抱えている。強烈なコンプレックスをもって生きてきたためにやさしい言葉に弱い。取り調べの若い刑事がそういう境涯に理解を示してくれたので西山さんは彼に恋をしてしまう。そして彼の望むとおりに「ストーリー」を作り上げてしまった。


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ここはどうしようもなく哀しいですね。発達障害の人は急な環境の変化にも弱いらしく、突然取り調べというストレス過多な状況に置かれたことも影響したであろうと医師の推測。

とはいえ、警察が自白を強要したわけではないし、逮捕前の自白。しかも業務上過失致死として捜査していたのに突然「殺人の自白」を得たためにその線で捜査するようになったのはごく普通の流れのように思います。

アラーム音を聞いた人がいないために二転三転する西山さんの証言に合うように、アラーム音を1分間だけ消すボタンの存在を無理やり探し出し、おそらく「それを押したんだろう」と誘導尋問的に問いただしたのでしょう。西山さんは気に入られたい一心で肯定してしまった。


検察の取り調べは?
よくわからないのは、検察の取り調べがどのようなものだったのか少しも伝えてくれないことですね。西山さんは警察には自分からウソの自白をし、裁判ではウソだったと主張したとはいうけれど、番組が「悪の本丸」だと断定する検察の取り調べがどういうものだったか、西山さんがそこで何をしゃべったかを少しも伝えてくれません。


検察が負けを認める
しかもですよ、放送直前の今月23日に、それまで「有罪立証をしてみせる」と息巻いていた検察がそれを断念する、さらに1回だけの公判で結審してほしいと弁護団に通知したそうで、今年度中にも大津地裁で開かれる再審で無罪確定することになったとか。よかった。

よかったけれど、検察が自ら非を認めたにもかかわらず、元東京地検特捜部の弁護士・若狭勝さんまで出して検察の非をあげつらうのは納得いかない。そりゃ放送日までに取材し直す時間がないのはわかります。でも、最終的に検察が自分から非を認めたのに番組全体の主張が「検察が悪い」というのはいかがなものか。


本当に悪いのは……
若狭さんが言っていたように、検察が当初は有罪立証すると息巻いていたのは「最高裁で確定した判決がころころ変わるようではいけないと考えている」のでしょう。でも、そのこと自体が悪いことだとは思えません。最終的に判決が変わることを容認したわけだし。

やっぱり、本当に悪いのは責任逃れのために「人工呼吸器が外れていた」と証言し、最終的に「外れていたかどうかわからない」とウソをつきとおした「A看護師」じゃないんですか? 1時間おきに痰吸入せねばならないのにそれを怠った。死亡を確認したあと人工呼吸器を外したのはどう考えてもAさんですよね? ならAさんに取材しないといけないのでは? 取材をお願いしてもたぶん拒絶されたんでしょうけど、Y刑事なる人物の取材拒否の場面は映すのにA看護師に拒否されたことは伝えない。


裁判所も
AS20171008002542_commL

それと裁判所も悪いですよね。

逮捕前と逮捕前日、そしてその後と、アラーム音に関する西山さんの供述がころころ変わっているのにそこに何の疑問も抱かなかった。

さらに、発達障害の西山さんは数をカウントすることが難しい。頭の中で60数えてアラーム音を消すボタンを押していたというのはかなり怪しいと簡単にわかるはず。

さらに、死んだ人のカリウム(でしたよね)の量が不自然で、自然死であることが濃厚。そういうことも裁判では証言があったはずなのに、自白だけを信用した罪は重い。


先入観と固定観念
A看護師と裁判官への取材がない、取材拒否の映像やナレーションすらないのは非常に不満です。

この番組は「冤罪事件ではいつでも検察が悪い」という先入観と固定観念に惑わされすぎていると思う。

それは西山さんのウソの自白に沿って「ストーリー」を捏造した警察と検察、さらにそれを信用した裁判所と何が違うというのでしょうか。

検察が負けを認めたのに「検察は判決がころころ変わることを嫌う」そういう体質が悪いという主旨の番組を放送する。放送日程が決まっているから。もともとそういう企画意図(ストーリー)だったから。

同じ穴のムジナじゃないですか。





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