2020年09月02日

昨日亡くなった脚本家の桂千穂さんにまつわる思い出……と言ってしまうのは、一度お会いしただけなのでちょいと不遜かもしれませんが、やはり心に去来するものがあるのだから思い出ということにしてしまいましょう。

katuratiho

私が受賞したのは桂さんが審査員長をやってらっしゃったコンクールでした。

何しろあの『暴行切り裂きジャック』の桂千穂が審査員長で、他の審査員には『トラック野郎』シリーズや『聖獣学園』の鈴木則文もいる。

私が書いたのはとんでもなくナンセンスなコメディだったんですが、桂さんと鈴木監督が審査員だからかなり狙って応募したのでした。

が、授賞式で他の審査員の方々から「桂さんとソクブンさんが一番低い点をつけたんだよ」と知らされ、ショックでした。受賞したのは御の字だけれど、一番目当ての方たちには届かなかった。

もちろん、桂さんご本人ともお話させていただきましたが、

「君のは面白いんだけどね、深さがないね。もっと深さがあったら文句なしに入選だったよ」

と言われました。佳作だったのです。

会話はほとんどそれだけ。

え、それだけの思い出なの⁉ とか言われそうですが、さにあらず! このとき言いたかったけど言えなかったことがあるのです。


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私が撮影所を辞めて脚本家への道をまっしぐらに進んでいた頃、まことにぶしつけながら桂さんに自作シナリオを送ったのです。返事なんか来ないで元々と、尊敬する脚本家に何人も送っていました。感想を聞かせてください、と必死で。

無視ばかりされるなか、桂さんだけが読んで返事を下さったのです。

「あなたのシナリオは確かに技術的にはよくできています。でも、あなたの体臭が感じられません。もっと自分の個性を出すようにしてください」

とありました。

受賞作は個性が出たものだといまでも信じています。まぁ私を知る人間なら「おまえらしい」と言ってくれるはずですがね。

でも、あのとき、一度だけお会いしたとき、「あなたから一度お返事をいただいたのです。あのお言葉で目が覚めました」とお礼を言いたかったのですが、こちらも舞い上がっていたし、他の審査員でえらく私のことを気に入ってくださった方がいて、その方の話し相手をせねばならず、桂さんとはほとんど「一瞬」と言って差し支えない邂逅に終わりました。

体臭が感じられない。

これは友人にも言われましたね。

技術だけで書いている。

これは長谷川和彦監督にも言われました。

いまは脚本家の夢は完全に諦め、小説なんぞを書いていますが、技術に走らず体臭がプンプン匂い立つような作品に仕上げようと思っています。

桂千穂さん、どうもありがとうございました。安らかにお眠りください。
今日は『暴行切り裂きジャック』を見て追悼いたします。




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