エミリオ・エステベスの監督最新作『パブリック 図書館の奇跡』が素晴らしかった。(以下ネタバレあります)


『パブリック 図書館の奇跡』(2018、アメリカ)
脚本・監督:エミリオ・エステベス
出演:エミリオ・エステベス、アレック・ボールドウィン、ジェナ・マローン、ジェフリー・ライト、クリスチャン・スレイター


見事な社会派ドラマ
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物語は、大寒波に見舞われたシンシナティで、シェルターに入れてもらえなかったホームレスたちが図書館のワンフロアを占拠、職員のエミリオ・エステベスもそれに加担して主犯として占拠運動の先頭に立つ、というもの。

実際に日本でも豪雨か何かのときに入れてもらえなかったホームレスがいましたよね。

ホームレスになるからそういう目に遭うんだ。自己責任だ。

という声は日本でもあったし、トランプが大統領のアメリカではもっとあるんでしょう。社会問題を根底に据えてどっしり重心の低い見事なドラマに仕上がっていました。やっぱりエミリオは監督として有能ですよ。

でも、私が感動したのは物語の意味的なことよりも、『マッドマックス 怒りのデスロード』でついに描かれなかったものがこの映画では見事に描かれていたことなんです。


『マッドマックス 怒りのデスロード』への不満
日本でもファンの多い『マッドマックス 怒りのデスロード』、私はあまり好きになれませんでした。

全編クライマックスって、それはクライマックスがないのと同じでは? という不満もありましたが、もっと大きな不満は「暖色と寒色のドラマ」がついに描かれなかったことなのです。


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このように、昼間は圧倒的な暖色、夜間はもっと圧倒的な寒色で撮られています。

なのに、そこに何の葛藤もないから「ドラマ」になっていないのです。いったい何のためにこれみよがしなフィルターワークではっきり分けて撮ったのか少しもわからずイライラが募りました。


暖色と寒色のドラマ
『パブリック 図書館の奇跡』は大きく二つの場所が舞台となっています。

図書館の中と、クリスチャン・スレイターやアレック・ボールドウィンら権力者たちがたむろしている警察の一室。

『怒りのデスロード』ほどはっきり色分けされていませんが、劇場のスクリーンで見ると一目瞭然です。

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ホームレスを守る図書館が温かみのある暖色系で、彼らを排除しようとする者どもの部屋が冷たい寒色系というのはとてもいい設計です。対立する二つの陣営をはっきり色分けして「色と光のドラマ」が成立していました。

図書館内は暖色系の色が多い。実際のシンシナティ公共図書館でロケしたらしいですが、壁や床が木製なのでもともと温かみがある。加えて、ホームレスたちの衣裳が薄汚れているので暖色っぽく見える。黒人の肌も暖色系。それを活かした画作りですね。

対して、クリスチャン・スレイターたちがいる一室は壁もシャツも真っ白で完全な寒色系。ライティングもそこを考えて冷え切った映像に仕立てています。(ついでに言うと、外のマスコミのトレーラーも寒色のライティングが施されていました)

後半、権力者側だったジェフリー・ライトがエミリオ側に寝返りますが、彼は黒人なので暖色の部屋によく似合う。

もともとエミリオ・エステベスに同情的だったからああいう展開になったというより、暖色系の顔をしているからああなった、と考えたほうが楽しい。

最後、クリスチャン・スレイターに「もうショーは終わりです」と言い放つ警察官もメキシコ系の非白人でした。


ドラマの結末が……
しかしながら、この暖色と寒色のドラマの結末はいただけなかった。

ついに逮捕というそのとき、エミリオもホームレスたちも全裸になっているというのが、物語の意味的にも配色的にもいい結末とは思えませんでした。ちょっと肩透かしというか。

ただ、この映画はほとんど夜のシーンですが、ずっと外にいる、エミリオの隣人で一夜を共にした女性の顔がよく撮れています。


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「よく撮れている」というのは、最近のアメリカ映画では室内シーンですら顔にろくに照明を当てずに撮っている映画が多いからです。表情が読み取れなくてイライラします。

この『パブリック 図書館の奇跡』はそういう意味でも素晴らしかった。夜なのにこんなにはっきり顔が映るのはおかしい。でも映るように撮らなければ観客には伝わらない。

ただ、彼女はエミリオの味方なのだから青い寒色のライトではなく暖色のライトを当ててほしかった。

そういえば、この映画も洋の東西を問わず最近の映画界の宿痾となってしまった「手持ちカメラ症候群」に侵されていました。それもほとんどのカットで。

ちゃんと三脚にカメラを据えて普通に撮ってほしい。


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2014-12-19



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