『逃げるは恥だが役に立つ ムズキュン特別編』の第3話まで見ました。

前回の記事
『逃げ恥』の経済学①贈与と返礼(給料の前払いとよけいな家事労働)

今回も「贈与と返礼」がありました。というか「贈与と返礼」という原始的な経済活動が行われるとき、この『逃げ恥』というドラマは最も輝きを放つようです。


炊き込みご飯
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ガッキー演じるみくりは、星野源がもっている炊飯器では白米しか炊けない、玄米や十穀米や炊き込みご飯を炊きたいと新しい炊飯器の購入を願い出る。

星野源は前回の、古田新太が家に泊まらざるをえなかったときのことを思い出して箸を置いてしまい、ガッキーは地雷でも踏んでしまったかと悩むんですが、そんなことはこの際どうでもよろしい。

大事なのは、星野源は白米しか食べない人間だったということ。だから契約書には明記されてなかろうけれども、ガッキーは白米だけ炊いていれば「給料に見合った仕事」をしていることになる。それなのに炊き込みご飯も炊ける炊飯器を買いたいと。

これは前回指摘したのと同じ「よけいな家事労働」ですが、このよけいな仕事が「供給」されることによって、「もっと炊き込みご飯を食べたい」という星野源の「需要」が発生しています。

やはりこのドラマは「需要があって供給が発生する」のではなく、「まず供給があり、そのあとで需要が発生する」という経済の原初の姿をなぞっています。それが現代経済のあり方に馴れてしまった我々現代人の胸を打つのでしょう。

星野源が一番胸を打たれたらしく、「またおいしい炊き込みご飯を炊いてください」とぶどう狩りで買ったぶどうをガッキーにプレゼントする。

休日手当を払っているのだから「よけいな報酬」です。でも、彼にはそうしたい気持ちが芽生えた。

それはやはり「恋心」でしょう。お互いまだ自分の気持ちに気づいていない。なぜよけいな仕事をしたくなるのか、なぜよけいな報酬を与えたくなるのか。それが「恋」だとなかなかわからないところがもどかしくて面白いんですが、となると……


恋愛=経済⁉
「まず贈与があって、それに返礼する。そのあとで需給が生まれる」という原初の経済のあり方そのものが「恋愛」だということになるんでしょうか……?

『逃げ恥』第3話に当てはめてみれば、

①「新しい炊飯器を買っておいしい炊き込みご飯を食べてもらいたい」という新垣結衣の贈与がある。
②最初、星野源は「2LDKの家を買う」ことでガッキーに返礼しようとするが、それは「自分のため」だと気づいてやめる。
②その後ぶどう狩りのときに「もし、みくりさんが他の誰かと結婚しても週に何回かは家事代行に来てもらいたい」と星野源のものすごく遠回りな「告白」という形で返礼がなされる。
③でも、彼女はそれを「従業員への最高のねぎらいの言葉」としか受け取らない。返礼をちゃんと受け取ってもらえなかった星野源は哀しく吼える。
④でも星野源は腐らず、ぶどうをプレゼントして返礼が完了する。

「それが現代経済のあり方に馴れてしまった我々現代人の胸を打つのでしょう」と私は先に述べましたが、我々は経済のあり方に感動しているのではなく、やはり二人の恋愛のなりゆきに感動している。

そしてなぜ感動するかといえば、契約結婚という需給バランスだの何だのに縛られているはずの主役二人が、契約書に書かれていない「贈与と返礼」をするからでしょう

逆にいえば、契約書だの法律だのといった決まり事を踏み外したところにしか芸術における感動はないんじゃないでしょうか。


藤井隆の役割
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彼の子どもが風邪をひいたりすることによって古田新太と大谷亮平が代わりに星野源の家に行ったりぶどう狩りに行くことになる。あの二人は主役二人の契約結婚を暴く敵役だから、敵役を主役二人の前に連れてくる触媒のような役だと思っていました。

でも、もしかするとガッキーも星野源も「ウソを暴かれることを望んでいる」のではないか。

つまり、自分たちの契約結婚という形を誰かに破ってもらって、普通のカップルになりたいという無意識の欲求。

とすれば、藤井隆によってが古田新太と大谷亮平が主役二人に供給されているということになりますよね。ここにも贈与が。

3話は大谷亮平の「みくりさんをシェアすることになったんです」という衝撃の言葉で幕を閉じました。シェアという経済用語をめぐって物語全体がどう転回するか、はたまた藤井隆と星野源の関係がどう変わるか、まったく憶えていないので来週以降がまたまた楽しみです。


続きの記事
逃げ恥の神話学①星野源を救い出すヒーロー・新垣結衣
逃げ恥の経済学③と神話学②カラダを贈与するガッキーと返礼しない星野源
逃げ恥の経済学④と神話学③(終)搾取、呪い、共同ヒーロー






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