2019年08月06日

山田太一さんの1979年作品『沿線地図』。昨日は第9話、10話でしたが、何だかどんどんカオスになっていきますね。

前回までの記事
①まるで自画像のような
②両親たちのウロウロ
③父親の落とし穴
④脚本家の苦心


児玉清
前回の最後で登場した岸田森と喧嘩してしまった児玉清の挿話は、親子のドラマと何の関係もないのでいったい何のためのエピソードなのかと思ったら、土下座を迫られて保身のために言うなりになってしまったことが原因で、息子の広岡瞬の好きにさせてやろうと思うに至るきっかけだったんですね。なるほど。前回も「おまえの好きなようにしたらいい」とは言っていましたが、岸田森の一件で心からそう思うわけですね。

しかし、「もう帰ってこなくていい」と言ってしまったことで、帰ってきてほしいと願う妻の河内桃子とは険悪になってしまい、何と次回予告によると河原崎長一郎と浮気⁉ みたいなことになるらしく、とても楽しみ。今回もほとんどアル中みたいになってたし。しかし、飲んでることをセリフで説明するだけじゃなく、実際に飲みつぶれるシーンが必要だとは思いましたが。


時代の気分
007-01-2

岡本信人の親切心を無にする「ここの社員になるつもりはない」という広岡瞬。非正規労働者が増え続ける一方の現代の若い人には広岡瞬の言葉は理解できないでしょうが、このドラマの10年後くらいから「フリーター」という働き方がトレンドになることを考えると、すでにこの頃から「会社に忠誠を尽くすだけでない生き生きした人生」という考え方が胚胎していたのでしょう。

ただ、大事なのは真行寺君枝も同じ考え方ではないということ。彼女はあくまでも「バイトでその日暮らしはいや」という。広岡瞬は「まだじっくり考えたい」という。若者もまたゆれています。

絶対、広岡瞬の心中では「大学進学を捨てたのは本当によかったのか」と後悔してるはずだよね。と思ってる人も多いかもしれませんが、私はそれだけはないと断言します。自分がそうだったし、いまもそうだから。

ゆれてはいるけど、芯はしっかりしていると思います。彼らが主人公なのではなく、彼らによって人生を根底から揺さぶられる親たちが主人公ですからね。若者二人を一枚岩にしてもいいけど、それでは対立がなくなってドラマが薄まってしまうから、ということで真行寺君枝と喧嘩するシーンがあるのでしょう。


笠智衆
EBQ5TVeUYAAni4s

今回、非常に面白いというか意外だったのは、これまで後景でぶつぶつ言ってるだけだった祖父・笠智衆が前面に出てきたことですね。父の児玉清がああなってしまったからにはその上位の存在を出さざるをえない。というのは前回の記事に書いた通りですが、前回は北村和夫が笠智衆と同じことしか言わないことについて不満を述べましたが、あれは周到な計算だったのですね。笠智衆がここまで前面に出てくる以上、河原崎長一郎の家族も出てきて文句を言わないとバランスが悪い。だから北村和夫は「アリバイ作り」でしょう。こっちもちゃんとありきたりな大人然としたことを言うキャラクターを出しましたよ、という。北村和夫なしで笠智衆が前面に出てきたら「なぜ片方の家族だけ?」と不満に思うのを未然に防ぐ手法だったわけですね。納得。

しかし、親ではない祖父の笠智衆が広岡瞬のアパートまで行ったり、そこまではまだ理解の範疇ですが、相手の親、岸惠子にも会いに行って説教垂れるというのは何か不自然な感じがしました。

私が高3のときに反乱を起こしたときは、祖父はまるで何も言ってきませんでしたから。まぁ私の祖父はあそこまで熱くなる人ではなかったから違うのはしょうがありませんが、どうしても比較してしまう。

ただ、広岡瞬や岸惠子に言い返された笠智衆があそこまで悩むのは意外というか何というか。あれぐらいの爺さんならもっと意固地でもいいんじゃないかと思うんですが。テレビで西城秀樹のヤングマンを見ながらいったい何を思ったのか。


脚本上のテクニック
笠智衆が岸惠子を訪ねて追い返され、河原崎長一郎が謝りに行って、帰ってきて岸惠子に伝えるシークエンス。あそこはすごかった!

河原崎長一郎が謝りに行ったとき、岸惠子がしょげているのがフラッシュバックで描かれます。そこまでは普通ですが、笠智衆に謝っている最中に岸惠子にそのことを伝えるシーンがフラッシュフォワードで描かれます。フラッシュフォワードってあまり使われないから驚いていると、いつの間にか、岸惠子に伝えているシーンが現在になり、笠智衆とのシーンがフラッシュバックに変わっている。

変幻自在な時間の扱い方が素晴らしかった。あれは映像のマジックですね。

映像には「現在」しかないので、文脈によって過去になったり未来になったり簡単に変えられる。だからこそ回想シーンを描くのは難しいんですよね。私は自ら禁じ手にしていますが。ってこれは別の話。

とにかく、親子の対立だけだった物語がいろんなカオスを抱えてどこへ行くのかわからなくなってきました。来週が待ち遠しいです。


続きの記事
⑥口紅はいらない
⑦仰天の笠智衆!




  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントする

名前
 
  絵文字