『5時に夢中!』の「ビジネス書タイトルクイズ」で紹介されていた『未来のセックス年表 2019‐2050年』を読んでみました。

読む前はトンデモ本の類かな、と思ってたんですが、これがなかなか「格差社会」「デジタル難民」「大都市と地方の格差」などのまっとうな問題をまっとうに語り尽くした良書でした。


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内田樹先生がよくこういうことを言います。

「未来予測というのはとても大事。当たるかどうかではなく、なぜ起こるべきことが起こらなかったのか、起こらないと思っていたことがなぜ起こってしまったのか、そういうことを考えるために」

この『未来のセックス年表』もタイトルはキワモノ的ですが、内容はいたって真面目です。

以下、特に興味深いと思った予測を簡単にご紹介しましょう。


少子化の果てに
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人口減少に歯止めがかからず、2020年には、50歳以上の人口が49歳までの人口を追い抜くそうです。これは予想ではなくほぼ確実な流れ。閉経女子がマジョリティになる、という確実な未来から著者は以下のような未来予測をします。

空き家と化したマンションで高齢女性の売春が常態化する。

人口減少は高齢化だけでなく多量の空き家を生み出す。同時に、婚活やパパ活などで重宝されているマッチングアプリはどんどん高性能になり、素人の高齢女性が自宅や近所の空き家を利用して売春をするだろうと。男も高齢化するうえにマッチングアプリのおかげで相手を見つけるのに苦労がない。高齢になっても売春をするということは貧困層。だからホテル代やホテルまでの交通費はできるだけケチりたい。そこでマンションの空き家が売買春の巣窟となる。いま地方の商店街がシャッター街になっているのと同様、老朽化した団地やマンションが「妖怪団地」と呼ばれることになるだろうと著者は言います。面白い予想ですね。


テクノロジーは必ずしも「性的貧困」を救わない
2020年東京オリンピック、2025年大阪万博を口実にして、コンビニから成人雑誌が駆逐されるだろうと言われています。もし店頭からエロ本がなくなってもデジタルコンテンツとしてのエロを享受できる高齢者(高齢者とはかぎらないけど)は別にいいんですが、デジタルアダルトコンテンツにアクセスできないデジタル難民、すなわち「性的貧困者」というものが必ず出てくる。性的欲求はデジタル化できないから何とかして彼らを包摂するアイデアを見つけなればならない。

著者は明言していませんが、やはり、アダルトコンテンツにアクセスできないせいでレイプなど犯罪に走る人とその被害者を減らさねばならないということなのでしょう。

本書の後半では、AIの研究家との対談が二つ編まれているんですが、セクサロイド(=セックスロボット)を作ることは可能か、という議論があります。要は人間ではなくAIとセックスするわけです。その是非や可能性については私はあまり興味がありません(興味があるのは「神」としてのAI⇒参照記事「AIが神になる⁉」)。

仮にとても良質なセクサロイドが開発されるとすると、男の性的貧困者は救われますよね。でも女性はどうか。

すでにもう3年近く前に秋葉原にはアダルトVRを鑑賞できる個室ビデオ店というものがオープンしていて、お好みのAV女優とVRで堪能できるらしいんですね。しかも値段が60分で1500円。テクノロジーの発達に伴って安くなるのは確実ですから、性的貧困かつ金銭的貧困を抱えた男性は救われると思います。

しかしながら、先述の高齢売春にすでに表れていますが、マンションの空き家が大量発生するような地方都市にはそのような店はできないと思われます。著者によれば、その街にデリヘル店があるかどうかの基準として「人口8万人」というのがあるらしいです。それぐらいの人口がないとペイできない。だから、これからの人口減少によってデリヘル消滅の街が続出する。

では都市部は安心かというとそうでもないと私は思います。VRでAV女優相手に快楽を得られるのならデリヘルなどの風俗店を利用する人は激減するでしょう。

誰が困るかというと、当然、風俗でしか稼ぐ手段のない女性ですよね。著者によると、最近の風俗嬢は二極化していて、「フリーランス型」と「店舗型」に分けられるとか。SNSを活用して全国にフォロワーのいる女性は食いっぱぐれがないけれど、家族がいるなどの理由で地元から離れられない女性はアダルトVRとの競争にダイレクトに巻き込まれ、おそらく負ける。

そういう女性をどうやって社会が包摂していくかというのもかなり大きな問題になる、ということだそうです。

また地方都市間で風俗嬢同士の戦争が激化するだろう、とも著者は予測します。

特に沖縄では、本土から出稼ぎにきた女性ばかりに指名がつくそうです。なぜなら、身バレの心配がないため素顔を晒せるから。これはすでに起こっていることらしいですが、まったく同じことが全国の地方都市でも起こるだろうと。

東京で仕事を失った女性が、ちょっと小さ目の街(埼玉とか)へ出稼ぎに行き、そこで仕事を失った女性がもう少し小さい町へ、そこで仕事を失った女性が……というふうにしてドミノ倒し現象が起こるだろうというわけです。(だから結局、最終的なしわ寄せが沖縄へ行ってしまうのでしょうね)


一億総AV女優、一億総風俗嬢の時代
いまの小中学校性が最もよく見る動画はテレビ番組ではなく圧倒的にYouTubeだそうです。スマホネイティブの世代にとって、自らを撮影し、それをネット上にアップするというのはまったく抵抗がないばかりか「手軽に稼げる手段」なわけです。

昔はPhotoshopで作っていたアイコラも、いまではAIに一人の女性の顔データを大量に憶えさせ、その女性のいろんな角度からの顔を作らせる。その顔とAV女優が出演しているポルノ動画とを合成させれば、有名タレントや素人女性の「フェイクポルノ」が簡単に作れてしまう。だからやはりAIは神にもなれるだろうけれど、悪魔の道具ともなりうる、諸刃の剣なのですね。

アイコラを作るにはそれなりの技術が必要だっただろうし、有名人のものばかりでしたが(なかには初恋の人の卒業アルバムの写真でアイコラを作っていた輩もいるとか)これからのフェイクポルノは、誰もが簡単に被害者になりうる、というところが恐ろしい。男性も標的にされる場合もあるでしょうが、主に被害に遭うのは女性でしょう。「一億総AV女優」「一億総風俗嬢」の時代がすぐそこまで来ていると著者は警鐘を鳴らします。


セックスの「再魔術化」
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最後に、一番興味深かった話題を。セックスの再魔術化、という予測。

ちょっと前から、パソコンやスマホの中にある故人のデジタル情報=デジタル遺品をどうするか、という問題がたまに話題になりますが、これからは、逆にデジタル遺品を処分するのではなく、故人のありとあらゆる情報をデジタル化して保存しておいて、VR技術と融合させ、死んだ配偶者や恋人とVRで性的快楽を得ることが普通に行われるだろう、と。

さらに面白いのは、宗教団体の教祖が亡くなったとき、その教祖の情報もデジタル情報として残しておけば「教祖と交わる権利」を販売して大儲けできる。大納得。


その他あれやこれや
以下、興味をもった話題を箇条書きで簡単に。

・射精はVRのなかで味わうものとなる。セックスの目的がオーガズムを味わうことでなくなれば、わざわざベッドの中で演技をする必要もなくなる。

・2030年代半ばには「無料ラブホ」「無料風俗」が現れる。無料の代わりにセンサーが張り巡らされた室内で行為中のデータが運営会社に提供される。性器へのウェアラブル端末「スマートコンドーム」が生まれるだろう。

・よりよいセックスを実現するためにAIにデータを提供していくうちに、その当初の目的が忘れられ、AIにデータを提供するためにセックスするようになる。そうした流れのなかで「そもそもセックスとは何か」「私たちは何のためにセックスをするのか」という哲学的な問いを突きつけられる。

・車の自動運転が実現されれば、ハンドルを握る必要がないから、移動時間を利用して食事や勉強、仕事などができる。セックスもそのひとつ。セックスインフラの「無人化」「自動化」が実現される。

・2050年、不倫という概念がなくなる。

エトセトラ、エトセトラ。

ともかく、タイトルを見ただけで引いてしまわず、お手に取って読まれることをお薦めいたします。ここに書ききれなったさまざまな未来予測にあふれています。


未来のセックス年表 2019-2050年 (SB新書)
坂爪 真吾
SBクリエイティブ
2019-03-06



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