2019年04月11日

寺尾聰が『ザ・ベストテン』に最初に登場したときのことはよく憶えています。
曲はたぶん『ルビーの指環』だったはずですが(違ったか)久米宏と黒柳徹子に「ファンに一言」と催促されて照れくさそうに言った言葉は、

「いつもは俳優ですが、今日は歌手です」

言葉よりもあの照れくさそうな表情がとても印象的でした。

『ルビーの指環』『出航 SASURAI』『シャドーシティ』の3曲が同時にベストテン入りするという快挙もありました。

もちろん『ルビーの指環』は大好きですし、昭和歌謡を語るうえで絶対はずせない名曲であることは論を俟ちませんが、私はあえて『渚のカンパリ・ソーダ』という名の知られていない曲を称揚したい。

これは『ルビーの指環』と共通点があるんですよ。寺尾聰の歌はほとんどすべて彼自身が作曲してるんですが、作詞は有川正沙子という人がやってる場合がほとんど。でも『ルビーの指環』と『渚のカンパリ・ソーダ』』はあの松本隆が作詞しています。

私がもっているベストアルバムは15曲収録されていますが、松本隆&寺尾聰のコンビはこの2曲だけです。

だからかもしれません。これは哀しい歌なのです。



少しは愛してくれ
夏の風も照れちまうほどに
八月は出逢う人を
恋人に変えちまうよ

ジリジリ焦げた肌に
ひとしずくの水を投げてくれ
渚から光る君は
サングラスも眩みそう

心を軽く乱され
いつもの俺じゃないのさ
カンパリのグラスあけてしまおう
君に酔ってしまう前に

若さを弾くように
笑いかける小麦色の夢
もてあます無邪気さなら
瞳閉じてしまおうか

ラジオは浮かれる音
あれは古いツイストのリズム
こみ上げる懐かしさに
時はいつも移り気さ

真夏のシャワー浴びると
景色も揺れてくるのさ
カンパリのグラス空けてしまおう
君に酔ってしまう前に

少しは愛してくれ
夏の風も照れちまうほどに
八月は出逢う人を
恋人に変えちまうよ


『ルビーの指環』の哀しさには遠く及ばない気もしますが、でもこれはこれでやはり哀しい。

ところで、京都の撮影所で働いていた頃、会社近くの王将で寺尾聰本人をお見かけしました。

持ち帰りの餃子を待って椅子に腰かけてました。店員からサインをねだられて快く応じていましたが、そのへんにいるしょぼくれたオジサンと何も変わらなくて唖然となりました。ベストテンに初登場したときの初々しさもなければ、含羞に満ちた表情があるわけでもなく、生活という桎梏のなかで疲弊した男の横顔だけがありました。『ルビーの指環』や『渚のカンパリ・ソーダ』の哀しさはそういうものとは違うもっとロマンティックなものだっただけにショックでした。

来月から「令和」とか。昭和はさらに遠くなりにけり。


REFLECTIONS
寺尾聰
ユニバーサル ミュージック
2018-09-19




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