2019年03月31日

昨年末に『戻り川心中』を読んではまってしまった連城ミステリ。先日読んだ『夕萩心中』はどれも乗れないものばかりでしたが、『戻り川心中』に勝るとも劣らない短編集と言われる『宵待草夜情』、大変美味でございました。


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いや、最初はね、『夕萩心中』みたいな感じかな、と思ったんですよ。冒頭の「能師の妻」なんかは『戻り川心中』所収の佳編「桐の柩」と同じトリックだし、続く「野辺の露」、表題作の「宵待草夜情」どちらも好きなタイプの作品ではなかった。

はっきり申し上げて、ここで読むのやめようかと思いました。『戻り川心中』で熱狂したものの、『夕萩心中』が同じ「花葬シリーズ」なのにえらくレベルが違ったということもあり、『戻り川心中』だけの人なのかな、と高をくくってしまいそうになりました。

ところが! ちょいと間を開けて読み進めることにしました。すると……

第四編の「花虐の賦」に完全にやられてしまいました。

このお話は、「後追い自殺」をモチーフとしています。ある劇作家であり演出家でもある男が突然自殺してしまう。彼に名女優として育てられた女が、男の四十九日の法要を済ませた日に自殺する。誰もが「女が死んだ男の後を追って自殺した」と思う。

しかし事態は逆で、男のほうが女の後を追って自殺したんですね。

ええっ!? 先に死んだほうが後追い自殺??? 

ここがこの「花虐の賦」の素晴らしさです。

いや、本当の素晴らしさはそこではない。先に死んだほうが後追いだったというトリックに隠された、その男の狂おしいまでの女を想う気持ちこそが素晴らしい。言ってしまえば「くだらない男のプライド」なんですが、そのくだらなさを、くだらないがゆえに納得してしまう人間という存在の不思議。先に死ぬことで後追い自殺を成立させる男のあまりに手の込んだやり方が「本格ミステリ」と呼ばれる所以なのでしょうが、解説で泡坂妻夫さんがいみじくも言っている通り、「普通なら探偵小説の『小説』よりも『探偵』のほうに重きを置くけれども、連城さんは『探偵』と『小説』の両方を重んじ、どちらをも成立させてしまうところが非凡だ」ということになりましょうか。

決してトリックが素晴らしいのではなく、そのトリックを支える人間という生き物のどうしようもない哀しさが浮かび上がってくるところにこの「花虐の賦」の素晴らしさがあります。

そして最終編「未完の盛装」。

手の込み方ではこちらのほうが断然上でしょう。何しろ15年前の殺人、去年の殺人、さらにそこから第三、第四の殺人が起こる。
15年前の殺人の時効をめぐるサスペンスも読ませるし、時効が成立したところで明らかになるあと三つの殺人。それらが時効を成立させるためのあまりに手の込んだトリックと見せかけて、実は……という内容。

私は実は「本格ミステリ」というのが苦手でして、何かこう、トリックのためにキャラクターが利用されてるような感じが好きになれないんですが、「花虐の賦」もこの「未完の盛装」も手が込みすぎているのにそれを不自然と感じさせない男と女の狂おしいまでの愛憎が浮かび上がってくるのが素晴らしい。

何しろ「未完の盛装」では共犯関係にある男と女が、実は別々の目的で動いていたというだから驚きです。だから「共犯」ではなく一方が一方を騙していたんですけど、なぜ騙さなくてはいけなかったのか、なぜそんな手の込んだことをするのか、というところに理があるから感動するほかない。

手の込んだトリックを弄する作中人物のリアリティが、読んでいる自分に跳ね返ってくる快感があります。もし自分が彼あるいは彼女でも同じことをするかもしれないと思わせられる。

お見事! 途中でやめなくて本当によかったです。


【新装版】宵待草夜情 (ハルキ文庫)
連城三紀彦
角川春樹事務所
2015-05-15





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