2019年03月24日

昨日、放送されたNHKスペシャルドラマ『詐欺の子』。これが実にすばらしい作品でした。


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善と善の対立
このブログでは何度も書いていますが、私がある高名な脚本家から教わった一番大事なことは、

「善と悪の対立にしてはいけない。善と善の対立にしないとドラマは深まらない」

ということです。

中村蒼演じる「かけ子」も、遠山という役名の「見張り」、17歳の女子高生と14歳の中学生の「受け子」、誰も彼も最初は金ほしさで簡単に大金が入ることが楽しくてはまる。しかしやっているうちに、みな「こんなことやっていていいのか」と良心の呵責に耐えかね、結局は逮捕される。


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大元の「オーナー」(『カメ止め』の人ですね)が一番悪いような気もしますが、彼のセリフがとても重要。ゴルフ場で遊ぶ高齢者を睨みつけながらこう言います。

「俺たちに金が回ってこないのはあいつらが蓄えこんでいるからだ。俺たちは社会に金を取り戻さなければならない」

下っ端に発破をかけるときもオーナーは決して「金を盗む」とは言いません。ホワイトボードにでかでかと「金を取り戻す」と書く。実際に逮捕された少年も「社会に還元するためだった」と供述しているようです。

金を取り戻すといっても、結局、年寄りを騙して盗んでるだけじゃないか、という人もいるでしょうが、簡単にそう言える人はすぐにでもテレビのコメンテーターになれるでしょう。

確かに彼らは悪人です。私が「善と善の対立」と言っているのは「善人」という意味ではありません。その人の言い分に理があるということです。


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騙されて亭主が自殺までした桃井かおりは、自分が騙されたとは決して認めません。認めたくないのか、それとも本当に電話の主が息子だと信じているのかは定かではありませんが、「あの子が本当に大輔じゃないってどうして言えるの!?」と法廷で取り乱します。

多くの人は「愚かだ」と断罪するでしょう。実際、騙されただけで周囲から罵られ、さらに裁判であんなことを言ったためにもっと糾弾されたようですが、桃井かおりには彼女なりの「言い分」がある。

そして、「大学に行きたくても行く金がなかった」と主張する中村蒼にも彼なりの言い分がある。奨学金をもらって大学に行く人もたくさんいますが、いまや日本の奨学金はヤミ金と同じだとみんな知っています。持たざる者は持つ者の貧困ビジネスの餌食にされるしかない。だからオレオレがなくならないんだ!

という中村蒼の主張に対し、「でも、あなたのように善良なお年寄りを騙す人はごく一部です。みんなまっとうに生きているんですよ」と諭す検察官の言葉にも(空々しく聞こえるとはいえ)理がある。すべての登場人物の言い分に理があり、みんな正しくてみんな間違っている。深みのある内容でした。

以下はほんの蛇足です。


なぜ顔出しできない人を出すのか
このドラマは実際の事件を扱っているうえに「NHKスペシャル」の枠だからか、事件の当事者が何人も出てきますが、みな顔出しはNG。これから更生してもらわねばならないのだから顔を出せないのは当然ですが、それなら最初から画面に登場させるべきではないと思います。

100%ドキュメンタリーであっても顔出しできない人は出すべきではない。外国人が日本のテレビを見て一様に驚くのが、顔にモザイクをかけた人の言葉を「証言」として放送していることだそうです。そりゃそうですよね。顔は見せない・声は変える、それでは嘘と同じです。


手持ちとフィックス
どうも最近の映画もテレビドラマもむやみやたらに手持ちカメラで撮られているものが多いですが、この『詐欺の子』でも、手持ちで撮られたショットとフィックスで撮られたショットが混在しています。

最初は、14歳の子が受け子として心をゆれさせながら犯罪に手を染めているから手持ちで撮っていて、警察での事情聴取では心が落ち着いているからフィックスで撮っているのかと思ったんですが、話が進むうちにどうもそうではないな、と。

遠山という男が法廷で脅迫に来た弁護士を見たときも手持ちでだいぶ揺れていましたが、その後、だいぶ落ち着いてイッセー尾形と話すシーンでは冒頭のマスターショットだけフィックスで、バストの切り返しになると手持ちになるという、意図不明の演出になっていました。あのシーン全部をフィックスで撮らないと意味がない。


というわけで、いろいろ文句も言いましたが、犯罪者として社会から断罪された人たちを「悪」として裁いたりせず、彼らにも言い分があるのだという製作者たちの心意気に胸を打たれました。

続編として、詐欺とわかっていて名簿を売る名簿業者にフォーカスを当てたドラマを見てみたいです。


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