2018年12月30日

先日、あるプロデューサーの言葉を思い出しました。

「映画はとても不自由なメディアです。いくら面白いシナリオを書いてもその役を演じられる役者がいなければ話にならない。映画は何よりもまず役者ありきです」

その人は「監督の演出の甘さや役者の想像力の欠如によっていいシナリオが台無しになっているケースが多い」とも言っていました。(演出というのは「演技指導」のことです。どう撮るかという映像演出のことではありません。が、最近は後者の意味でばかり使われてますね)

例年は「図太くて厳しくて哀しい映画」だけを基準にベストテンを選んできましたが、今年は「役者で魅せる映画」という基準も加味してみました。そうして選んだのが次の10本。巻末には私ならではのワーストワンを挙げています。(見た当時に感想を書いたものはリンクを貼っていますのでよろしければどうぞ)


①リズと青い鳥
ザ・プレデター
万引き家族
④レッド・スパロー
⑤デトロイト
ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ
タクシー運転手 ~約束は海を越えて~
レディ・プレイヤー1
ボヘミアン・ラプソディ
⑩ピーターラビット



では、1本1本に簡単なコメントを。4位と5位は去年までならたぶん選んでなかった作品でしょう。


①リズと青い鳥(監督:山田尚子)
リズと青い鳥(希美) (2)

役者の重要性を語っておきながらベストワンにアニメを選ぶなんてちょいと矛盾してるかもしれませんが、この映画は本当にすごかった。先日『北北西に進路を取れ』を見直したんですが、『リズと青い鳥』はヒッチコックの諸作と同じように、生み出されたエモーションが一度も途切れることなく最後まで高まりながら持続していくという嘘のような大傑作なのです。今年これほどまでに熱狂した映画はこれ1本のみ。ダントツのベストワン!


②ザ・プレデター(監督:シェーン・ブラック)
自殺願望者たちの清々しい末路に落涙。可笑しくてやがて哀しき……という典型的作品かと。アクションも切れ味がよく、何より彼らが自殺願望者であることをいっさいセリフで語らなかったことが素晴らしい。


③万引き家族(監督:是枝裕和)
大ヒットしてたくさんの人が見てると思うのでコメントは不要でしょう。特筆すべきはリリー・フランキーと安藤サクラの肉体ですね。お話よりもあれが良い。


④レッド・スパロー(監督:フランシス・ローレンス)
redsparrow

お気に入り女優ジェニファー・ローレンスが素晴らしい。この映画が一番「役者ありき」な感じですね。脚本もある程度いいけど、ジェニファー・ローレンスじゃなかったらたぶん最後までもたなかったと思う。稀代の演技派スターによる役者で魅せる映画の代表作。


⑤デトロイト(監督:キャスリン・ビグロー)
detroit

『映画芸術』誌上で荒井晴彦さんがいろいろ文句つけてました。あれにはほぼ同意します。同意しますが、映画は脚本だけでできているわけではありません。いい顔ばかり集めていい芝居を引き出しています。脚本力より演出力(演技指導力)を買っての選出。


⑥ビッグ・シック(監督:マイケル・ショウォルター)
本来ならこの映画が4位だったのです(だから朝ツイートしたときもこれを4位に入れていたはず)。でも今年は役者で魅せる映画をできるだけ上位にしたかったので入れ替えました。
脚本力なら2位か3位でも文句なし。結婚話と宗教対立がテーマと聞いたら「最後は和解するんだろう」と読んじゃいますけど、この映画では和解しないんですね。男と父親が最後は完全に縁を切ります。この厳しさが素晴らしい。実話じゃなければ思いつかなかったでしょう。変化球と直球の塩梅が見事。


⑦タクシー運転手(監督:チャン・フン)
これも当時の感想に書いた通り、生活と政治がリンクする様が素晴らしい。政治にまるで興味のないタクシー運転手が政治に目覚めるのかと思ったらぜんぜん目覚めないのも『ビッグ・シック』と同じく見る者をうっちゃる大技。でも、生活者としての行動が政治的行動にぴったり重なる作劇のうまさに舌を巻きました。


⑧レディ・プレイヤー1(監督:スティーブン・スピルバーグ)
これは今年の趣旨に反するから外そうかと思いましたが、『ペンタゴン・ペーパーズ』が役者をないがしろにした映画だったのでこちらは入れておこうかと。


⑨ボヘミアン・ラプソディ(監督:ブライアン・シンガー)
これも主演俳優ラミ・マレックで魅せる映画でした。『レッド・スパロー』『デトロイト』より下位になったのは、やはり脚本が粗雑だったから。あと「ボヘミアン・ラプソディ」を全曲まるごと聴かせるシーンを作るべきではなかったかとの思いからこの位置に。


⑩ピーターラビット(監督:ウィル・グラック)
フォロワーさんたちが絶賛していたので騙されたつもりで見に行ったら大当たりでした。騙されたつもりになるって大事。今年一番笑った映画は、これと『ザ・プレデター』かな。去年の『キングコング 髑髏島の巨神』のように腹の底から爆笑させてくれる映画はあまりなかった気がします。

他に、『犬猿』と『フロリダ・プレジェクト』は面白かったけど演出の甘さと役者の想像力の欠如が感じられたので外しました。
『ラッキー』『モリのいる場所』『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』も入れたかったけど、こちらは単に枠がなかっただけ。違う日に選んでたら入れてたかも。


さて、気になるワーストですが、単につまらなかった映画、たとえば、『スリー・ビルボード』『シェイプ・オブ・ウォーター』『カメラを止めるな!』『スマホを落としただけなのに』なんかを選んでも面白くないでしょう。いつも言っていることですがワーストにはそれなりの「格」が必要なのです。

「許せない映画」に入れた『グレイテスト・ショーマン』『バッド・ジーニアス』のどちらかにしようかと思ったんですが、よく考えてみると、あと10日ほどで発表されるキネ旬ベストテンで十中八九ベストワンに選ばれるであろうこの作品をいまのうちに挙げておいたほうがいいな、と思い……


15時17分、パリ行き(監督:クリント・イーストウッド)


素人の役者からあれだけの芝居を引き出すイーストウッドの演出力は衰えるどころかますます冴えわたっているようです。が、肝心要の脚本を読む力が落ちている。いままでこんなことを感じたことなかった。ベストの選出基準と矛盾しているのは承知しています。ただ何でもかんでもイーストウッドなら1位にしてしまうキネ旬に対するアンチテーゼとしてこの選出。ここ15年ほどのイーストウッド礼賛ムードは本当に気持ちが悪い。

というわけで、みなさん、良いお年を!

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