2018年12月14日

『5時に夢中!』のエンタメ番付で中瀬ゆかり親方が大絶賛していた『鯖』という小説を読みました。




画像にあるように、62歳、住所不定、無職の作家さんによるものです。中瀬親方によると「自分には書くことしかない」という切羽詰まった想いがあるらしい。それは私自身にも言えることでもあるので、どんなものか楽しみにしていました。

一読しての感想は、面白いことは面白いけど新味がないなぁ、というところでしょうか。

鯖の一本釣りをする漁師たちの生活がどれだけ凄まじいものか、また漁の描写や大きな鯛より中ぐらいの鯛のほうが値が高いなど「情報」としての面白さは素晴らしいものがあります。が……


大鋸権座(おおのこ・ごんざ)
加羅門寅吉(からもん・とらきち)
鴉森留蔵(からすもり・とめぞう)
狗巻南風次(いぬまき・はえじ)
水軒新一(みずのき・しんいち)
枝垂恵子(しだれ・けいこ)

主な登場人物の名前ですが、全部すごい名前。ただ、ちょっと凝りすぎかな、という気がしないでもない。

でももっと気になったのは、この『鯖』は新一という青年が「ぼく」という一人称で語る内容なのに、たまに三人称になることですね。で、三人称になるときはだいたい視点が権座という船頭のことが多い。新一の視点で語られていた物語が不意に権座の視点から語られる。統一されていない視点は読む者に混乱をもたらすだけなのでやめてほしかった。

それに、新一が預かった700万の金を使い込んでしまって悲劇となるわけですが、700万をいっぺんに使ったんじゃなくて、ちょっとずつ使ってしまったんですよね。でも、残り200万くらいになってから初めてその事実を読者に語るというのはどうなんでしょうか。新一の語りで話が進んでいくのに、大事な情報がずっと隠されていたと知り、がっくり来ました。あれでは語りじゃなくて「騙り」ではないでしょうか。

だから最初から三人称で書けばいいのに、と思いました。新一の視点から語る章、権座の視点から語る章、次は恵子、次は新一の運命を狂わせる中国人アンジの視点から、というふうに。桐野夏生の『OUT』とかあんな感じで。そうしてくれれば、語り古された物語に新しい生命を宿すことができたかもしれないのに、と残念でなりません。




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