香港ノワールの金字塔『男たちの挽歌』。



何度も見ている大好きな作品ですが、つい先日まで何度見ても「誰が主人公か」という作劇の基本中の基本がよくわからなかったんです。でも今回見直してみてよくわかりました。


①チョウ・ユンファ?
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『男たちの挽歌』といえばチョウ・ユンファといわれるくらい、この名優の代表作として知られています。多くの人もこの映画の主人公はチョウ・ユンファだろうといいます。実際、香港アカデミー賞でも主演男優賞を取っています。しかしながら、助演にすぎないマーロン・ブランドが主演男優賞を取った『ゴッドファーザー』の例もありますし(詳しくは→こちら)同様にトラブルメイカー役にすぎないダスティン・ホフマンが主演男優賞を取った『レインマン』の例もあります。(→こちら)だから主演男優賞というのは少しもその役者が主役だったということの証しにはならないのです。


②レスリー・チャン?
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この映画が「兄弟の葛藤」を軸にした物語であることは誰の目にも明白です。兄貴がヤクザだと知った弟は兄に裏切られたと思い、しかも兄のせいで父親まで亡くしてしまう。「あいつを許してやってくれ」と言われるからよけいに許したくない気持ちが芽生え、兄貴のせいで警察官としての未来はなくなり、重要な仕事からも外される。

だから、兄ティ・ロンが弟レスリー・チャンに許してもらう物語なのか、それとも兄を許したくなかった弟が最終的に兄を許す物語なのか、という二つの考え方の間で揺れた結果、弟が兄を許す物語、つまりレスリー・チャンが主役なんじゃないか、と思っていた時期があったんです。

でも違いました。


③ティ・ロン!
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主役はティ・ロンです。この画像から明らかなように、彼はレスリー・チャンとチョウ・ユンファの間で板挟みになっています。

いままで大事なことを見落としていました。チョウ・ユンファもまた彼の「弟」だということです。もちろん血のつながった弟ではなく「弟分」という意味です。

ヤクザの兄を許さないレスリー・チャンのために足を洗おうとするも、ヤクザ世界の弟チョウ・ユンファはもう一旗揚げようとヤクザの世界に戻ることを迫ってくる。二人の弟の間で揺れる兄貴の苦悩を描いていたのですね。

弟といえば……

話の発端はティ・ロンとチョウ・ユンファが弟分シンの裏切りに遭うことでした。で、いまやシンが親玉になっている。シンが裏切りさえしなければティ・ロンは円満に足を洗うことができた。その弟分シンを殺すことで物語は決着します。

だから「二人の弟の間で葛藤する」というのは間違いですね。本当は「三人の弟」です。

弟分の二人は身勝手なことを言うだけで死んでしまいますが、血のつながった弟だけは最終的に兄の苦悩を理解し、シンを殺すための拳銃を手渡します。そして、逮捕。

せっかく心が通い合ったのに、二人をつなぐ物が手錠というのが何とも哀しい。

でも、あれはハッピーエンドですよね。殺すべき弟分を殺し、和解したかった弟とは和解するのだから。