昨日発表のあったアカデミー賞受賞式。『シェイプ・オブ・ウォーター』の作品賞受賞についてコメントを求められた町山智浩さんが、怪獣映画がオスカーを獲得したことに感極まって言葉を詰まらせたときは私も思わずもらい泣きしてしまいそうになりましたが、その次の発言には「???」でした。


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「これからはゴジラもゾンビもバットマンもアカデミー賞という土俵で戦えるんですよ!」

この発言、ネット上でかなり持ち上げられているみたいですが、私には大いに疑問です。

まず、『シェイプ・オブ・ウォーター』って「怪獣映画」なんでしょうか?

確かに怪獣は出てきますが、ゴジラみたいに怪獣の破壊的行動を描くとか、ゾンビみたいに主人公を食い殺そうとするとかそういう存在じゃないですよね。「怪獣映画」ではなくて「怪獣との恋愛を描く映画」、だからあれは「恋愛映画」。

オスカーを受賞できたのも「愛」をメインに据えていたからじゃないですかね。私はまったく乗れませんでしたが、あの映画に票を投じた人は異形の者との愛に感動したのであって怪獣そのものに感動したわけじゃないはず。

だから、『ザ・フライ』みたいに、もとは人間だけど異形の者になってしまった男との悲恋ものなら、いまなら何らかの受賞対象になるかもしれません。でも暴れる怪獣と軍隊が戦うような、町山さんやギレルモ・デル・トロが子どもの頃に見て大いに楽しんだ「怪獣映画」がオスカーを獲得することはほぼないでしょう。

『ゲット・アウト』の脚本賞受賞で「ホラーが受賞するなんて快挙!」と喜んでいる人たちがいますが、ホラーというより黒人差別問題という古い酒を新しい革袋に入れて提示したことが評価されたのでしょうから、ゾンビ映画でいえば、ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』なら受賞の対象になるかもしれませんが、『ゾンビ』や『死霊のえじき』が受賞するとは到底思えません。

だから『悪魔のいけにえ』『ビヨンド』『ゼイリブ』のような映画がアカデミー賞を受賞することは永遠にないと思われます。
私は『悪魔のいけにえ』をこよなく愛する人間ですが、あの手の映画にアカデミー賞を受賞してほしいなんて少しも思いません。
同年に作られた刑事アクションの傑作『ダーティハリー』と『フレンチ・コネクション』は、後者にだけ栄光が与えられ、前者には何も与えられませんでした。

私はそれでいいと思っています。『ダーティハリー』ほど「無冠の帝王」と呼ぶにふさわしい映画はありませんから。

そこなんですよ。なぜ怪獣映画やホラーやアクション映画が「無冠の帝王」のままじゃダメなんでしょうか?

町山智浩さんといえば『キネマ旬報』や『映画芸術』など既存の映画雑誌が選ぶ「由緒正しきベストテン」に対するアンチテーゼとして『映画秘宝』を創刊した人でしょう? 「無冠」であることにこそ価値があるんだ、俺はそういう映画をこそ称揚したいんだ、という思いが誰よりも強い人だと思っていました。

それがアカデミー賞という「権威」のお墨付きをもらったことに泣いて喜ぶというのはどうにも解せません。

「これからはゴジラもゾンビもバットマンもアカデミー賞という土俵で戦えるんですよ!」

これは『映画秘宝』という雑誌を創刊した人間が絶対に口にしてはいけない言葉だと思います。

キネ旬に対するアンチテーゼじゃなくて、キネ旬になりたかったんだ、と思いましたもの。
『映画秘宝』を創刊したときは純粋に「日陰の無冠の帝王映画」を称揚するつもりだったのでしょうが、いつの間にか『映画秘宝』が権威と化してきたために「世界最大の権威」にすり寄るようになってしまった。

ミイラ取りがミイラになるとはこのことかと。