遅ればせながら、アニメを除外して大騒動の「映画芸術」ベストテン&ワーストテン発表号を立ち読みしてきました。

ポイントは3つですね。
    ①アニメ除外は是か非か
    ②機械的な点数決め
    ③ワーストの点数をベストから引かないこと



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    ①アニメ除外は是か非か
    ①のアニメ除外についてですが、ある人のツイートで、「せっかく実写とアニメの何が同じで何が違うかを議論する千載一遇のチャンスなのに、どちらも頭に血がのぼっていてもったいない」という意味の意見がありました。私もまったく同意見。

    アニメと実写はもちろんのこと違います。実写では、急に風が吹いてヒロインの長い髪がなびいてそれがすごくいいとか、ハプニングを取り込めますけど、アニメは100%人為的に作り込まれているのでね。演技だって、肉体や表情だけの芝居も含む実写に比べ、アニメだと声の演技だけだし。それを同列に扱うのはどうかと。

    アニメをベストテンから一方的に排除する「理由」は誰の目にも明らかで、去年、荒井晴彦編集長が批判した『この世界の片隅に』がベストワンに選ばれたからでしょう。とはいえ「前から違和感があった」というのは嘘ではないと思います。私ですら感じていたわけだし。

    でも、『この世界の片隅に』がベストに選ばれたことが「大きなきっかけ」になったことは間違いないわけで、それならそれで堂々と正直に言えばいいと思うんですよ。それを「あれは関係ない」とかいう弁解はいただけません。

    「映画芸術」というのは荒井晴彦さんの「主観」で作って売ってる雑誌なのだから(私自身そういうところが好きで定期購読していました)もっと「アニメは実写映画とは違う」と堂々と言えばいいんじゃないですか。ただ、最近の映画は役者以外はすべてCGやアニメと合成している場合も少なくないわけで、とすると『シン・ゴジラ』とかはアニメ扱いになるんですか? 河村さんという人が「仮想現実に依拠した映画を排除」とかって言ってましたが、どこに「線」を引けばいいんでしょう?

    いずれにしても、「アニメ排除」というか「アニメは実写とは違う」というのは荒井晴彦という人の「主観」として受け取ればいいんじゃないでしょうか。もちろん、そのような意見は受け容れられないという「主観」をもつ人だっているでしょうし、議論を深めていけばいいのでは? 実写と仮想現実を合成している映画は「実写」なのか、それとも違うのか。そもそも「何が映画なのか」というところまで。テレビドラマとして作られながら劇場公開されたものははたして「映画」なのか、どうか。

    私はアニメ除外より、次の問題のほうが大きいと思いますよ。

    ②機械的な点数決め
    これまでは「ベストもワーストも10本まで」「合計55点のうち1本の最高点を10点として自由に配分できる」という規定が、「ベストもワーストも必ず5本選ぶ」「点数配分は1位10点、2位7点、3位5点、4位3点、5位1点とする」と大幅に変わりました。なぜこのほうが問題が大きいかというと、「主観」が売りだったはずの映芸が「客観公正幻想」に毒されてしまったと思うからです。
    確か12年前だと記憶していますが、田中千世子や塩田時敏らが「監督をした」「出演をしている」という理由でキネ旬の選考委員から排除されました。自分の作品に投票されたらベストテンが客観公正でなくなってしまうというキネ旬の判断に対し、荒井さんは「ベストテンが客観公正なんて幻想だよ」と言って批判していました。私もそう思います。(別にベストテンだけでなく映画批評は主観のぶつけあいだと思うし、そもそも人生そのものがそうですよね)

    今回の誌面でも「映芸はキネ旬への批評なんだ」と言っています。であれば、徹底的に「主観」を売りにしてほしいんですよ。荒井さんの作品が1位になったりすると「お手盛りだ」といまだに非難する人がいますが、あんなのもはや恒例の「芸」みたいなもんなんだから、「あーやっぱり!」と楽しめばいいと思う。

    それよりも、ベストもワーストも全員が5本ずつで点数配分まで決められてしまうと選者の「主観」が薄まって「客観公正幻想」に染まってしまうんじゃないですかね。「アニメ除外」という炎上覚悟の「主観」をぶち上げておいて、一方で「客観」を売りにするというのは矛盾しています。この矛盾こそが今回の選考基準変更の一番大きな問題と考えます。以下は蛇足です。

    ③ワーストの点数をベストから引かないこと
    ワーストの点数をベストから引くことで順位の逆転が起きるという「底意地の悪さ」が私は好きだったんですがねぇ。それをなくしてしまったら楽しみが薄まってしまうと考えるのは私だけではないと思います。そりゃ真逆の考え方の人もいるでしょう。確かあれは2004年でしたか、『血と骨』と『誰も知らない』がワーストでも結構な票を集めて瀬々敬久監督の『ユダ』が逆転1位になったとき、前者2本に高得点を入れていた山根貞男さんが「単純につまらない」と言って選考委員を降りちゃったんですよね。今回のようにベストとワーストを別々に選ぶのもいいんですけど、奇しくも今年は「映画秘宝」が、ベスト1位ととほほ1位に同じ映画を選ぶという「快挙」を先にやっちゃったし、やはり映芸にはいままで通りワーストの点数を引くという底意地の悪さを発揮してもらいたいもんです。それもまた映芸の「主観」では?(だって『ユダ』を1位に選ぶなんて映芸にしかできないでしょ)


    最後に、荒井晴彦さんの名誉のために言っておくと、いままで通りワーストの点数をを引いていたら『幼子われらに生まれ』が逆転で1位でした。決して自分の作品を1位にしたいだけでやってるわけではないということです。


    映画芸術 2018年 02 月号 [雑誌]
    編集プロダクション映芸
    2018-01-30


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