私の中学時代の同級生はプロ棋士です。棋士といっても将棋ではなく囲碁のほうですが。

彼は中学の時点ですでにプロで、たまに公休をもらって試合に行っていました。そして高校へは進学しませんでした。

もともと誰とも交わろうとしない人間嫌いのような面があって、そのうえ大の囲碁好きで「プロとしてやっていくことしか考えていない」ということだったので、高校に進学しないと決めたと聞いて「それはそれでいいのでは」と思っていました。

彼はいまでも第一線のプロです。別に挫折したわけではありません。しかし、囲碁の7大タイトルのうち獲得できたのは通算2期だけ。とはいえ、デビューから30年以上プロとしてやっているのだからかなり成功した部類に入るのでしょう。

相撲でも、白鵬みたいに幕内通算白星歴代1位とか、幕内通算優勝回数歴代1位とか、そんな華々しい活躍をせずとも、いまだに「十両になれれば力士としては成功」らしいですから。

でも、いま思うのは、あの誰とも交わろうとしなかった同級生がもし高校に進学していたら、もっとビッグタイトルをたくさん獲得するすごい棋士になっていたのではないか、ということです。


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だから、将棋のほうの棋士・藤井聡太四段の高校進学を寿ぎたいわけです。

本人は私の同級生と同じく「将棋のことだけ考えていたい」ということだったみたいですが、周囲の説得もあって進学を決めたと。

羽生だって彼と同じで高校なんか行く気がなかった。でも師匠が「将棋とは関係ないことを勉強し、将棋なんか興味がないという人間と交流することが棋士としての幅を作る」と説得して高校へ進学させたそうです。その後の羽生の活躍はご存じのとおり。

別に高校へ行ったらみんなが活躍できるわけじゃないでしょう。高校へ行かずとも棋士として成功した私の同級生もいます。

しかしながら、藤井聡太四段に世間が求めているのは「史上最強棋士」であるはず。現時点で勝率がまだ9割以上のはずですが、あまりに驚異的です。羽生の通算勝率が確か7割ちょっとのはずで、それですらすごすぎといわれる世界で9割を超えるというのは異常。

勉強ばかりしているとバカになるといいます。だから彼がこのまま将棋のみの道へ進んだら勝率が落ちるのではないか。史上最強棋士にはなれないのではないか。


ガリ勉


世間は「ガリ勉はダメ」という。それは真理でしょうが、なぜか学校の勉強に関してだけダメみたいで、将棋やスポーツのガリ勉はOKらしい。それは絶対におかしい。

学校の勉強にしか興味のない人間には将棋やスポーツなど他の分野にも興味をもたせ、将棋にしか興味のない人間には将棋以外のことを勉強するよう促す。それが「教育」というものでしょう。

藤井四段が3年間も高校へ行くのは明らかな「遠回り」です。でも、いまの日本人は遠回りの大切さを忘れてしまっているのではないか。「近道」ばかり求めていないか。

近道ばかり求めているから「役に立つ学問」という言葉が幅を利かせているのではないでしょうか。


天才 藤井聡太 (文春文庫)
中村 徹
文藝春秋
2018-11-09




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