「嘘」をめぐる『ウチの夫は仕事ができない』第3話。前回がちょっと停滞気味だったんですが、第1話を超える感動回でした。

前回までの記事
①まっとうで健康的な王道ドラマ!
②ジェンダー論に切り込んだ第2話


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前回、レイモンド・チャンドラーがフィリップ・マーロウに託したセリフ、

「タフでなければ生きていけない。やさしくなければ生きている資格がない」

の後半部分を主役・錦戸亮に託しているのだろう、というようなことを書きました。

前半を尊重しすぎた挙句、ブラック企業が跋扈したり、それでなくとも、後輩の田所君のように「仕事なんだから」と仕事を口実に平気で嘘をつく人間が跋扈したりする世の中になってしまいました。

「嘘も方便」と彼は言いますがあれは使い方が間違ってますよね。


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最後に、妻の松岡茉優が元カレと再会したことを隠して嘘をついていたことを謝ります。すると、錦戸も彼をヒーロー戦隊の主人公だと勘違いする子どものためにウソをついていたと告白します。

「そういう嘘はついてもいいんじゃないかな」

「そういう嘘」とは、「相手を思いやる嘘」つまり「やさしい嘘」のことで、そういう嘘こそ「方便」ですもんね。

確かに田所君の言い分もわかります。彼にとって錦戸が迷惑きわまりない存在であるのもわかる。

でも、壇蜜が喝破したとおり、「そのやり方では次がない」。
悪意のある嘘ですから。己の悪意を「仕事なんだからしょうがない」と糊塗する。それは相手にも失礼ですが、何より自分自身に嘘をついています。

田所君は、昨日の出だしから「タドコロじゃなくてタトコロです」と繰り返していて、いったい何の伏線かと思ったら、錦戸が万事無事に解決したとき、「よかったですね、タトコロ君」と、ちゃんと自分の名前を読んでくれたことに感激するんですね。

相手の名前をちゃんと憶えるというのは本当に相手を思いやってないと、つまりやさしくないとできませんから。

やはりこのドラマは「やさしくなければ生きている資格がない」を訴えようとしているんだな、と思いました。

ただ、前回も書いたように、前半の「タフでなければ~」も大事なんですよね。
前回ですでに錦戸がかなりタフな奴であることが判明しましたが、今回も工場に徹夜で手伝いに行って納期を1週間ずらしてもらったり、能書きばかり垂れている田所君にはできない芸当をやってのけていました。

だから、タフであること、そしてやさしくあること、どちらも大事なんだよ、という作者たちの厳しく、かつ温かいメッセージが心地いい。


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錦戸の顔がいいですね。あの情けなそうな顔。いかにも純真無垢といった感じ。泣きそうな顔で奇跡を起こしてしまう。
あの役を本当の意味で生きることができるのは錦戸亮しかいないと思わせるうまさ。

さて、問題はこの上司たちですね。


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壇蜜がかなり錦戸寄りの人物であることは前回判明しましたが、でもそれって早くない? というのが正直な感想です。ちょっと主人公に都合のいい設定になってないかな、と。

ただ、まだ佐藤隆太がいます。15年前に『木更津キャッツアイ』で初めて見たときは、ああいう厳しい上司役が似合う役者になるとは露ほども思っていませんでしたが、って、そんなことはともかく、彼もまた錦戸にチャンスを与えるなど錦戸寄りのように見えて、今回も単に結果がよかったから「おまえらよくやったな」とほめ言葉を言ってましたが、あれが失敗に終わっていたら、錦戸にもう再チャンスはなかったかもしれません。

だから佐藤隆太には最後の最後まで誰の味方かわからないようにしてほしいんですよ。
いや、錦戸の味方でもいいんですけど、最後まで厳しい存在でいてほしい。

でないと、視聴者にとってぬるま湯みたいな作品に堕してしまいますから。図太くて厳しくてホッコリするドラマを見たい!

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松岡茉優の最後の「嘘」もよかったですね。
「もうちょっと家の近くで探したい」というのは嘘ではないんでしょうが、それでも派遣会社から契約を切られ、いつ仕事が見つかるかわからない。

元カレは「すぐ雇う」と言ってくれているし、シフトの相談にも乗ると。つまり至れり尽くせり。あのパン屋で働くほうがいいに決まってますが、しかしそこは昔つきあっていた仲。何があるかわからない。

夫のためについた「嘘」に泣きました。(何よりかわいいし)

続きの記事
④主人公を甘やかしてはいけない
⑤堕落していく…
⑥久々のスマッシュヒット!
⑦ジェンダー論のさらなる発展!?
⑧善意で勝利した主人公、そして…