高倉健主演、マキノ雅弘監督による『日本侠客伝 関東篇』を見ました。


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この映画は、「関東大震災をきっかけに日本橋の魚市場が築地へ移転した」ころのまさに築地市場が舞台で、なかなかタイムリーだな、というか、築地から豊洲への移転問題をどうしても考えてしまったんですよね。日本映画専門チャンネルと東映チャンネルのコラボ、侮れません。

このころの任侠映画はどれもこれもほとんど同じ話型で役者も同じ人ばかり出てるから、どれがどれやら判別がつきません。見たことあるシーンやカットがたくさんあったので過去に見たことがあるはずですがタイトルだけ聞いても憶えていませんでした。 

この『日本侠客伝 関東篇』もご多聞に漏れず「新興やくざに苦しめられる古い気質のやくざが耐えに耐えたあげく堪忍袋の緒が切れて殴り込みに至る」というものです。

天津敏や遠藤辰雄など顔なじみの悪役俳優が演じる新興やくざはやはり魅力的なんですが、日本橋から築地に移転したときは「こういうこと」だけが問題だったんですね。

フィクションだから他にもいろいろあったけど捨象してるだけ、とも考えられますが、もしいま築地から豊洲への移転を映画化するならこうはならないでしょう。どう見たって盛り土の問題とか行政の不手際のほうが大きいですから。だからフィクションとはいえ描かれていない以上は少なくとも盛り土をしていなかったなんて幼稚な問題はなかったはずなんです。

だから昔はよかったと言いたいわけではありません。
「悪」や「問題」が人の顔をもっていた時代ってよかったと思うんですよ。殴り込みをかけて健さんが悪い奴らを叩き斬ってしまえば解決に至るのですから。

悪が目に見える時代はまだましなんです。

抗菌グッズの売れ行きを表す折れ線グラフと、 アレルギー患者の増減を表す折れ線グラフはぴったり一致するそうです。
バイ菌を殺そうとすればするほどアレルギー患者が増える。アレルギーは池田清彦先生によると「いまだに原因がよくわかっていない」らしく、バイ菌という目に見える敵(見えないけど)からよくわからない(目に見えない)敵へ移行してしまったんですね。

ところで、1998年ですからもう18年も前ですが、山田太一さん脚本の『奈良へ行くまで』という2時間単発ドラマがありました。


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これは、主役の奥田瑛二が建設省の談合の「いま」を目撃するのがメインプロットなんですけど、 ちょうど談合は絶対に許されなくなり始めた頃だったので、目に見える談合がなくなってしまったんですね。でも、ちゃんと談合は行われている。目に見えないところで。よくわからないところで。

「談合は絶対に許さない」
「バイ菌は死滅させよ」

というのはどちらも同じです。しかし、きれいごとが大好きな世間のおかげで、ますます悪質で陰湿な談合や汚職が行われ、バイ菌が体内に入るよりももっとたちの悪いアレルギーに人々は悩まされています。

それと築地市場の豊洲移転問題も同じだと思うんですよね。

映画のように、船の荷を押さえて値を釣り上げるような悪徳業者はいまはもういないでしょうけど、盛り土がされていなかったなど目に見えないところで問題が進行していたという事実。 

まだ完全に移転してからでなくて本当によかったと思います。移転したあとに気づいたらもう食品がダメになってて…であったなら市場自体がすべてパー。損失は計り知れなかったはずです。

でも文字通り目に見えないのだから、ぎりぎりまで顕在化しない。だからたちが悪い。

そういえば、やくざ映画というジャンル自体も死滅してしまいました。
やくざ=悪い奴→悪い奴が主人公の映画なんか見ない

という、おまえほんとに映画ファンかよと言いたくなる人たちで溢れかえってますから。

日本映画がつまらなくなったと言われ始めたのは、やくざ映画が下火になり始めたころと軌を一にしています。これはとても示唆的です。

やくざを死滅させようとしても、どうにかして生き残ろうとするから無駄です。逆に最近は合法化しているからよけいにたちが悪い。

だから昔はよかったって?

はい、その通りです!




 
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