毎週楽しみな『HOPE ~期待ゼロの新入社員~』ですが、昨日もまた非常に興味深い内容でした。

前回までの記事
第1話(初回からボロ泣き!)
第2話(岡目八目がとりもつ自信喪失と自信過剰)
第3話(「善と善」の対立がドラマを豊かにする)
第4話(勝負に出たが勝者はいない)
第5話(瀬戸康史の切ないウソ)


今回は前後半の2部構成です。

前半が、中島裕翔が属する営業3課のメインプロットと、瀬戸康史が転職するのかしないのか、そして山本美月は資源2課で自分の居場所を確保できるのかという2つのサブプロットが並行して描かれます。あまりの並行ぶりに普通なら話がとっ散らかりそうなところですが、細かいシーンの積み重ねで期待をつないで見せていく手腕は素晴らしい。
そして、後半は、営業3課が3か月かけた新規事業企画がどういう結末を迎えるかに焦点が当てられます。

それはともかく、2部構成とはいっても、やはり全編を貫くのは我らが主人公・中島裕翔の物語なんですが、彼の前に立ちはだかる大きな壁が「高卒」というもの。


CnkSL0TUIAExXAa

彼は風間杜夫専務のコネでインターンに参加させてもらい、プレゼン試験合格は自力でつかんだものの(半分は人見くんのおかげですが)他の3人とは違う契約社員。なぜ契約社員かというと、コネだからとかプレゼンでの評価が他の3人より低かったからと思っていたら違うんですね。理由は「高卒だから」。

初めて新規事業企画をやってみないかと遠藤憲一課長から言われて張り切って企画を立てて見たものの、営業部長のお言葉は「契約社員の名前ではこの企画は立てられない」。そして、遠藤課長の口からはっきり言われます。「いくら努力しても正社員にはなれない」と。

大卒の資格がない、ただそれだけのためにハナからプレイヤーとしての資格を剥奪されている。不条理というほかありません。

この「資格」こそ今回の、というか、少なくとも『HOPE』という連続ドラマ第6話までを貫く主題だったんだと昨日初めて気づきました。

資格といえば…

hqdefault

この人も資格を活かしますよね。大型運転免許という資格。早退して同行した人見くんが聞きます。「免許はもってんの?」「もってる。でも5年ぶりくらいかな」。ここで人見くんは青ざめるんですが、ここに「資格」というものの本質が如実に顕れています。

資格とは、その業務なり活動なりをしてもいいよ、というお墨つきですよね。つまりその業務をしてもいいという「権利」が得られる。同時にその業務ができるという「能力」という意味でもあります。

しかしながら、山本美月は大型トラックを運転する権利は有していても、ちゃんと運転ができない。資格をもっていたら確かに「権利」はあります。でも「能力」もあるとはかぎらない。

私も高卒だからよくわかりますが、大卒だから頭がいいとか高卒よりいろんなことができるとはかぎりません。
中島裕翔が働く商社では彼以外みんな大卒だから正社員になる権利はもっている。当然出世の機会もある。でも、だからといってその役職にふさわしい能力をもっているかどうかはまた別の話です。

裏を返せば、資格がなくても能力がある場合もある。車の運転だってそうでしょう。ブラックジャックなんか無資格なのに世界一の外科医です。資格なんてしょせんはそういうもの。

中島裕翔がちょっと前まで打ち込んでいた囲碁だってそうです。

はっきりとは知りませんが、おそらく22歳未満でないとプロになれないという年齢制限がある。それは「22歳未満」が資格ということです。中島裕翔はその資格を失ってしまった。瀬戸康史と一緒に物を売る研修に出かけた先で彼は言います。「いくら努力したってどうにもならないことがある」と。

中島裕翔は、資格が原因でプロ棋士になれなかった。だから就職した。しかも一生懸命頑張り、上司のおぼえもめでたい。でもそこでまた資格が立ちはだかる。棋士に大卒の資格なんかいらないから行かなかっただけなのですが、それがまた手かせ足かせになってしまう不条理。

そして、それは彼に「おまえは正社員にはなれない」と言った遠藤課長にも当てはまることです。「あんなにはっきり言わなくても」と苦言を呈した山内圭哉主任に対し「変な期待をもたせないためだ」といいます。それは正論でしょう。しかし、それは一般論として出た空疎な言葉ではなく、自分の境遇から滲み出た「生きた言葉」だったと私は思います。


img_01

遠藤課長は風間杜夫専務との間に確執があり、もう部長になってもいい年齢なのにまだ課長でくすぶっている。それは、部長になる資格を剥奪されているということです。前回も営業部長が気に入る企画をあげたのに風間杜夫専務の鶴の一声で他の部署に奪われてしまいました。

中島裕翔だけが資格を剥奪されているわけではありません。遠藤課長もです。そして営業3課という部署自体が新しい企画をいくら上げてもそれを実らせられない。それは企画を上げる資格を剥奪されているということに他なりません。

中島裕翔はあの会社の正式な社員にはなれない。遠藤課長はすでに正社員ですが、出世の道は閉ざされている。

どちらも「資格」を剥奪されているからです。いったい誰に?

ここで大事なキーマンがいます。前回で転職サイトの人と会って本気で転職を考えていた瀬戸康史。


hqdefault1

彼は一流大学卒で仕事もできます。つまり、かれには「資格=権利」だけでなく、正社員として出世街道を突っ走る「能力」も充分にもっています。

しかし、彼はそのことを自覚しているがゆえに自滅しそうだった。権利も能力もある。そのことで天狗になってしまっていました。

中島裕翔がプロ棋士を目指していたこと、年齢制限という名の資格のためにありあまる能力をもちながらプロの道が閉ざされたことを知り、彼は考え方を改めます。決して物を売る研修で変わったのではありません。彼はギンギンに冷えたハンドタオルが完売する前にすでに変わっていました。

中島裕翔はただ年齢が22歳を超えてしまったというそれだけのためにプロ棋士になれなかった。翻って自分はどうか。一流大学卒で正社員として雇われ、中島裕翔のようにまじめに働けば簡単に道は開けそうなのに、それもできず、ただ周囲との比較に苦しむ毎日。

それを象徴するのが、上司である結城主任の一言でした。前回のセリフですね。

「君はいきなり新規事業企画を上げてきた。思い上がりもはなはだしい」と。

瀬戸康史は「俺にはできる」と思いすぎたのです。新規事業企画を上げる「資格」を有していると。つまり彼は、その資格があるかどうかは自分が決めることだと思っていたのですね。

しかしながら、中島裕翔が年齢制限というあらかじめ決められたルールによって囲碁界から締め出されたことを知り、彼は考えたはずです。
自分にはこの会社でやっていく権利も能力もある。一方で転職する権利も能力もある。彼にはいろんな道があります。でも中島裕翔にはあの会社で頑張るしか道がない。しかも高卒というだけで1年後にはクビかもしれない。

転職する権利は確かにあるが、いまの会社でやっていく権利を取ったほうがいいのではないか。そして彼は考え方を改めます。自分に「資格」があるかどうかは上の人間が決めることだ、と。

営業3課が新規事業企画のために邁進していた3か月間、彼はおそらく事務作業だけをこなし、そして結城主任から「おまえも企画を立ててみないか」と言われ喜びます。

彼は悪い奴ではなかった。それは、前回の感想でも書きましたが、山本美月と一緒に食べようと買ってきたスイーツを彼女と仲良く話に興じる中島裕翔に「これ食べてよ」と切ないウソをつく場面から明らかです。ただちょっと勘違いをしていただけ。彼にはそれに気づく度量があった。

山本美月だって、第3話の一件で完全に課長から嫌われてしまいましたが、桧山主任からはその後の頑張りによって新しい仕事を任されるようになります。課長は認めなくても俺が「資格」を認めてやると、雑用以外の仕事を回してくれる。

だから結城主任も桧山主任も「いい上司」だったわけです。中島裕翔にとっての遠藤課長と同じぐらいの人格者だった。

さて、上の人間が「資格」の有無を決められるなら、中島裕翔が正社員になれるかどうか、遠藤課長が部長に昇進できるかどうかは誰が決めるのでしょうか。

当然この人ですよね。

Cq6igElUAAAx7Vs


中島裕翔のお母さんとどういう関係なのか知りませんが、この人のコネで我らが中島裕翔は入社できたわけですが、蛇蝎のごとく嫌っている遠藤課長の営業3課に配属したということは、彼を正社員にするつもりはない。当然、遠藤課長をそれ以上の役職に就かせる気もない。

確かに、総合商社が自分たちで小売業をやるという前代未聞の企画プレゼンは大成功に終わりました。

しかし、「これから忙しくなる。営業3課に人を回そう」と言うから誰が来るのかと思ったら、ニヤニヤした宮川一朗太でした。潰す気なのは誰の目にも明らかですが、気になるのは風間杜夫専務と遠藤課長の確執の原因となった15年前の契約社員自殺事件がいったいどういう経緯による、どういう具体的な事件だったのか、ということです。

そこに「資格」という主題が絡んでいるのかどうか。私は絡んでくると思っていますが、はたしてどうでしょうか?


上の人間が資格を決める。といえば、彼ほどかわいそうな人もいませんよね。


55f4164a

マギーがいくら巧妙に演じても「作為」を感じると前から言ってましたけど、もう昨日のような展開になると逆にひどすぎて人見くんには悪いけど面白い! マギーは人見くんをいじめぬき、困らせることしか考えていません。当然、彼に企画を立ち上げる資格があるかどうかなどハナから考えていない。

この記事の冒頭で、
①中島裕翔と遠藤課長、営業3課のメインプロット
②山本美月のサブプロットA
③瀬戸康史のサブプロットB

3つのプロットが並行して描かれると言いました。前回も確か同じことを言いましたが、はっきり違っていたことがわかりました。

本当は、
①中島裕翔・遠藤課長・人見くんの「資格を認めてもらえない人たち」のメインプロット
②山本美月と瀬戸康史など「資格を認めてもらえた人たち」のサブプロット


この2つだけです。しかもこの2つは表裏一体だから実際はプロットは1つです。「資格」をめぐる物語、それだけ。シンプルで力強い物語構成は話の数がたったひとつだけだからだとわかりました。

そして、たったひとつだけのお話に多種多彩な人物が絡むから面白いのだと。

トリュフォーじゃないけど…日曜日が待ち遠しい!!!


続き
第7話(「しっかりやれよ」いこめられた様々な想い)
第8話(結局「善と悪」の対立で終わるのか)
最終話(この物わかりのよさを断固拒否する!)



このエントリーをはてなブックマークに追加