2016年03月13日

先日CSで放送された工藤栄一監督の『野獣刑事』を久しぶりに再見しました。

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この緒方拳が拳銃を構えるショットの恐ろしいまでの美しさ。

カメラマンが名手・仙元誠三さんだから撮りえたショットなんでしょうが、私にはカメラマンが誰であれ、こういうすごい画を撮らせるのが工藤栄一監督だったと思えてなりません。

あれは撮影所に入ってすぐのときでした。私は正式に工藤組に配属されたことはなかったのですが、撮り直しが生じたとかで、「誰でもいいから手の空いてる者来て」との号令がかかり「おまえ行ってこい」と先輩から言われて生まれて初めてプロの撮影現場に行ったのです。

いきなり工藤組ということでめちゃ緊張しました。だってお会いしたことないけど作ってる映画が物騒なものばかりだから下手したら怒鳴られたり殴られたりするんじゃないかと。

でもそれは杞憂だったのです。

椿の花を道に散らすよう助監督に指示した工藤監督は、「違うなぁ、もっとこう芸をせんと」と助監督から椿の花を受け取ると、ぱらぱらっと散らしたんですよね。その散らし方が何とも粋でした。「ほら、こうやって、こうやって、これでどや」。助監督が散らしたのとはぜんぜん違う「芸をしている椿」の完成でした。

工藤監督にかぎらず、私の経験でいえば、ディレクターズチェアにふんぞり返っているのは無能な監督です。有能な人ほど自分から率先して動く。

私が工藤監督とご一緒したのはこの一日だけ。それもほんの2,3カットだったはずです。しかし、このときの印象はやたら強烈で、それまで「工藤栄一=ヤクザみたいな人」というイメージだったのが、「工藤栄一=はんなりとした粋な人」に変わりました。

だから、今回『野獣刑事』を見直してみて、どのシーンを見ていても工藤監督のあの鮮やかな椿の散らし方が目に浮かんでしまいました。場末の生活感が滲み出たセットのデザインとかでも、工藤監督自ら率先して汚しを入れたりしてたんじゃないのかなぁと。

映画はグゥの音も出ない傑作であることは言うまでもありません。

が、私にとってはそれ以上の何かですね。だって、工藤監督とほんのちょっととはいえご一緒してから今日まで『野獣刑事』を見直してなかったんですもの。思えばえらく長いご無沙汰でした。今日やっと自分なりに供養を済ませられた気がします。

ああいう粋な人だからスタッフもキャストもついていくんでしょうね。「こんな奴のために何で徹夜せにゃならんのだ」と思わせてしまってはおしまいですから。

だから、仙元誠三さんじゃなくてもあのショットを撮りえたんじゃないかと思うわけです。「この監督のためなら」という想いが不可能を可能にする。

映画の中でいい芝居をする俳優さんにも鬼籍に入られた方が何人もいます。粋な人がどんどん亡くなっていきます。合掌。


野獣刑事
緒形拳
2018-07-01





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