聳え立つ地平線

ありえないものを発見すること、それを写し撮ること、そしてきちんと見せること。

『民王』第4章「盟友」(泣いて馬謖を斬れ? ノーノー!)

ますます面白さを増してきた『民王』第4章「盟友」を見ました。

いやぁ~、今回も抜群の面白さでしたね。もうエンジン全開、フルスロットル状態。

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前回の予告で流れたこの映像がやたら笑えたんですけど、今回はここに至るまでの道程が描かれます。

まずは、前回、知英演じる女子大生(バカ息子にぞっこん)と体が入れ替わった草刈正雄演じる野党党首・蔵本が親子だった、ということが明かされます。なるほど、だから体が入れ替わってしまったのか。もし親子じゃなかったら誰とでも入れ替わり可能となって整合性がないというかちょっと興ざめするかもと思っていたのでこれはうれしい誤算でした。

そして、金田明夫演じる官房長官が赤ちゃんプレイに興じていたとスクープされ、予算委員会は紛糾、総理が官房長官を更迭しなければならなくなる、というのが今回の物語のあらましです。

蔵本の政党でもある議員が政治活動費でSMクラブ通いをしていた事実が発覚し、メディアは議員辞職を迫るなど、体が入れ替わった政治家二人が苦しい立場に追い込まれます。

今回、ドラマの肝となるのは、上記のメインプロットと並行して語られる、本仮屋ユイカ演じる職業紹介会社社長(ぜんぜんそんなふうに見えませんけど。あれじゃ悪い奴に騙されてすぐ素寒貧になってしまいそうな)が、自分が紹介したシングルマザーが子供の度重なる発熱のため何度も会社を休んだためクビになる、本仮屋ユイカが何とか社長に翻意を迫る、というエピソードですね。

このサブプロットがなかったらあまり面白みのない物語になっていたに違いありません。クビになった女性がいまの社長ではなく、その父親、創業者である先代社長に雇われた人、というのがさらに肝ですね。ここで何となくクライマックスが読めてしまう感はありましたが。しかし私は常に物語を見たり読んだりするときはできるだけ先を読まないことにしてるので、終わってからあぁなるほど、と思うことのほうが多いんです。

閑話休題。
遠藤憲一演じるバカ息子(見た目は総理)は、総理より力をもつ副総裁(西田敏行)から「泣いて馬謖を斬れ」と命じられ、秘書が書いた答弁書を丸暗記して予算委員会に臨みます。が、予想どおり、いや、期待どおり答弁書を破棄し、自分の言葉で語り始めます。
彼にとって官房長官は幼い頃から遊んでくれた大好きな人だし、何より父親の「盟友」なのですからね。

「プライベートなことじゃないですか。赤ちゃんプレイが大好きだからってクビにすることないでしょ? 官房長官として有能ならそれでいいじゃないですか。予算委員会って国の予算を決める大事な場所ですよね。こんなことで言い争いするなんて時間の無駄です」

と官房長官更迭を破棄し「それでもやっぱり国民がそんな官房長官がダメだと言うなら、私も総理を辞めます」という仰天発言でこの問題は幕を引きます。

ここはもう完全に昨今の政治家どもやメディへのへの痛烈かつ爽快な批判となってますね。体が入れ替わるという非現実的な手を使って現実世界を撃つ。見事です。

すると・・・

本仮屋ユイカのほうの問題では、菅田将暉演じる総理(見た目はバカ息子)が公安の力を使って社長の路チュー写真を入手し「クビを撤回しろ」と迫りますが、悪辣な二代目社長はそんなことくらいではビクともしません。しかし、何と都合のいいことに総理が先代社長と旧知の仲で、一部始終を聞いた先代がやってきて息子を更迭、自分が社長だ、私は従業員を守るのがモットーと言って大喝采。見てるこっちもニンマリしてしまいました。

泣いて馬謖を斬る。
諸葛亮孔明の故事にちなんだ言葉ですが、最初、総理が官房長官更迭を撤回したときは、確かにこのほうが面白いけど、孔明に喧嘩を売るとはすごいなぁ、つーか、やっぱり泣いて馬謖を斬ることって必要なときもあるんじゃないの? と思っていたら、サブプロットのほうで先代社長が息子を斬っちゃった(ぜんぜん泣いてなかったけど)という実に巧みな構成に唸りましたぜ。
サブプロットがなかったら面白くないどころか、イデオロギー的にも「幼い」というか「きれいごとすぎる」といった感じになってしまっていたことでしょう。あのサブプロットの存在のおかげでいいバランスが取れています。

先日、日記を書いた『ゴッドファーザーPARTⅡ』では父と子が対比して描かれていましたが、ここでは親子と親子が対比されています。『アンナ・カレーニナ』が先駆なのかもしれませんが、二組の人間を対比して描くことでテーマがより深く掘り下げらていますね。これまたお見事というほかありません。
そして…

知英の蔵本はバカ息子の泣いて馬謖を斬らない決断に打たれ、必死で調べ上げたのでしょう、SMクラブ通いしていた議員が完全に私費で遊んでいた事実を突き止め、守ります。

そして、上の画像になるんですよね。もともとバカ息子が好きな知英は、「あなたのおかげだよぉ」と蔵本の姿で総理に抱き着いてあろうことか頬ずりしてしまうという。いやぁ~、遠藤憲一ならずとも草刈正雄にあんなことされたらそりゃ目が点になるますわな。

しかし…

不満なのは、知英の体になった蔵本が娘の体とはいえ、何もしないこと。普通、男が女の体になったら、胸もんだり、アソコに指入れたりするでしょうよ。女は男の36倍気持ちいいってのがどこまでほんとか試したくなるのが筋ってもの。

そりゃま、話の本筋と何の関係もないからそういうシーンを描けないし、そもそも知英にそんなことさせられなってのはわかりますが、ちょっとだけセリフで匂わせるとか、それぐらいはしてほしかった。その部分だけ唯一リアリティがありません。

とはいえ、本当にエンジン全開フルスロットルでこの『民王』はどこまで行くのか、そしてどのような結末に至るのか。

予想はせずに来週金曜日を待ちましょう。

蛇足ながら、高橋一生演じる秘書・貝原の私生活の一端が出てきたのがよかった。寝てるときまで生真面目で几帳面なんですね。前回、図らずも童貞であることが視聴者にだけばらされましたが、貝原の身にも何かやんごとなき出来事が起こるような予感がします。

いや、やっぱり予想はやめておきましょう。(笑)



中村文則『悪意の手記』(新潮文庫)

『掏摸』の感動がいまだに忘れられない中村文則さんの『悪意の手記』を読みました。



不治の病に冒されながら一命をとりとめた主人公が無意識に楽になりたくて親友を殺す。殺した主人公の懊悩を描くのが主題で、これは現代ニッポンの『罪と罰』なんだろうか、と読みながら震えが来たんですけど、リツ子という名前だったと思いますが、かつて娘を少年に殺されて復讐を誓っている女と出遭うところから、何だかちょっと違う話になってしまった感が強いです。

リツ子も人を殺そうとしている。その標的の人物は主人公と同じく人を殺したことがある。

最終的にその元少年犯を別の人物が殺すんですが、登場人物の誰も彼もが「人を殺す/殺したことがある」という共通項をもっています。

それは明らかに狙いなんでしょうが、私にはそこが「作為」と感じられてしまったんですよね。「作り話」を読んでる気分が強くて興ざめしました。

外部からの異物によって主人公の環境が変わるのは物語としてよくある手ですけれど、どうも純文学にこういう手は似つかわしくないんじゃないでしょうか。

リツ子という女と遭遇する、そしてどうなるか、というサスペンス的な手法を使わずに主人公自身の喜怒哀楽をもっと純粋に掘り下げてほしかったです。

続編的ともいえる作品『最後の命』を読み始めました。いまのところ一字一句に息を呑んでいます。最後まで持続してほしい!



「大きな物語」は本当に失われたのか?

ポストモダンというものに疎いので見当違いのことを言うかもしれませんが、どうぞご容赦を。

さて、いまという時代を論じるときに「大きな物語が失われた時代」っていう決まり文句がありますよね。

あれって何かいつの間にかそれが当然みたいになってますけど、本当に大きな物語って失われたんでしょうか。

内田樹先生は、「決まり文句を容易に信じてはならない」と様々な本で語ってらっしゃいます。
「一度上げた生活レベルは下げられない」を代表として挙げてますが、「本当にそうなのか」という確認を怠ったまま、大多数の人間が同じことを言ってるから正しいと盲目的に信じて口にしているだけと内田先生は難じています。

「いまは大きな物語が失われた時代だ」というのも同じなんじゃないでしょうか。

戦争や革命などの大きな物語があった時代といまは大きく違うかもしれませんが、それでもやっぱりいつの時代でも、「人間は〝世界史″の中で生きている」のですからね。

確かに、大きな物語が失われたような気はします。だけど、それって主観的なものなんじゃないのかな、と。

「いまは大きな物語が失われた時代だ」と言う人は自分の視座からしかものを見てないんじゃないですかね? だから自分が歴史の大きなうねりの中にいることが見えない。

銀河系を真横から見た想像図がありますけれど、ああいうふうに超絶的なまでに客観的に自分の立ち位置を見つめないと、銀河系が回っていて、その中の太陽系も回っていて、地球はその太陽の周りを回っていて、自分はその渦中にいる、ということが見えないんじゃないかと。

「いま/ここ」にいながらにして、未来から「いま/ここ」を見る視座を獲得することが重要なんだと思います。

どんな時代でも「大きな物語」はありますよ。
「いま/ここ」の視座からは見えないだけで、後年になって「あぁ、あの頃はこうこうこういう大きな物語な中に自分はいたんだな」と誰しもが思うんじゃないでしょうか。


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