聳え立つ地平線

ありえないものを発見すること、それを写し撮ること、そしてきちんと見せること。

中村文則『悪と仮面のルール』(講談社文庫)

『悪意の手記』『最後の命』に続く中村文則さんの三部作最終作『悪と仮面のルール』を読みました。

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出だしを読むとぐいぐい引き込まれて、終盤近くまでかなり一気に読んだんですが、結果的に、うーん、これもちょっとどうなんだろう、という小説でした。

「邪」の家系に生まれた主人公がその血ゆえに苦しみ、父を殺し、顔を変えて幼馴染の女を探し、JLという名のテロ組織を作って…という内容なんですが、まず「邪の家系」とか冒頭で父に言われる「おまえに地獄を見せてやる」の「地獄」とかの言葉が、ことごとく観念的で具体性がないのが致命傷ではないかと。

フィクションは観念の産物にすぎないと言ってしまえばそれまでですが、しかし、あまりにひとつひとつの言葉が硬く、腹にストンと落ちてこないんですよね。

湾岸戦争やイラク戦争の裏で何があったか、という説明がものすごく長台詞で述べられていますが、「説明するな、描写せよ」といった筒井康隆さんがこの小説を読んだら一笑に付すんじゃないでしょうか。

筒井さんの小説はまったく説明なんてないですもんね。登場人物の性格や来歴、物語の背景など、すべて展開とともにわかるようになっています。

中村さんの『掏摸』や『銃』だって説明的だとか表現が生硬だとかの感想は少しもなかったんですけど、この三部作はすべて読み終わって徒労感だけが残りました。

何か「頭」だけで書いてる感じがするんですよね。具体がない。

それと、自分で解説を書くのはよくないと思うのですが、いかがでしょうか?



リーガ第3節 首都マドリードvsカタルーニャ州都バルセロナの2試合

ちょっと前までなら1日に2試合も見る時間はなかったんですけど、もう時間を気にする必要はなくなったので、レアルの試合だけでなく、アトレティコvsバルサの試合も続けて見ました。

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レアルは「得点力不足」と批判されたのがはるか昔であるかのようなゴールラッシュ。
エース、クリスティアーノ・ロナウドが5ゴール1アシストの大車輪の活躍でだったし、ベイルのトップ下がようやく機能し始めてきたし、ベンゼマのポストプレーはやっぱり素晴らしいし、クロースがいなくても、カジミーロ、モドリッチ、コバチッチのセンターハーフに少しも危なげがなく、6-0の圧勝。

しかし、後味が悪いのも事実。

後半、5-0で勝っていたとき、エスパニョールのクロスがマルセロの手に当たったんですよね。主審は充分見える位置にいたにもかかわらず、PKの笛を吹きませんでした。どう見てもあれはPKでしょう。

同じことがアトレティコvsバルサの試合でもありました。

ネイマールのシュートがアトレティコの選手の手に当たったのに主審はハンドの笛を吹かなかった。バルサの猛抗議にも「脇を締めてただろ」というようなジェスチャー。でもスローで見るとぜんぜん脇を締めてない。あれは明らかにハンド、PKでしょう。

この2試合、1試合は愛するレアル・マドリードの試合であり、もう1試合は強豪同士の対決ということで見たんですが、奇しくも、多民族国家スペイン王国の首都マドリードのチームvsカタルーニャ州の州都バルセロナのチームの対決だったんですね。

カタルーニャといえば、独立運動が盛んであることがよく報道されてますが、どうも今日の主審はカタルーニャ独立に反対の立場で、それがジャッジに影響を及ぼした感があります。というか絶対そうでしょう。マドリード中央政府に反旗を翻すとこうなるぞ、みたいな。

レアルが大勝したけど、あまり気分がよくないし、逆にバルサが勝ってよかったと思います。そりゃマドリディスタの私からすれば、引き分けか、アトレティコが勝ってバルサが勝ち点0で終わってくれるほうが都合がよかったんですが、審判に試合を壊されるくらいなら実力通りバルサが勝つほうがずっといい。

ロナウドの圧巻5ゴールやフェルナンド・トーレスの先制弾にも燃えたし、ネイマールの劇的同点フリーキックもすごかったけど、主審の不可解な判定のあとのメッシの意地の勝ち越しゴールが今日の2試合通して一番感動した場面でした。

人間は政治的な動物だから、それぞれ政治的主張はあってかまいません。特に選手がそういう思いを胸に戦うのは相乗効果を生むと思いますが、審判が政治的立場から不公平な判定をするのは絶対に許してはなりません。

政治的主張をしたいなら試合中でなく、別のところでやってもらいたい。

と切に思います。



マジで面白い『振り込め詐欺』(階級闘争の果てに…)

先日WOWOWで放送された、貝原クリス亮監督『振り込め詐欺』を見ました。

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ろくでなしの男にウリをやらされている女が、もっと金が必要だということで、「振り込め詐欺研修会」みたいなところに送り込まれるんですね。

そこで、こんなに簡単に大金が手に入る、と振り込み詐欺の手口のイロハを教え込まれ、首尾よく騙せたら1割もらえるという仕組み。ほんとにこんな研修会があるのかどうかは定かじゃないですが、かなり高い確率であると思われます。現実の日本社会では史上最も詐欺師が多い時代じゃないかと思えるほど振り込め詐欺に手を染める人が多いですもんね。

で、その組織が振込口座をタレコミされてしばらく活動を凍結することを決めたのをきっかけに、主人公は一緒に研修会に入った女と組織には秘密で大金を騙し取っていくんですが、それが組織にばれてしまい…

という物語なんですが、この映画には一人も善人が出てきません。主人公だけは仕方なく、という感じでしたけど、後半は自分から率先して詐欺に手を染めるし、彼氏も殺しちゃうし。

現実に振り込め詐欺に被害に遭う人が多数いて、私自身は騙される奴のほうが悪いと思ってるんですが、それは抜きにしても、主人公に対する反発はありません。

なぜなら、研修会と称してはいるものの、おそらく暴力団の末端構成員とおぼしき男が、恫喝に恫喝を重ねて無理やり詐欺の手口を教えていくんですが、主人公は彼から9割も搾取されているわけで、だから、これはもう「プロレタリアートによるブルジョワジーへの反逆」なんですね。階級闘争。思わず応援したくなっちゃう。

とはいえ、研修員の男にも反感を感じないところがミソ。
彼は、「世の中カネだ、カネがすべてだ!」とわめくんですが、その言葉の是非はともかく、そこに彼の人生観・人間観が詰まっていると感じるからです。おそらく貧しい幼少時代を過ごし、金を騙し取られたこともあったのでしょう。金さえあれば、金さえあればこのクソみたいな人生を変えられる、そう信じて振り込め詐欺に血道を注いでいるのがわかるのです。

そうです。彼もまた階級闘争の下位に属する者なのです。何割かは知りませんが、組から搾取されているはず。

てことは、その上位にいる人間、金をたんまりもっていながら自分では何もせず人をこき使うだけの輩を出さないと片手落ちじゃないの? 主人公とその男が手を組んで暴力団に喧嘩を売るぐらいのことをやってほしい、と思いましたが、これはないものねだりかな。この映画の予算ではあまり大がかりな立ち回りとかできそうにないし。

でも、『真夜中のカーボーイ』みたいなエンディングにちょっと引いたのも事実。できれば、主人公には勝ってほしかった。金は得たけれど…という最後じゃなくて、金をゲットして超ハッピー! という能天気な映画を見たかった。

悪事に手を染めた主人公が何の裁きも受けずにハッピーエンド。それが正しい「階級闘争映画」のあり方じゃないかな、と。

とはいえ、何だかんだと考えさせてくれるこの『振り込め詐欺』はマジで面白かった。おすすめです。



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