聳え立つ地平線

ありえないものを発見すること、それを写し撮ること、そしてきちんと見せること。

パトリシア・ハイスミス『キャロル』(心が風邪を引いたら…)

パトリシア・ハイスミスが1952年にクリス・モーガンという別名義で上梓した『キャロル』(当時は『ザ・プライス・オブ・ソルト』というタイトルだったとか)を読了しました。

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さすがハイスミスですねぇ。やたらめったら面白い。

主人公テレーズが美しい人妻キャロルと出会い恋に落ちる物語なんですが、ハイスミスらしく全編に常に不穏な空気が漂っていて、読んでる間ずっと宙吊りにされてる感じ。ミステリ作家の歴代1位に選ばれたのも納得の、一大サスペンスですね、これは。

主筋はラブストーリーなんですけど、この先この二人の関係はどうなるのかハラハラしまくり。拳銃が出てきたときなんかはもう「ああ、どちらかが殺されるのか。どっちが殺すのか。やはりテレーズなのか。それだけはダメ!」と架空の人物に心配してしまうほど感情移入しまくり。

そして、ラストは…

これは書かないでおきましょう。

ただ、心が風邪をひいたときは、読み返さないまでも、この『キャロル』の結末を思い出すだけで復活できるんじゃないか。そんな気さえするエンディングでした。もうお腹いっぱい。

トッド・ヘインズ監督によって映画化され、テレーズを演じるのがルーニー・マーラ、キャロル役はケイト・ブランシェットということでおそらくベストキャスティング。賞レースでも堅実な結果を残しており、これは期待できそうです。

本棚には、積読状態のハイスミス本が数冊あります。貪り読みたい気分です。



『セルラー』(「さかさま神話」の傑作)

久しぶりに再見しました。ラリー・コーエン&クリス・モーガン脚本、デビッド・R・エリス監督による『セルラー』。

主人公ジェシカ・マーティンは平和な生活を営む教師で、良き妻であり一児の良き母。
そんな彼女の家に暴漢が侵入し、誘拐され、どこかわからない一室に閉じ込められます。備え付けの電話も壊されますが、必死に回路をつないで…


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ある若い男、ライアンにつながるのですね。彼は巨乳女とやることしか考えてないチャラ男なんですが、このライアンがジェシカが本当に誘拐されて監禁されていることを知り、彼女を助けるために奔走します。

そして、ある警官ボブの助けもあって、首領である汚職警官イーサンを殺して一件落着というのが物語のあらまし。何の変哲もないサスペンス・アクションのストーリーですが、これを「神話」として読み解いていくといろいろ面白い発見がありました。
『スターウォーズ』新シリーズの始まりに伴い、ジョージ・ルーカスに強い影響を与えた比較神話学者ジョーゼフ・キャンベルの『千の顔を持つ英雄』が復刊されるらしいですし、「映画は現代の神話」だとキャンベルも期待してましたもんね。


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この映画では、「二人のヒーロー」がいます。もちろん、若造ライアンと警官ボブです。二人は「ヒーロー」などとは縁もゆかりもない生活を送っています。ライアンは女のことしか頭になく、ボブは職務そっちのけで副業で奥さんとスパを経営することしか頭にありません。どちらも「汚職警官ライアンをやっつける」ことなど映画が始まるまで少しも考えていません。

ここがまずミソですね。ヒーローとしての心の準備ができていない。それどころかそんなのどうでもいいと思っている。そんな二人が会ったこともない人間のために命を懸けてヒーローになっていく物語です。

この二人の英雄が悪を懲らしめるためにもっている「武器」は何でしょうか。

まず、ライアンにとってのそれはジェシカと通じる携帯電話です。これが最後に活躍することは見ずともわかるわけですが、問題はボブの武器である「拳銃」です。拳銃は、悪役イーサンももっています。

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しかも二人とも同じ警察官。もとは二人とも正義を下すために拳銃をもったのでした。それがいまやイーサンは悪事のために使っており、ボブはいまやただ腰にぶら下げているだけ。しかし、このボブの拳銃が最終的にすべてを解決します。

主人公ジェシカを恐怖のどん底に陥れたのも拳銃なら、彼女の危機を救うのも拳銃です。しかし、その拳銃が別々の人間のものであるところが少し弱いところでしょうか。

『ロード・オブ・ザ・リング』では、暗黒面に堕ちた者の武器も指輪なら、正義を下す者の武器も同じ指輪でした。ひとつの指輪がどちらの手に入るかでこの世界の命運がかかっていました。『ロード・オブ・ザ・リング』の神話的世界はまことに強固なものだったと言えるでしょう。

しかしながら、この『セルラー』でも似たようなことが言えます。ジェシカを襲うのも警官なら救うのも警官だからです。最初は正義に燃えて警察官を志したはずなのに、暗黒面に堕ちてしまったイーサンと、ぎりぎり正義感を忘れていなかったボブとの対照。『セルラー』もまた『ロード・オブ・ザ・リング』と同じ神話的世界を形作っています。

この頃はまだそれほどメジャーな俳優ではなかったとはいえ、この2年前に『トランスポーター』シリーズでヒーロー役をやっているジェイソン・ステイサムを悪役に配したのは、ヒーローであるボブとは対照的に暗黒面に堕ちてしまったアンチヒーロー(元ヒーロー)として、すでにヒーロー役をやっていたステイサムが必要だったのでしょう。

だから、この映画の最も神話的なところは、過ぎし日には同じ正義感に燃える若者だったボブとイーサンの警察官の関係です。そしてその二人が「脇役でしかない」ところがこの映画のユニークなところです。

この映画の主人公はジェシカです。そしてジェシカが最初に助けを求めるライアンが準主役です。しかしながら、この映画の神話的世界に的を絞ると、彼らはただの脇役にすぎません。ライアンは「英雄ボブと悪の化身イーサンの神話」における援助役にすぎません。ジェシカにいたってはただの被害者です。

この映画では、被害者の「視点」から物語を紡いでいるわけですね。被害者ジェシカから援助役ライアンの登場、そして英雄ボブの登場と神話世界の外から中へ話を進めているのがうまい構成だと思います。

この文章の最初のほうで、「ボブがライアンを助ける」みたいなことを書きましたが、神話的世界から見ればまったく逆なのですね。ボブがヒーローとして屹立するための援助をライアンがするわけです(だから「二人のヒーローがいる」と書いたのも実は間違いです。ヒーローはボブただ一人)。映画のプロットとそこに隠された神話の構成は完全に「さかさま」なのです。ヒーローとはまったく違う視点から物語を紡いでいるわけだから当たり前といえば当たり前ですが、とても面白いと思います。

ボブを主人公にしても物語は成り立ちます。しかし、それではあまりに教条的な映画になったことでしょう。

いきなり暴漢に襲われる、被害者が会ったこともない男に電話で助けを求める、その男がさらに助けを求めたやる気のない警官が登場し、暴漢たちが実は彼と同じ警官であることが判明し…

という感じで、小気味いいサスペンス・アクションの物語進行とともに神話の世界が少しずつあらわになっていき、「真の英雄」が誰かは最後にわかる。

ジョーゼフ・キャンベルが見たら大喜びするだろうと思われる「さかさま神話」の傑作だと思います。



欧州CLラウンド16大予想(いや願望)

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いやぁ、やってまいりました。今年もUEFAチャンピオンズリーグ決勝トーナメントの季節。

抽選の結果、以下のような組み合わせに。(〇は予想、△は願望、◎はその両方、×はそれ以外)

①×パリ・サンジェルマン vs チェルシー◎

別にどっちでもいいけど、チェルシーが早々と敗退するとモウリーニョがクビになってマドリーに来るかもしれないので、いいところまで行ってほしいです。紳士じゃないモウリーニョはもう結構です!

②△ベンフィカ vs ゼニト〇

ゼニトのグループリーグでの強さはすさまじかったようなので。ま、くじ運に恵まれた感もありますが。
ポルトガルのチームに勝ち上がってほしいのでこの願望。

③△ヘント vs ヴォルフスブルク〇

実力差からいってヴォルフスブルクの勝ちで決まりでしょう。でも私は判官贔屓の人間なのでヘントを応援します!

④〇ローマ vs レアル・マドリード△

いまのレアルにはローマに勝つ力はないでしょう。はっきり言って、ここで負けてペレスを辞任に追い込んでほしいんですが、せめてベスト8には行ってほしい、との切実な願いからこの願望。

⑤△アーセナル vs バルセロナ〇

これはもう決まりか。でもバルサはピークがクラシコに来てしまった感もあり。クラブW杯の結果次第では泥沼になるかも、なんて期待してます。
アーセナルはやっぱりヴェンゲルさんの大ファンなので頑張ってほしいですね。

⑥△ユベントス vs バイエルン〇

これももう決まりでしょう。でも、モラタ君のいるユベントス、応援してます! それにバイエルンは世界で一番嫌いなクラブなのでね。

⑦×PSV vs アトレティコ・マドリード◎

アトレティコ頑張れ! CLはわかりませんが、現時点でのリーガ・エスパニョーラ優勝候補はアトレティコだと思ってます。スペイン勢4枠確保のためにもできるだけ長く勝ち残ってもらいたい。

⑧×ディナモキエフ vs マンチェスターC◎

特に何もありません。逆でもいいです。

というわけで、マドリディスタの私が初めてレアルの敗退を予想する初めての大会となりました。



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