聳え立つ地平線

ありえないものを発見すること、それを写し撮ること、そしてきちんと見せること。

アドニス・クリード ロッキー魂を継ぐ男!

見てきましたよ。『ロッキー』シリーズ最新作『クリード チャンプを継ぐ男』。

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でも今回はロッキー・バルボアじゃなくてかつて敵でありその後親友になったアポロ・クリードの息子アドニス・クリードが主人公。ロッキーは彼のトレーナー役です。

私は長年のアカデミー賞ウォッチャーなんですが、このところの賞レースでスタローン先輩が助演男優賞にノミネート、あるいは受賞というケースが相次いでおり、第1作以来39年ぶり、しかも同じ役でのノミネート、そして初受賞はあるのかないのか、というところが最大の関心事でして、もう映画を見るというよりスタローン先輩を見に行くという感じでいそいそと劇場へ出かけて行ったのでした。

最初は乗れませんでしたね。何かこう脚本の構成がぎこちないというか、主人公アドニス・クリードにすんなり乗れない語りになってるんですよ。気のせいか?

で、それはクライマックスであるタイトルマッチ直前まで続きました。何か乗れない。ロッキーが癌に侵されていると知っても「あ、そういう手を使ってきたのね」とものすごく冷徹に見てしまう。作品自体の評価も高いようだけど、どこが?という感じでした。スタローン先輩もそんなにいい芝居してないし。いつもよりはいいんだろうけど、と。

それがですね、タイトルマッチが始まると一変するわけです。もう血沸き肉躍ってしまったんですよ。普段はボクシングとかぜんぜん興味ないんです。サッカーにしろ野球にしろ相手の体を直接攻撃しない、したら反則というのがスポーツの面白さと思ってるのでね。

でも映画の中で主人公がやることとなると話は別。「映画においては、愛してると一言つぶやくより一発ぶん殴るほうが決定的なのだ」とは黒沢清監督の言葉ですが、ボクシングこそはその決定的な事態がいくつもあるわけで。

まぁ、現実のボクシングに比べてクリーンヒットがありすぎ、というのはどのボクシング映画でもそうですが、この『クリード』でも、いくら何でもいまの一発でKOでしょう、と言いたくなるのをグッとこらえて画面を見つめていますと、もうノリノリというか、正真正銘血沸き肉躍ったわけです。

そして、最終ラウンドの直前、左目が開かなくなったクリードに対してロッキー・バルボアが言うセリフが泣かせるんですよ。

「アポロはミッキーの死から俺を救ってくれた。でもおまえにはもっと救われた。俺は癌と闘う。必ず勝つ。だからおまえもあいつを倒してこい」

そして、あろうことか、ここで初めてあの「ロッキーのテーマ」が高鳴るわけですよ。アドニス・クリードがロッキー・バルボアの魂を受け継いだ瞬間でした。あの瞬間に鳥肌立てられないような人間とはお近づきになりたくありません。

だから、チャンプを継ぐ男と銘打ってはいますが、この映画はロッキー・バルボアの魂を受け継いだ男の物語なのですね。

ちょっと前に、『ロッキー』とまんま同じ物語構造をもつ『英国王のスピーチ』なんて映画がありました。同じころ、『オーバー・ザ・トップ』の変奏曲『リアル・スティール』なんて映画もありました。


ロッキーの魂のみならず、スタローン先輩の魂が受け継がれていってるわけですね。

クレジットをよく見てみると、脚本がスタローンじゃない! 『ロッキー』シリーズの生みの親は他でもないスタローンなのに。プロデューサーもアーウィン・ウィンクラーとロバート・チャートフという第1作からのコンビ。それなのになぜスタローン脚本じゃないのか。

考えてみれば、これもスタローン先輩の魂が受け継がれていることの何よりの証左かもしれません。監督自身が原案を担当してるんですもの。ロッキー・バルボアとスタローン先輩の遺伝子はもうアメリカ映画界に蔓延していると見ていいようです。

もうオスカー取れるかどうかなんてどうでもよくなりました。

ロッキー・バルボア万歳! シルベスター・スタローン万歳!!!



ネタバレ問題のそこんところ!

『スターウォーズ フォースの覚醒』が公開されてからというもの、ネット上では「ネタバレするな」「ネタバレしたな、この野郎!」みたいな、ネタバレ禁止、ネタバレした奴を攻撃、吊るし上げる、みたいなことが行われてるみたいですが、どうもこういうの厭でして。

もともと『スターウォーズ』の公開より前からここ数年、いやもう10年か20年くらいになるんでしょうか。「ネタバレされたら見る気がなくなる」という風潮が広まったのは。

いま、四方田犬彦さんの『テロルと映画 スペクタクルとしての暴力』(中公新書)を読んでるんですけど、これはテロリズムを扱った映画を通してテロリズムの本質をあぶりだしていくというなかなか野心的な本なんですが、その内容はいまはどうでもよく、四方田さんは冒頭でこういうことをお書きになっています。

「まず本書では一本のフィルムを紹介するにあたって基本的に物語の結末もきちんと書き記しておく主義を採用している。映画はネタバレになればもう見る愉しみがなくなってしまうという昨今の愚かしい思い込みとは別の地点に立って、読者に映画の本当の面白さを体験してもらいたいからである。すぐれたフィルムは一度見ただけでは絶対に理解できない。いくたびも繰り返し見直し、筋立てなどがどうでもよくなったところにまで到達して初めて監督の意図したメッセージを受け取ることができるのである。ネタバレを云々する映画の見方は、最も幼稚な見方であることを確認しておきたい」

なるほど。全面的に賛成ですね。結末がわかっていたら楽しめないのであれば、同じ映画を二度三度見ることはまるで無意味な営みになってしまいます。本当に面白い映画は何度見ても面白いし、逆に見れば見るほど面白くなっていくものです。

しかしながら、当の私も初見の映画はできるだけネタバレに触れずに見に行きたいのも事実なんですよ。

ネタバレ云々は幼稚が正論なら、ネタバレ禁止!もまた正論ではないかと。

じゃあ何が言いたいのかというとですね、ネタバレの文章を読むことの罪、未見の映画のレビューを読むことの罪、これに尽きますよ。

最近の映画レビューには必ずと言っていいほど「ネタバレあり」とか注意書きがありますよね。私もときどきやります。でもほんとはやりたくないんです。なぜなら、ある映画の感想を書くとき、「その映画をすでに見た人」を読者として想定しているからです。

当たり前でしょう。といいたいところですが、最近はどうもこれが当たり前じゃないようでして。

できるだけ損したくないからと他人のレビューを読んでから見る人がいるんですってね。信じられない話ですが、映画だけでなく、食べログとか旅行に行くときはホテルや旅館のレビューなんかを熱心に読んで決めるんですって。あんなのサクラがいるに決まってるのに。全員じゃないだろうけど。

私は別に配給会社の回し者とかではないので思ったことを虚心坦懐に書いてるだけですが、中には本当にサクラがいるのでは? 自社作品のべたぼめレビューを書いたり。他者作品のダメ出しレビューを書いたり。

まぁサクラ云々は別にして、自分がまだ鑑賞してない映画のレビューを読むその神経がわからんのです。つーか読むな。

見てから読むか、読んでから見るか。ってのは私の世代では原作を読むかどうかの話だったんですが、最近では見た人の感想を読んでから見る、というのだから時代は変わったもの。

だから冒頭に「ネタバレあります。ご注意を」なんて但し書きせねばならない。アホらしい。

でも、放送禁止用語と同じで「自主規制」も必要だと思うんですよね。

ツイッターなんかだと、タイムラインにフォロワーさんのツイートがただ時間順に並んでるだけなんで見てる映画の感想も見てない映画の感想もいっしょくたに表示されます。ああいうところでネタバレ文章を書くのはやはりマナー違反でしょう。

でも、ブログとかallcinemaにアップされてるレビューは、まず映画の題名で検索するわけだから、見てない人のほうが見るまで我慢するのが筋というものでしょう。

中には、わざわざ見てない映画の題名で検索してネタバレ犯を見つけて吊るし上げるという暇人もいるらしいです。

世も末だ…



パトリシア・ハイスミス『キャロル』(心が風邪を引いたら…)

パトリシア・ハイスミスが1952年にクリス・モーガンという別名義で上梓した『キャロル』(当時は『ザ・プライス・オブ・ソルト』というタイトルだったとか)を読了しました。

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さすがハイスミスですねぇ。やたらめったら面白い。

主人公テレーズが美しい人妻キャロルと出会い恋に落ちる物語なんですが、ハイスミスらしく全編に常に不穏な空気が漂っていて、読んでる間ずっと宙吊りにされてる感じ。ミステリ作家の歴代1位に選ばれたのも納得の、一大サスペンスですね、これは。

主筋はラブストーリーなんですけど、この先この二人の関係はどうなるのかハラハラしまくり。拳銃が出てきたときなんかはもう「ああ、どちらかが殺されるのか。どっちが殺すのか。やはりテレーズなのか。それだけはダメ!」と架空の人物に心配してしまうほど感情移入しまくり。

そして、ラストは…

これは書かないでおきましょう。

ただ、心が風邪をひいたときは、読み返さないまでも、この『キャロル』の結末を思い出すだけで復活できるんじゃないか。そんな気さえするエンディングでした。もうお腹いっぱい。

トッド・ヘインズ監督によって映画化され、テレーズを演じるのがルーニー・マーラ、キャロル役はケイト・ブランシェットということでおそらくベストキャスティング。賞レースでも堅実な結果を残しており、これは期待できそうです。

本棚には、積読状態のハイスミス本が数冊あります。貪り読みたい気分です。



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