聳え立つ地平線

ありえないものを発見すること、それを写し撮ること、そしてきちんと見せること。

「いつか本を書きたい」と言う人の心性について

前の職場で一緒に働いていた人が、最終日に口走った言葉。

「あたし、いつか本を書きたいと思ってるんです」

他の人たちは、

「すごいねぇ」
「実現するといいねぇ」
「あなたなら書けるよ」

と言ってましたが、私は少しもそういう気にならなかった。なぜなら、その人に「何か書いてるのか」と問うと、「これから」と能天気に答えたからです。

こと「書く」ということに関して私はストイックでかつ厳しいのです。

「いつか本を書きたい」

いつぞや高校の頃の友人もまったく同じことを言ってましたっけ。そのときの私は少しも文章など書けない人間だったから、それこそ前職場の他の人たち同様「へぇ、すごい」と思ったもんですが、いま思えば「そりゃダメだろう」と。

いや、本を書きたい、出版したい、何か形の残るものを死ぬ前に作りたい、その気持ちはわかります。私だってちょっと前まで同じような夢をもってましたから。

でもね、「いつか本を書きたいんです」と本当に思っているのなら、もうすでに書いてますよ。書き終わってなくても書き始めてますよ。どうしようもない内容かもしれないけど、下手糞で読むに堪えない代物かもしれないけど、本当に書きたいなら「書きたい」と口にする前に書いているはず。

文章にかぎらず、何かを作る、というのは、体の内側から湧き出てくる自分でも抑えることのできない強い衝動が発端であって、書きたいなぁ、書けたらいいなぁ、という憧れは結局憧れで終わってしまうのです。

それに、本当に書きたいと思っているのに一行も書けてないなら、「いつか書きたい」なんて恥ずかしくて言えないはず。

何かを作るというのは、「作りたいのに作れない恥ずかしさ」と「作れないけどやっぱり作りたい欲望」とのせめぎ合いなのです。

「いつか本を書きたいと思ってるんです」といった人は、そういうせめぎ合い、胸の内の葛藤が何もないのでしょう。

語彙の多寡、修辞の巧拙、文体の美醜が文章の決め手ではありません。私はこういうことを言いたいのだ、あなたにこういうことを伝えたいのだ、という熱い思いです。

小学校の卒業文集。ある先生が拙い字で熱い文章を書いていました。私は何度も読みました。何度も何度も読みました。感動しました。俺はおまえたちにこういう想いを伝えたいんだ、どうか聴いてほしい、という「熱意」を感じたんです。

文章に「上手/下手」はありません。

あるのは、「熱い/熱くない」だけです。


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リーガ第28節 レアル7-1セルタ(初めてジダンがもたらした勝利)

何だかんだの間に首位バルサと12ポイント差。もう逆転優勝は夢のまた夢。チャンピオンズリーグしか獲れるタイトルがなくなってしまいました。

十中八九勝ち抜けと思われるローマ戦ですが、油断は禁物。ダービーで少しもいいところなく負けてしまったから、結果だけでなく内容も求められる試合で、ジダンがいい仕事をしたと思います。

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クリスティアーノ・ロナウドの久々の「魔球」が見れたし、フリーキックでのゴールもありました。マン・オブ・ザ・マッチは当然ロナウド。

でも、チームに勝利をもたらしたのはジダンだと思うんですよね。

3節前のマラガ戦では、前半先制して、そのうち追加点が入るだろうと思っていたら逆に同点弾を食らって引き分け。
ダービーでも前半はアトレティコの良さを消して自分たちのペースで戦っていたにもかかわらずそれで満足してしまい、そのうち点が入るだろうと思っていたら逆にグリーズマンにやられてしまいました。

ベニテス時代からそうですが、いまのレアルは「そのうち…」という病に侵されてると思ってました。

今日は悪い流れから41分にコーナーキックからペペのヘディングで先制。いつもならここで安心してしまって後半「そのうち…」と思っているうちに同点弾を食らい、慌てふためいているうちに試合終了、という最悪のパターンを繰り返していたはず。

しかし今日は違いましたね。

メンバーは変えませんでしたが、後半頭からボールもってる選手へのプレスが速いし強い。奪ったらすぐに前線へ。もしくはサイドに散らして、受けた選手は中へ入り、サイドバックはフリーランニングでどんどん追い越し、という前半に見られなかった守から攻への切り替え、さらに攻撃の速さに違いが見られました。間違いなくジダンの指示でしょう。

それが顕著だったのが、7点のうち唯一相手守備を完全に崩した4点目だと思うんです。速い寄せからカゼミーロがインターセプト→ルカス・バスケス→イスコ→ロナウドと、少ないタッチと短いパス回しで奪った素晴らしい得点でした。ロナウドの魔球もすごいけど、私はああいう「チームで獲るゴール」を見たい。

あと、スタメンからしていいと思いましたよ。

マルセロ、ベイルが招集メンバーに復帰したものの、無理をさせずに先発から外し、逆にマラガ戦で左サイドバックとして大活躍だったダニーロを起用、さらに前節レバンテ戦で素晴らしい働きを見せたルカス・バスケスを先発起用。功績があれば使うというのは当たり前ですが、ハメス・ロドリゲスという名前より実を取ったメンバー選び。よかったと思います。

まだまだ、選手交代やフォーメーションの変更によって流れを変えるに至ってないのが心配ですが(いままで逆転勝ちってないですからね)カゼミーロのアンカーが板についてきてるし、あくまで4-3-3を採用するなら、カゼミーロ、クロース、モドリッチの3枚を中盤の基本として据えてほしいですね。イスコとハメスは不満でしょうけど。

とにかく、今日は後半頭からのギアチェンジが一番うれしい出来事でした。前述の見事な4点目も相手にゴールを決められた直後ですからね。最近はこちらが決めた直後に獲られることも多かったのに今日は逆。

いい流れに変わってきました。これでローマを撃破し、リーガ優勝は無理でもビッグイヤーを獲得して何とか格好をつけてほしいもんです。



『王様のレストラン』大解剖④(ディレクトール範朝から千石さんへと至る道)



『王様のレストラン』大解剖シリーズ。

①「ヒーロー」は千石さんではない!?
②ヒーローはオーナー禄郎である!
③シェフしずかはヒーローでないのか?

につづく第4弾です。

しずかがヒーローでないことが前回で明らかになりました。
千石さんもヒーローでないことを明らかにせねばならないというか、その前に、これまでまったく触れてこなかった重要人物、オーナー禄郎の兄でディレクトール範朝の「ヒーローズ・ジャーニー=英雄の旅」を考えねばなりません。

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え? 範朝がヒーロー?

はい。
「ベル・エキップ」で最も嫌われている最大の問題児たるこの男もまた英雄の旅を歩んでいるのです。といっても、しずかなどと同じくプチ・ヒーローですけど。

第9話ではこの範朝が主人公でした。
運が悪かっただけの、ちょっと歯車が噛み合わなかっただけの、とてつもなく長い厄年が続いているだけの憎めない悪人、範朝が借金のかたに店の権利書を売り飛ばそうとしたことが店の全員に発覚します。

千石さんはもちろんのこと、従業員全員がクビにすべきだと息巻きます(しずかだけは違いますが)。

が、オーナーであり範朝の唯一の肉親、禄郎は不問に付そうとします。

「何でそういうことに…?」
「だから、根は悪い人じゃないから」

そうです、彼は何も考えておりません。「真心」を尽くしたといえば聞こえがいいですが、禄郎は何も考えずに発言する達人です。

もちろん、範朝が店に残る決心をするのは、禄郎に諭されたからではなく、こっそり逃げようとしていたところを千石さんに説得されるからです。

「範朝さん、自分を信じるんです。あなたが自身が信じてやれなくて、いったい誰が信じるんですか」

いいセリフです。心に染み入ります。

ここで範朝はとても大事な返しをします。

「不思議だなぁ。あんたと話してると親父を思い出すよ」

そうです。いままでまったく触れてきませんでしたが、「ベル・エキップ」という店は、禄郎と範朝の父であり、千石さんの親友だった先代オーナーシェフの店なのですね。

その先代の店を売り飛ばそうとしたんだから範朝はクビになって当たり前。

とは誰も言いません。千石さん自身も「私たちの努力の結晶を売り飛ばそうとした」という言い方をします。

千石さんが再び「ベル・エキップ」で働き始めたのはなぜでしょうか? 禄郎に説得されたからですね。禄郎はなぜ千石さんを? 当然、父親の親友であり伝説のギャルソンと言われた男を参謀としたほうがうまく行くとの確信があったからでしょう。千石さんは「一流のギャルソンはギャラも一流」というのが信条ですが、実際は禄郎の給料(しずかの給料に毛が生えた程度と第3話で範朝が明かします)から払われている。貯金を切り崩さないと生活できない額でしょう。それでもやるのはただ禄郎に説得されたから?

違いますね。あの店が偉大なシェフだった親友の店だからでしょう。三流になった落ちぶれた店をもう一度一流と呼ばれる店にしたいというのが千石さんの野望です。それは禄郎もしずかも他のみんなも一緒でしょう。最初はそんなのどうでもいいと思っていた面々ですが、第8話のしずか移籍騒動では「この店は昔に逆戻りだ」と危機感をあらわにします。すでにみんなは「店のために」働いているのです。

そんななか、範朝は店を自分のものとして売り飛ばそうとした。断罪されてしかるべきだ。

正論でしょう。

しかし、無類のお人よしである現オーナーの「真心」により、彼はそのとてつもなく長い厄年に終止符を打つことができる。
もし禄郎が範朝をクビにしていたら、おそらく彼はどこかで大問題を犯していたに相違ありません。殺人とか強盗とかね。そんな他人様に迷惑をかけるくらいなら、お兄さんの迷惑は僕がかぶるよ、なんて高邁な精神が禄郎にあったとは思えませんが、結果的に禄郎の「何も考えていない人の好さ」が範朝を救います。

「俺には無理だ」とのおそれを抱く英雄の卵・範朝に対して千石さんの「自分を信じるんです」との亡き父を彷彿させる一言によって、範朝はヒーローズ・ジャーニーの暗黒面から一気に上昇気流に乗ることが暗示されます。

範朝を暗黒面から救い上げたのは、何より禄郎であり、禄郎の意を汲んだ千石さんであり、不祥事をしでかしても再び仲間に迎え入れた店の全員でしょう。もちろん、愛人のバルマン政子も大きな役割を担っています。

店を自分のものとして売り飛ばそうとした範朝は、逆にアンチヒーローからヒーローへと生まれ変わろうとしています。とてつもなく長い厄年とは、とてつもなく長いアンチヒーローとしての旅だったのですね。これからはヒーローとしての道だ!

さて…

ここにベル・エキップという店を自分のものと見なしているアンチヒーローがもう一人います。

他ならぬ千石さんその人です。
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続き
⑤アンチヒーロー千石武
⑥最低だが素晴らしい!




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